小説の読み方 (PHP文芸文庫)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569902197

作品紹介・あらすじ

『罪と罰』『ゴールデンスランバー』『蹴りたい背中』など11作品を題材に、小説をより深く楽しく味わうコツを、わかりやすく解説。

感想・レビュー・書評

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  • 【読もうと思った理由】
    前回、同著の「本の読み方」を既読済であり、シリーズ第2弾ということで、元々読むつもりで既に購入していた。前作から得た知識として、「助詞・助動詞に着目する」や、「接続詞に注意する」や、「書き出し(冒頭文)に作者はこだわる」など読書の際は、今までより、少しでも理解力が上がるように、自分で出来ることは実施していた。今回さらなる小説を読む際の知恵をアップデートするため、読むに至る。

    【本書の概要】
    大きくは2部構成になっており、小説を読む際のポイントを明示してくれる、どちらかと言えば、実用書に近いと感じた。
    1部は、小説を読むための準備として、「そもそも小説とは?」から始まり、小説を読む際のテクニックや、注意点を具体的に示してくれている。2部は実際の小説を元に、1部で紹介したテクニックをどう活用するかを詳細に説明してくれている。

    (1部の概要)
    ・世の中のことを「小さく説く」もの
    ・小説を「4つの質問」から考えてみる
    ・小説が持っている時間の矢印
    ・「知りたい」という欲求と「主語」「述語」
    ・「究極の述語」への長い旅
    ・大きな矢印は無数の小さな矢印の積み重ね
    「主語」になる登場人物
    ・話の展開が早い小説・遅い小説
    ・述語に取り込まれる主語
    ・期待と裏切り
    ・事前の組み立てと即興性
    ・愛し方に役立てる

    (2部の概要)
    ・ポール・オースター 「幽霊たち」
    ・綿矢りさ 「蹴りたい背中」
    ・ミルチャ・エリアーデ 「若さなき若さ」
    ・高橋源一郎 「日本文学盛衰史 本当はもっと怖い『半日』
    ・古井由吉 『辻 半日の花』
    ・伊坂幸太郎 「ゴールデンスランバー」 
    ・瀬戸内寂聴 『髪 「幻」』
    ・イアン・マキューアン 「アムステルダム」
    ・美嘉 「恋空」
    ・フョードル・ドストエフスキー 『罪と罰』
    ・平野啓一郎 「本心」 

    【内容】
    小説を読む際の指南書として、かなり実用的で且つ、純粋に楽しめる本だ。
    「小説とは?」に対する筆者の考えは、「具体的で、生き生きとしていて、滑稽で、かなしくて、胸が躍るようで、切なくて、美しくもあり、また馬鹿馬鹿しくもある、感動的な話が人間にはあるはずだと信じること。そんなしゃくはちばった言葉では、到底掬い取れないような現実が、人間にはあるのだと信じること。それが、小説が求められる理由だろう」と語ってくれている。 流石、売れてる作家さんは、説得力が一般人とは全く違うことを、この文章で知らしめてくれる。

    また「小説とは?」という問いに森鴎外が、解答を示してくれていた。「何をどんな風に書いても良い。」と言っており、自由に書きたいことを書くことにこそ、意味があると明示してくれている。

    〈知りたいという欲求と主語、述語〉
    そもそもの話、人はどうして小説を手に取るのか?→それがどんな話か知りたいからだ。
    この知りたいという欲求こそが、ページを捲らせる原動力であり、「先を知りたい」という気持ちの根底には、最後まで辿り着いて、全体を知りたいという欲求がある。

    私たちは、世界の圧倒的な情報を全て処理することなど到底出来ないし、する必要もない。そのうち極一部を取り出しては、「これは……だ。」という一本の時間の流れの中で処理できる形に整理し、なるほどそうかと納得して、次の情報に取り掛かるということを繰り返している。それを可能としているのが、主語+述語というワンセットが基本となっている文法の仕組みだ。

    古典文学の新訳ブームの中で注目された「カラマーゾフの兄弟」を例にとる。小説もまたこの世の中に掃いて捨てるほど溢れかえっているモノの一つであり、「カラマーゾフの兄弟」というタイトルもまた、その時点では、方向性を持たない、単なる単語に過ぎない。しかし、何かの拍子に、この「カラマーゾフの兄弟」に興味を持ち、1ページ目の文章に目を落とす。この最初のささやかな行為の一瞬こそが、「カラマーゾフの兄弟」という単語に「は」という助詞をくっつけて、主語を作る作業なのだ。『「カラマーゾフの兄弟」は、……だ。』という〈矢印〉を持った文法構造の中に引っ張り込まれ、絡め取られることになる。当然、隠された「……だ。」が知りたくなる。プロットというのはこのタイトルを主語とした究極の一文の述語「……だ。」に至るまでの〈大きな矢印〉のことである。私たちはこの矢印の案内に従って、泣いたり笑ったり、考え込んだりしながら、最後の一行まで目指す。そして最後のページを閉じた時に『「カラマーゾフの兄弟」は、……だ。』という自分なりの述語が得られればゴールである。例えば、『「カラマーゾフの兄弟』は、ドストエフスキーの最高傑作だ」、「父殺しの小説だ」、「人間の絶望と希望を死に物狂いで描いた物語だ」、「圧倒的な言葉の世界だ」と、そこにはありとあらゆる述語が当てはまる。

    →(感想)そうか、最初は好奇心から始まり、興味を持って読み始めれば、最後は自分なりの答えを求めるために、読んでいるんだと腑に落ちた。
    これでも本書のほんの一部分の抜粋だ。結構小難しく感じるところも多々あるが、56〜57ページにこう書いてある。以下を読んでやっぱり基本は楽しんで読まないとなぁと原点に帰る。

    『本書では前作「本の読み方」同様、あるいはそれ以上に小説の分析的な読み方について、多くのページが割かれている。それについて、本とはもっと、感情を揺さぶられながら読むもので、考えるよりも、感じることのほうが、優先されるべきではといった疑問を抱く人もいると思う。基本的には私も同意見だ。自分が小説を読むときには、やっぱり感動しながら読みたいし、自分の小説を読んでもらうときには、なおさらだ。』

    【感想】
    小説に関しては、以前はエンタメ小説(純文学以外)を中心に読んできたし、特段それが悪いこととも思っていなかった。だが以前、ある純文学好きの方から言われたことで、ハッとしたことがあった。「純文学の良いところは、すぐにその小説を理解できないところが良いんだ。理解できないから、なんとか理解しようと複数回読んだりする。それでも理解できないと、同じ作者の別の作品やエッセイを読んだりして、その作者のバックボーンや、普段何を考えているかを理解しようとする。それから時が経って、もう一度その作品を読むと、以前とは違った感想を持てるようになる。その瞬間が自分が向上できたような気がして、純文学はそこが良い」と。

    この話をきっかけに小説に対する向き合い方が変わった。今までは、小説はあくまで娯楽で、数時間をかけてもし理解できなければ、その時間が無駄になってしまったような気がして、時間が勿体ないという思いが大半を占めていた。だがこの話を聞いてから、「小説を読んでも勉強になるし、理解力向上に役立てる」とパラダイムシフトできたことが、何よりも自分にとって収穫だった。

    今回この本を読んで最大の収穫は、古井由吉氏の作品との出会い(再会)だ。古井由吉氏のことは、平野啓一郎氏も「小説家が尊敬する小説家」と形容している。
    実際一部抜粋の「辻 半日の花」を読んで、まず最初に「なんだこれ、すごく日本語が綺麗だ」と素直に感じた。今まで一度も出会ったことがない程に、一種文体だけで感動すら覚えるほどの精緻な文章だ。こんな作家さんがいたんだ、と。あれ?けど、この名前以前どこかで聞いたような、どこだ?
    あっ!思い出した。以前、伊坂幸太郎氏が編者として刊行したアンソロジーの「小説の惑星 ノーザンブルーベリー編」だ。
    そのアンソロジーでは、古井由吉氏の作品は「先導獣の話」という短編を載せていた。
    この本読了後すぐに「小説の惑星」を本棚から引っ張り出してすぐに読む。
    伊坂幸太郎氏が編者あとがきで、『「完璧な小説は?」と聞かれれば、「先導獣の話」を上げるかもしれない』と書いている。
    以前この短編を読んだ時は、全く印象に残っていなかった。だが今回は、同著の作品で感動を受けるほどの衝撃だったので、以前読んだ時よりは、読解力や理解力が上がったのかなと感じられ、少し嬉しくなった。

    【雑感】
    小説家(平野啓一郎氏も)の方もそうだし、ある程度小説を読んだ方ほとんどが、ドストエフスキーを絶賛しているなぁとつくづく思う。
    まだ僕は「罪と罰」しか読んでないが、やはりどこかのタイミングで、ドストエフスキー5大長編の残り4作品(カラマーゾフの兄弟、白痴、悪霊、未成年)を読まないとなぁと思う。
    ドストエフスキーもそうだが、今読みたい本が沢山ありすぎる。
    元々歴史好きなので、司馬遼太郎氏の文庫になってる作品は全て読んでみたいし、今ハマって読んでいる古典(哲学・古典文学)を、光文社古典新訳文庫で有名どころは押さえたいし、今村翔吾氏は少なくとも文庫化された書籍は読みたい。これだけで軽く200冊以上はいくんだろうなぁ。
    読む優先順位を、そろそろ本気で考えようと思う。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    小説を読む上でのアプローチの仕方がわかる本
    実際の小説を用いての実践編が充実している
    小説家による読み方指南であり、
    大変興味深かった


    ⚫︎感想
    絵画、音楽、芸能…芸術はただ漠然と受け止めて楽しむのもいいだろうが、枠組みをベースに味わうことは、その作品への理解が深まり、自分にとってとても有意義なものになる。一冊の本との出会いを大切にするためにも、読み方を知っておくことは大変有用だと思う。

    一冊の本を読み、「なぜ」と考えることが、その作品や作家と向き合い、自分と向き合う時間となる


    以下勉強になったこと。
    2.4に関しては、意識的に考えていたが、
    1.3については、個人的に意図して深めて考えたことはなかったなと思い、参考になった。

    ⚫︎小説を4つの質問から考える
    1、メカニズム
    作者の提示する一つの世界を動かしている仕組みについて理解しようとする態度で、これまでとは違った感動を味わえる

    2.発達
    1人の作家を追い、その作家のテーマの発展や変化の過程を追うと、気付きがある

    3.進化
    社会の歴史、文化の歴史の中でのその作品の位置付けを考える。

    4.機能
    作者が伝えたいこと、読者が受け取るもの。その小説が、作者、読者双方に向けて持っている機能について考える。本のジャンル分け(ミステリー、ホラー、SF、恋愛…)は、この「機能」を単純化して示したものである。「この小説は、読者に対してどんな意味を持っているのだろう」「自分は、この小説と出会ったことで、どう変わっただろう」「作者は、この小説でどんな考えを深めたのだろう」…そうした小説のふるまいを考えるのが機能の問題

    これら4つのアプローチから批評をするとわかりやすく、どういう点に着目して議論しているかがよくわかる。

    ⚫︎知りたいという欲求と主語+述語
    ⚫︎究極の述語への長い旅
    ⚫︎大きな矢印は小さな矢印の積み重ね
    ⚫︎主語になる登場人物
    主題や主役が際立つように工夫する。
    (絵画と似ていると思った)
    ⚫︎話の展開が早い小説、遅い小説
    「主語充填型述語」と「プロット前進型述語」
    ⚫︎述語に取り込まれる主語
    主語が人物像を他の登場人物や出来事によって補填される
    ⚫︎期待と裏切り バランス
    ⚫︎事前の組み立てと即興性
    ⚫︎愛し方に役立てる

  • 第一弾の「本の読み方」では、スローリーディングについて語られていたが、第二弾のこちらは、小説の仕組みについて語られていた。小説を書く人、書いたことのある人が読むと、新しい視点や面白い試みなどが得られると思う。

    前作の方は高校生にもおすすめしたいが、こちらは高校生では少し難しいかもしれない。それだけ小説が複雑で深みのあるものなのだと感じた。

    ・四つの質問
     1.メカニズム(小説の仕組みはどうなっているか)
     2.発達(その作家の人生のいつごろの作品か)
     3.進化(社会・文学の歴史的にどんな意味を持つか)
     4.機能(作者意図と読者の意味づけ、小説の振る舞いはどうか)
    ・主語になる登場人物と、最終的な着地点としての大きな述語
    といった、第一部の大きな枠組みの説明に始まり、第二部では作品を取り上げての解説となる。

    難しくはあるが、読んでいてなるほど、と思わされることが多くてためになった。国語の授業などでいかせたら面白いと思う。

  •  「小説読んだら深い感想を書けるようになりたい」そんな思いで本書を手に取った。本の読み方に関する本はたくさんあるが、小説の読み方に特化した本は少ないので貴重。また著者が現役の小説家なので説得力がある。

     本書の重要キーワードでもある「四つの質問(メカニズム、発達、機能、進化)」が目から鱗だった。これを知れただけでも読んだ価値がある。本だけでなく映画を見るときにも役立ちそうなので汎用性が高い。

     今後読書や映画を見る際、四つの質問を意識して鑑賞後のアウトプットに活かしていきたい。また、他人の感想を見るとき「どの質問に重点を置いてるか?」を考えるのも楽しそう。

  • 小説を読む時は、メカニズム、発達、機能、進化、この4つを意識して読む。

  • 小説を丁寧に読むことの具体例が、様々な小説を題材に説かれた本。
    プロットに沿って、述語が主語を補填していく様の多様なあり方を、小説家ならではの視点から共有してくれる。

  • 小説は好きなように読めば良いとは思いつつ、読解力に自信がない私は本書を手にとった。

    やっぱり読んでよかった!

    小説って、こんなに深く読めるんだと衝撃の連続だった。

    特に、私の好きな伊坂幸太郎のゴールデンスランバーの解説は、深すぎ!と思わず唸った。

  • 小説を読んだあとの読後感を上手いこと言語化することに憧れてこの本を読んだ。本のセレクトもジャンルごとに名作を選んでいたので自分があまり読まないジャンルの小説にも興味を持つことができた。また、小説内での登場人物、そして自分自身の感情をうまく捉えることができるようになったと感じる。

  • 登場した主語に対して、どんな述語が続くのだろうという期待感が持続することが重要
    いじめられて苦しかったのさ分かる。しかし、どうして自殺や殺人という方法を選んでしまったのだろう?他にも選択肢はたくさんあったはずだ。他人に対する「決めつけ」を注意深く回避する。
    小説家にはとにかく書き続けるという無闇な態度が、どうしても必要なのではないか。

  • 小説を読み慣れてないので、手に取った1冊

    小説の読み方について学んだ

    4つの質問 ニコラス・ティンバーゲン
    ①メカニズム②発達③機能④進化

    プロット前進型述語

    主語充填型述語

    トピックが何か
    今はどんな方向で矢印が進んでいるか
    やっと、平野啓一郎さんの「本心」が読める
    そして、分人も読み直そう

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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