メルケル 仮面の裏側 ドイツは日本の反面教師である (PHP新書)
- PHP研究所 (2021年3月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569847139
作品紹介・あらすじ
さらば、破壊者メルケル。止まらない景気後退、移民による治安の悪化、イギリスのEU離脱。頭でっかちの理想と理屈が悲劇を招いた
感想・レビュー・書評
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「ベルリンの壁の崩壊とともに彗星のように現れ、時のコール首相にその才を見出され、東西ドイツの統一とともに出世階段を駆け上がり、今や9年連続で「世界で一番影響力のある女性」に選ばれ続けている稀有な政治家、2021年秋に引退予定のドイツ、メルケル首相。本書は、その生い立ちからして謎の多いメルケル首相がいったい何者なのか、批判的に謎解きをした書。
メルケル首相は、この16年の治世の間にドイツを大きく変えてしまったという。著者によれば、その「変化は3つだ。社会主義化、中国との抜き差しならない関係、そして、誤解を恐れずに言うなら、ソフトな全体主義化。つまり、反対意見が抑え込まれ、活発な討議ができない雰囲気がいつの間にか出来上がりつつある」という。
メルケル首相は、保守党の党首でありながら、権力を掌握すると、いつの間にか思いっきり左寄りの政策をとり、保守党を弱体化させてしまった(一方、中道左派SPDはCDUとの政策の違いが出せずガタガタ、新たな保守勢力AfDの台頭を許した)。しかも本人の個人的な人気は高まるばかり。どうやらメルケル首相は、東ドイツ時代から、元々自由主義・資本主義よりも人々の平等を胸とする社会主義を信奉していて、CDU(保守党)の党首に登り詰め、権力をしっかりと掌握するまではその本性を隠し、保守の振りをしていたようなのだ。
確かに、メルケル首相のこれまでの毀誉褒貶ぶり、こう考えるとよく理解できる。国民の喝采を浴びながら、脱原発や難民受け入れ、同性婚合法化など、本来産業界寄りであり、伝統的価値観を重んじるはずの保守党とは真逆の、緑の党のような過激な政策を次々断行しているのだ。しかも国民の喝采を浴びながら。アメリカで言うと、ちょうどサンダースのような立ち位置なのだという。メルケルさんは確信犯なんだな、きっと。
脱原発に舵を切って「以来メルケルは、傍から見ていてもはっきりと、国民が好む政治に専念していく。それは、言い換えれば、社会主義的な、企業を敵に回す政治だ。保守党の党首で、保守の顔をしながら、彼女は保守にはっきりと見切りをつけた。それはすなわち、ポピュリズムと言い換えることもできた」、と著者の筆は辛辣だ。個人的には、(やり過ぎの移民政策はさておき)庶民に優しい社会民主主義的政策自体はいいと思うのだが。
メルケル首相が何をしても、マスコミや国民から責められることはない。絶対的権力を手にしたメルケル首相。著者は、その力の源泉は、メルケル首相が作り上げた、彼女の言動に対して何も言うことができない "空気" なのだという。温和で理知的なメルケル首相の風貌からはうかがい知れない強かさ/抜け目なさ。いくら庶民に優しい政策をとり続けているからといって、誰もメルケル首相を批判できない雰囲気にしてしまったのは、さすがにやり過ぎだろうな。ドイツは立派なリーダーに率いられていて羨ましいなあ、と思っていたが…。
メルケル首相の後継者は誰になるのか、あるいは大どんでん返しのメルケル首相続投もあり得るのか、今年9月26日のドイツ総選挙、注目したい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
■ Before(本の選定理由)
なんとなく「有能な政治家」という印象のメルケル。
どんな人なのだろう。
■ 気づき
東ドイツのルーツ、党内での駆け引き?など割と波乱万丈。一番感じたのは、著者はメルケル嫌いなんだろうな、ということ。
■ Todo
メルケル自身の著書も機会があれば手を出してみたい。
原発以外のテーマにしたい。 -
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仮面の裏側、がよく読み取れなかった。ドイツの近年の与野党の政治体制が語られてたに過ぎず、といった読後感。
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Audibleで読了
日本からの印象とはだいぶ違ってるメルケルの一面を見ました。ただ作者の思い込みも多分にあるように感じたのは仕方ないかな。
この本の後に起こったウクライナ侵攻からのガス停止で更にメルケルの決断が誤っていたことが明らかになりましたね。しかし、その決断が数量的なモノであるのならば説明つくのですがメルケルの真の信念(推察)からなのであれば、正規の大失策。しかしドイツには大衆の母であるメルケルを批判する土壌がないと。
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面白かった。
筆者の想像のところも多かったのでそこには留意が必要だが、事実のみでなく、(想定も含めた)政治家たちや民衆の感情の機微がストーリーを作っていて読みやすかった。 -
欧州、特にドイツの脱炭素政策に鋭い警鐘を鳴らしてきた著者が綴ったメルケル前首相の半生。
東日本大震災を機に行った反原発への大転換や新型コロナ対応での財政的大盤振る舞いは、実は彼女が内に秘めてきたリベラル的傾向が一気に現れたのではないかとの論考の是非は判断できないが、著者の肌で感じた仮説として説得力がある。
東独出身でありながら国母の地位を築き上げ、保守政党を率いながら国家を意図的にリベラル展開させたのだとすれば、恐ろしい手腕と言わざるを得ない。 -
突然の脱原発、ギリシャに嫌われたドイツ。