わたしがいどんだ戦い 1939年

  • 評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784566024540

感想・レビュー・書評

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  • 家に閉じ込められ教育も受けずにいたら、どうやって知識を得ることができるだろう。
    親に愛されずに虐待を受けていたら、どうやって人を信頼する心が育つだろう。 
    そんな境遇で育った11才のエイダの心情が見事に描かれている。

    母さんから逃げたエイダと里親や周りの人々との会話のズレ、頑なさ、疑り深さが繰り返し描かれる。だからこそエイダの体も心も自由になるための葛藤と勇気に胸打たれるのだろう。
    それはまさに戦いだ。

    1939年、英国も戦っていた。
    戦時下の状況を織り混ぜながら、厳しい時代を乗り越えてゆく人々の姿が描かれている。

    エイダと馬との交流は心暖まる。足の悪いエイダが風のように走る馬にどれほど惹き付けられたか、切ないほど伝わってくる。

    (続編につづく)

  • 第二次大戦中のロンドン、右足が生まれた時から奇形で母親から虐待され部屋に閉じ込められていたエイダ。母親がパブで仕事をしている間に歩く練習をし弟のジェイミーと疎開の子どもたちの中に入り込みいなか町へ向かう。やっと決まった引き取り手は、子どもを育てたことがない独り暮らしのスーザンだった。
    教育も受けられず、自分の年齢さえも知らない姉弟。常に暴力に怯え、叩かれまいと頭を抱える。二人のこれまでに少しずつ気付き始めたスーザンも、自分の足りない部分を補いながらぎこちないながらも親子のようになっていくが…

    母親の無知とDV によって苦しむエイダだが、スーザンとの暮らしのなかで本当に自分が求める生き方を探り始める。
    単なる疎開児童と戦争のはなしにとどまらず、深く考えさせられる。

  • 予想以上の面白さに一気読み!舞台は第二次大戦中のロンドン。母から虐待を受ける、内反足の障害を持つ少女:エイダが、弟と共に家を抜け出し、郊外のケント州へ疎開する。彼女が挑んだ「戦い」とは……。
    初めは、暗い内容の物語なのかと思っていた。実際、エイダが置かれていた環境は劣悪なもので、こんなにも虐げられられる必要があるのかと思うほど。そんな彼女がひっそり歩く練習をし、自由を得ようとするそのバイタリティに感服。とはいっても学校にも行けず自分の誕生日すら知らなかった無学のエイダ。環境が変わったことに戸惑い、DVで受けたトラウマが彼女を苛む。
    そんなエイダと弟:ジェイミーを預かることとなった独身女性のスーザン。親友を失った悲しみから立ち直れなかった気難しい彼女が、この姉弟と共に暮らすことで、一皮も二皮も剥けていく。そりゃまぁ曲者同志、何度も衝突するが、元々クレバーな女性であるスーザンが早くにエイダの賢さを見抜き、凝り固まった心をほぐそうと根気よく付き合う彼女の姿勢に心を打たれた。
    ひねくれっぷり全開ながらも、少しずつ周囲に溶け込み心を開いていくエイダの成長の過程が瑞々しい。そんなエイダを気遣いながらも、年相応に無邪気で迂闊な弟のジェイミーがいいキャラクター。うまい具合に場をかき回してくれる。他にもたくさんの魅力的なキャラクターが登場し、ずっとケント州での暮らしが続けばよいのにと思ってしまう。
    それだけに、物語終盤での展開が衝撃的。あまりの衝撃に言葉も出ないが、このたたみかけるようなストーリー展開の巧さには唸らされた。
    母親の酷すぎる毒親ぶり、戦時中の過酷な状況など、読んでいて辛い描写もあるけれど、あたたかくほのぼのする場面も多くあり、非常に読み応えあり。何よりも惹かれるのがエイダの強さ、賢さ!アメリカでは続編が出版されたとか。早く日本でも出版して欲しい!!またエイダに会いたい。そう思えるほど印象に残る一冊だった。

  • エイダは内反足をもって生まれた11歳(というのもあとから判明するのだけど)の女の子。足が悪いために母親にうとまれ、憎まれ、「見苦しい足の怪物め!」とひどいことばを毎日浴びせられながら、狭い自宅の一室におしこめられて暮らしてきた。外へ出してもらったことはなく、当然学校にも行っていない。

    そんなひどい虐待をうけて育ったエイダだけれど、天与の強靱な心を持っていた。ちょうど、5つ下の弟ジェイミー(またいい子なんだ、この子が)が学校にあがったころ、イギリスはドイツと戦争状態になり、ロンドンの子どもたちは爆撃を避けて地方に疎開することに。エイダの母親はむすめを人目にさらす気はさらさらなく、ジェイミーだけを疎開させようとしていたが、エイダは母親が寝ている早朝に、ジェイミーに助けてもらいながら生まれてはじめてアパートを飛び出し、疎開児童の集団にまぎれこんだ……。

    ふたりをひきとってくれたスーザンが、オクスフォード出のインテリ女性で、しかも最近愛する女性のパートナーを亡くしたばかりという、この時代には珍しい人物像なんだけど、子どもを引きとる気がなかったこの人がほんとうにいい人で、不器用ながらもエイダとジェイミーをけんめいに育て、愛してくれる。

    でもエイダは、この暖かく満ち足りた暮らしはほんの一時のものだと思っているので、スーザンの愛情をすなおに受け止められない。やさしくされればされるほど引いて、ときにははげしいパニックを起こしてしまう。そのあたりの、虐待によるトラウマの描写がリアルでつらかった。

    でも、重くて暗いだけの物語ではない。スーザンの家で、ポニーの「バター」と出会ったエイダは、たちまち馬に心をうばわれて、自己流で乗馬をまなび、やがては村のお屋敷の馬丁と仲良くなって、馬の世話のしかたをどんどん身につけていく。馬の描写、自然の描写は、きらきらしていてほっと心が安まる。

    エイダとジェイミー、あるいはスーザンの会話にも、はしばしにたくまざるユーモアがひそんでいて、ときどきくすりと笑ってしまうし。

    屋敷のおじょうさまマギーとの交流や、ダンケルクの負傷兵救助で出会った酒場の娘デイジーとの交流など、エイダが生来の聡明さと心の強さを発揮して、どんどん人とつながっていくのもいい。

    それだけに、母親があまりにもモンスターなんだけど……。でも、こういう親ぜったいいるから。だから、こういう物語がとどくべきところにとどいてほしいと願うのだ。

  • 「一九三九年。二度目の世界大戦さなかのロンドン。足の悪いエイダは、けんめいに歩く練習をしていた。歩けさえすれば、弟といっしょに疎開できる!―自分らしく生きるために戦う少女と、彼女をあたたかく包む村の人たちをえがく。二〇一六年のニューベリー賞次点作。シュナイダー・ファミリーブック賞受賞作。」

  • 内反足で生まれたエイダは母親から蔑まれ、家の外にも出してもらえず歩く手段も与えてもらえない。自分から歩く練習を始めた頃弟が集団疎開で家を出ることを知る。自分はいく対象になっていないと聞かされるが母親に気づかれないように朝早く出発し、弟と一緒に疎開に潜り込むことが出来た。
    兄弟を引き取ったのは自身もパートナーに先立たれ精神的に問題を抱えている様子の女性のスーザン。こどもたちの面倒を見るうちに立ち直る様子が見られ、次第に愛情をかけるようになってゆく。
    エイダは長年の虐待のトラウマからうまく心を開いていくことが出来ない。いつ母親の元に戻らなくてはいけないかという不安と母親に植え付けられた自分に対する否定的な評価から幸せを拒んでしまう様子に、胸をしめつけられる思いがする。
    虐待を受けた子どもの気持ちで描かれた作品はあまりなかったように思う。新境地の素晴らしい作品。

  • ロンドンのアパートの一室でエイダは暮らしていた。足が悪く、それを恥じた母親に閉じ込められ、虐待される日々だった。ところが、ある日、子どもを田舎に疎開させることになり、エイダは弟と一緒に疎開列車に紛れ込む。田舎についた二人は、人嫌いの独身女性スーザンに引き取られることになったが、お互いにとって、なにもかも初めてのことばかりでとまどうばかり。それでも、エイダにとっては、自分の人生を取り戻す戦いがはじまったのだ。

  • 登録番号:0142572、請求記号:933.7/B71

  • 続きが気になる。
    こんな母親いるのか?!

  • 歪みとの戦いとその治癒の話。

    病気や傷は適切な治療を受けないと、精神的にも身体的にも歪ませてしまうけれども、その歪みもまた適切な治療で治癒していくことが出来る。


    マヌケな事に1939と1940を意識せず1940から読んでしまい、訳者あとがきで前編後編に分かれてた事を知った。

    前編は登場人物達が、まだそれぞれの環境や関係に慣れておらず、後編程の爽快感はないにしろ、物語に引き込む文章力は素晴らしい。

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著者プロフィール

1967年アメリカ、インディアナ州生まれの作家。スミス・カレッジで化学を専攻。卒業後、編集者などの仕事をしながら執筆をつづけ、2016年『わたしがいどんだ戦い1939年』でニューベリー賞オナーブック、シュナイダー・ファミリーブック賞等に選ばれる。

「2019年 『わたしがいどんだ戦い1940年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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