世界史を大きく動かした植物

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569840857

感想・レビュー・書評

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  • 絶賛します。題名にあるように世界史と植物の雑学として面白いだけでなく、幅広いジャンルの「点(=知識)を線で繋いであっと驚く立体(=教養)に変えてくれる」手品的な喜びにあふれた一冊。
    イネ科の植物がいかに動物に食べられないように自分の食物としての魅力を減らしているか、食べられても生き延びられるように進化したか。逆に、いかに動物がイネ科しか食べられなくても生き延びられるように進化したか。
    稲作が水田というシステムで行われたことによって、日本の人口がいつどのような地形にどの程度分布できたのか。地域によって異なる味噌のつくり方が何に由来するのか。
    米と大豆の組み合わせがどのように完全食だったのか(つまり、日本で肉食が必要でなかった理由は何か)。逆に、小麦やジャガイモがそれだけでは栄養素として不足し肉と組み合わされなければならなかったヨーロッパの食事バランスや、それでまかなえた人口(及び人口密度)の背景。その肉を保存し美味しく食べるための胡椒が招いた東方貿易。
    違う植物なのにその胡椒と同じ言葉(ペッパー)を含むトウガラシ(ホットペッパー)は何が胡椒と同じで何が違うのか。同じペッパーの別種類であるかのように名付けなければならなかったコロンプスの事情。
    トウガラシが、植物の中では珍しく、甘くない赤い実をつけている理由。
    イギリスでコーヒーに変わって紅茶が飲まれるようになった理由と、アメリカで紅茶に変わって薄いコーヒーが飲まれるようなった理由。
    ヒトが茶やコーヒー、トウガラシに依存症的に惹かれてしまう生物的な理由。
    静岡県がお茶の名産地になった背景とトヨタやスズキが三河遠州で創業した理由の共通点。

    などなど、挙げてもあげてもキリのない立体的な「へぇ、そうなんだ、それってすごいことやなぁ〜」が次から次への繰り出されて息をつく暇もないくらい。

    2010年にスティーブ・ジョブスがiPadを発表した時に「テクノロジーとリベラルアーツの交差点」という言い方をしていたけれど、本書はまさにそれを取り上げた一冊と言える。
    胡椒と肉。米と水田。綿と織機。ジャガイモと栽培。とうもろこしと加工。
    ドキドキワクワクが止まりません。

  • 13種類の植物を取り上げ、それぞれの植物と人類との関わりの視点から世界史を紐解いている。
    植物という自然側からの視点で、世界史を見るのは新鮮で、より立体的に世界史を感じることができた。そして何より、人類の生活に対する考え方が変わった。

    特に興味深かったのは、イネやコムギ、トウモロコシといった穀物の章。人類の文明には、それを支えた作物があり、それぞれの大きな文明と主要な穀物の農業はセットだった。
    人類は、砂漠に水路を引き、そこに種子を播いて育てることで農業をスタートさせ、保存が可能な穀物は、「富」を生み出し、社会や争いを生み出していった。
    現代では、その植物の起源地ではない場所に運ばれ、栽培されている作物が多い。和食に使われる食材も、もとを辿れば、海外にルーツをもつものばかりだ。一見人類が好き勝手に植物を支配しているようにも感じるが、実は支配されているのは人類の側なのだと思えてくる。


    「恵まれた地域の方が、農業は発達しやすいように思うかも知れないが、そうではない。農業は安定した食糧と引き換えに、重労働を必要とする。農業をしなくても十分に食糧が得られるのであれば、農業をしない方が良いに決まっているのだ。」

    「栽培作物は、人間たちに世話されて、何不自由なく育っている。そして人間は、せっせと種をまき、水や肥料をやって植物の世話をさせられているのである。そのために、人間の好みに合わせて姿形や性質を変えることは、植物にとっては何でもないことなのだろう。人間が植物を自在に改良しているのではなく、植物が人間に気に入るように自在に変化しているだけかも知れないのだ。」

  • 14種類の作物のお話。
    小麦、稲、胡椒、唐辛子、じゃがいも、トマト、綿、茶、サトウキビ、大豆、玉葱、チューリップ、とうもろこし、桜。

    アンデス原産のじゃがいもがヨーロッパで広まるときの君主の奮闘ぶりが意外や意外でおもしろい。
    マリー•アントワネットの『パンがなかったらケーキを食べなさい』発言が、話者も(本当は叔母)対象物も(本当はブリオッシュ)相対価格も(本当はパンの半分の価格の食べ物)、全てがでっち上げの捏造あおりネタで、実際のマリーは、コスパのいいじゃがいもの普及に努め、国民を飢饉から救おうとしたのだとか。

    P217 あとがき
    もし、地球外から来た生命体が、地球のようすを観察するしたとしたら、どう思うだろう。地球の支配者は作物であると思わないだろうか。そして、人類のことを、支配者たる作物の世話をさせられている気の毒な奴隷であると、母星に報告するのではないだろうか。
    人類の歴史は、植物の歴史かも知れないのである。

  • 1ページ目からずっと面白い!
    「生き物の進化の理由」や「歴史のなぜ」を12の植物の視点から説明する

    ジャレド・ダイヤモンドの「銃•病原菌•鉄」と同じように知的好奇心をくすぐられる。歴史という大きな物語を、ひとつの視点で見つめることの面白さを味わえた

  • 繁殖し分布を広げるための植物の知恵に、人類は利用され翻弄されてきた。
    人類は植物の栽培を試み、農耕を始め、富を生み出し、そして貧富の差が生まれた。富を産み出すために生涯を掛けて働き続けなければならなくなった。
    地球外生命体が地球のようすを観察したら、人類は支配者たる作物の世話をさせられている気の毒な奴隷だと思うかも知れないという。
    おもしろい視点で書かれている。
    紅茶を手に入れるためのアヘン戦争。棉花栽培のための奴隷貿易。サトウキビのための植民地。じゃがいも裁判に至っては失笑。
    人類は地球外生命体からみたら、愚かしい哀れな生き物に見えるのだろうな。

  • タイトルにもある通り、本作は主に食物(植物)を取り扱います。

    やや劇的なタイトルではありますが、確かに歴史にインパクトのあった食物がフィーチャーされています。

    列記しますと、コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャ、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、サクラ、となります。

    ・・・
    何が良いかというと、やはり稲垣先生の徹底的な植物好き、植物に関する深く広い知識が面白くてよいですね。

    植物の生態だったり形状だったり進化の理由とかを説明しちゃう。そしてそれがまた非常に合理なのでついつい「へぇー」となる、という感じです。

    例えば、イネ科の植物について。イネ科の葉は全般に繊維質が多く、消化しづらいそうですが、これは葉っぱを食べられにくくするためだそう。また成長点が地面スレスレにあり、それより上の茎が動物に食べられても成長点から再び生えてくることが出来るそうな。
    って、世界史とは関係ないのですが、こういう「ちなみに、」的な話の方が印象深かったりします笑

    こうした実った種は、単なる食糧であるに留まらず、将来の収穫を約束してくれる財産、分配可能な余剰、富ともいえるとし、貨幣経済の黎明とも連結していることをほのめかしていらっしゃいます。これまた「大きな」はなしなのですが私はこういうのが好き。

    ・・・
    それから、農業についての逆説的な説明も面白かったですね。

    農業は重労働で、食物が豊かなところでは行われないという話。例えば稲作は弥生時代に九州に伝わり、東海地方まで瞬く間に広がったとされますが、東北地方にはあまり広まらなかったそう。これは稲垣先生がいうには「縄文時代の東日本は稲作をしなくても良いほどゆたかだったから」(P.35)とのこと。

    東日本では西日本の10倍の人口密度があり、それを賄える豊かな食物が自然の中で手に入れられたとのこと。確かに東北や北海道に多くの縄文時代の遺跡がある話を思い出しました。

    なお上記イネについての話が印象に強かったのですが、それ以外にもピーマンとかトウモロコシの話も面白かったですね。

    ・・・
    ということで稲垣先生の著作でした。

    途中、あっという間に終わってしまう章もあり、何だか編集者に乗せられて書いたのか?みたいな素人の勘繰りをしてしまう所もありますが、植物についてはどれも詳しく、面白かったです。

    故に、広く浅くで読むのには丁度よい書籍かと思います。

    逆にもっと深堀りして歴史の移り変わりを知りたいかたは、よくある「〇〇の歴史」「○○の世界史」みたいな本を購入されたらよかろうと思います。

    食べ物好き、うんちく好きにはお勧めできる一冊。

  •  恵まれた場所の方が、農業は発達しやすいと思うかも知れない。しかし、実際にはそうではない。自然が豊かな場所では、農業が発達しなくても十分に生きていくことができる。たとえば森の果実や海の魚が豊富な南の島であれば、厳しい労働をしなくても食べていくことができる。(p.28)

     イネはムギなどの他の作物に比べて極めて生産性の高い作物である。イネは一粒の種もみから700〜1000粒のコメがとれる。これは他の作物と比べて驚異的な生産力である。(p.43)

     唯一足りない栄養素は、アミノ酸のリジンである。ところが、そのリジンを豊富に含んでいるのがダイズである。そのため、コメとダイズを組み合わせることで完全栄養食になる。ご飯と味噌汁という日本色の組み合わせは、栄養学的にも理にかなったものなのだ。かくしてコメは日本人の主食として位置づけられたのである。(p.44)

     一般に作物は連作することができない。イネのように毎年、栽培することができるというのは、じつはすごいことなのである。しかも昔はイネを収穫した後に、コムギを栽培する二毛作を行なった。ヨーロッパでは3年に一度しかコムギが栽培できないのに、日本では一年間にイネと小麦を両方、収穫することができたのである。(p.55)

     そもそも人間の味覚は、生きていく上で必要な情報を得るためのものである。たとえば苦味は毒を識別するためのものだし、酸味は腐ったものを識別するためのものである。また、甘味は、人間に進化する前のサルが餌としていた果実の熟度を識別するためのものである。ところが、舌には辛みを感じる部分はないのだ。
     それでは、私たちが感じるトウガラシの辛さはどこからくるのだろう。
     じつは、カプサイシンは舌を強く刺激し、それが痛覚となっている。つまり、カプサイシンの「辛さ」とは「痛さ」だったのである。そこで、私たちの体は痛みの元となるトウガラシを早く消化・分解しようと胃腸を活発化させる。トウガラシを食べると食欲が増進するのは、そのためなのである。(p.76)

     トウガラシは、種子を運んでもらうパートナーとして動物ではなく鳥を選んだ植物である。鳥は大空を飛び回るので、動物に比べて移動する距離が長く、より遠くまで種子を運ぶことができる。また、鳥は果実を丸飲みするので、動物のようにバリバリと種子を噛み砕くこともないし、動物に比べると消化管が短いので、種子は消化されずに無事に体内を通り抜けることができる。(p.79)

     イギリスではスパイスを組み合わせてカレー粉を開発した。このカレー粉の発明によって、カレーは簡易にできる料理になり、イギリスの船乗りたちは、日持ちのしない牛乳の代わりに保存性の高いカレーパウダーを利用してシチューを作った。このシチューに、航海職として欠かせなかったジャガイモが入れられたのである。(p.106)

     タマネギは球根であるが、実際には根ではない。この部分は、植物学では「鱗茎」と呼ばれている。つまり、ウロコ状になった茎という意味なのである。しかし、実際には茎でもない。私たちが食べるタマネギは、実際には「葉っぱ」の部分である。タマネギを縦に半切りすると、一番下の基部の所にわずかに芯がある。これがタマネギの茎である。この茎から重なり合って出ているのが葉である。タマネギは乾燥地帯で生き抜くために、この葉の部分を太らせて、栄養分を蓄えているのである。(p.180)

  • 978-4-569-84085-7
    C0045\1400E.

    発行所:PHPエディターズ・グループ
    発行元:PHP研究所
    タイトル:世界史を大きく動かした植物
    2018年7月2日 第1版第1刷発行
    著者:稲垣栄洋(いながき ひでひろ)
    とびらより
    私たちは、植物の手平の上で 踊らされているのかもしれない・・・。
    ---------------
    目次より
    はじめに
    小麦 一粒の種から文明が生まれた
    イネ 稲作文化が「日本」をつくった
    コショウ ヨーロッパが羨望した黒い黄金
    トウガラシ コロンブスの苦悩とアジアの熱狂
    ジャガイモ 大国アメリカを作った「悪魔の植物」
    トマト 世界の食を変えたアカすぎる果実
    ワタ 「ヒツジが生えた植物」と産業革命
    チャ アヘン戦争とカフェインの魔力
    サトウキビ 人類を惑わした甘美なる味
    ダイズ 戦国時代の軍事食から新大陸へ
    タマネギ 巨大ピラミッドを支えた薬効
    チューリップ 世界初のバブル経済と球根
    トウモロコシ 世界を席巻しる驚異の農作物
    サクラ ヤマザクラと日本人の精神
    終わりに
    参考文献
    ---------------
    毎日毎日 米を食べない日は無く、季節によっては庭の雑草に業を煮やす。
    愛するチューリップも苦手で格闘する大豆製品の納豆も、たった今もその香りを楽しんでいるコーヒーもこんな植物だったのかと・・。
    身近な植物の事がたくさん書かれていました。

    著者さんは教授で、博士で学者で親人で研究所員。
    毎日専門の言葉の中で暮らしているだろうに、全くの素人にもわかり易い簡単な言葉で表現されていて読み進めるに困難は無く、充分楽しめました。
    こんな興味深い事を日本語で、同じ文化を持つ人の言葉でダイレクトに読めて幸せ。


    イネ科の単子葉類の草むしりは成長点を残さないようにしなくては。デス

    あまりにも興味深かったので稲垣英博氏の別の本もさっそく手を付けておりますw

    ※内容抜粋あり

    参考文献は※メモに在り

    参考文献が30冊以上。これだけの書籍の面白いところをサクッと読めた一冊でした。

  • 新聞の書評欄で見て図書館で予約、なかなかの人気のようだが、とても軽い読み物。そして不正確な記述があちこちにあるのが気になって気になって。この人、植物学者であって歴史や文化方面には詳しくないようだ。

  • 今年度はどうやら「社会科」に興味があるようで、歴史、地理、政治、経済などにまつわる書物を主に読み耽っております。
    こちらは、いくつかの食材になる植物を題材にザッと「社会科」が学べる作品でした。
    イネとかコショウとか…どのような質で、どこから来たのか、どんな国を渡り歩いてポピュラーになったのか。この植物たちと人間の関わりとは、など。
    とても身近な食材ばかりなので、改めて見直す機会にもなりました。

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著者プロフィール

稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ):1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する記述や講演を行っている。著書に、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』(ちくま文庫)、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか』『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』『ナマケモノは、なぜ怠けるのか』(ちくまプリマー新書)、『たたかう植物』(ちくま新書)など多数。

「2023年 『身近な植物の賢い生きかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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