ガラスの殺意

著者 :
  • 双葉社
3.74
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本棚登録 : 602
感想 : 97
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575241129

作品紹介・あらすじ

「憎きあいつを殺したのは……私!?」二十年前に起きた通り魔事件の犯人が刺殺された。警察に「殺した」と通報したのは、同じ事件で愛する両親を失った女性。だが、彼女はその現場から逃げる途中で交通事故に遭い、脳に障害を負っていた。警察の調べに対し、女性による殺害の記憶は定かでない。復讐は成し遂げられたのか、最後に待つ衝撃の真相とは? 驚愕の長編サスペンス・ミステリー!

感想・レビュー・書評

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  • 「私、人を殺しました」
    通報者は高次脳機能障害を持つ女性、柏原真由子。彼女は数分前の記憶を保つ事が出来ない。20年前、通り魔 閤田幹成の手によって両親を殺され、自身も逃げる際に車道に飛び出し車に撥ねられてしまう。記憶障害はこの事故での後遺症だ。その後、車を運転していた事故の加害者 柏原光治と結婚する。

    彼女はメモに残す事で記憶の補填をするのだが、それを復讐心の維持に利用する。だがその行為によってメモを見る度に両親が無惨に殺された事実を知る事となる。これが数分置きに繰り返されるなんて....。心はそんなに強くできているものなのだろうか、考えただけで真由子の置かれた境遇に心が潰れそうになる。
    数分後の自分に向けて「今は幸せです」と一言残せばこの苦しみから解き放たれ一生思い出す事は無くなるのに、彼女はそれを選ばなかった。ここの執念に圧倒されてしまった。
    しかし、私もきっと同じ境遇に立たされたら忘れたくないと願うはずだ。苦しい。真由子に対する同情心で更に潰れてゆく....。
    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    記憶が維持出来ない恐怖を、真由子は障害として、刑事優香は母の認知症と重ね介護の苦しさも同時に表現している。完全なるフィクションに絶妙なリアルが混入していた。
    正直に言うと、ぶっ飛んだ設定を内心面白がり箸休め程度に手に取った作品だった。最初は記憶を無くしては補填する、取り調べや留置所での真由子視点の歩みの遅さにもどかしさすら感じていた。そしてココにそれを愚痴の如く書き連ねる未来の自分も視えていた。...はずだったのだが、恐ろしい程物の見事に感情移入していき、どんどん心臓が圧迫されていく始末だ。久々に読書後に気分が落ち込んでいる。
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    終盤に訪れる怒涛の二転三転は見事としか言い様がない。そんなに苦しみを増やさないでくれと心が嘆いていたのも事実だが、小説としての面白さで考えると素晴らしい構築だったと思う。強いて言う不満は、刑事はバディでなくて良かった事くらいだ。ここだけは著者の女子を感知してしまい居心地が悪かった(笑)
    そう言えば、真由子の旦那 光治に全く触れなかったが、19年の介護生活は愛か打算か、読者はどちらでこの物語を追うのか、読者の心に巣食うのは天使か悪魔か、物語の真実は喜びか悲しみか、是非ご自身の目で見届けていただきたいと心から思います。
    ーーーーーーーーーーーーーー

    唐突だが、夢は人に話すと実現しなくなるなんて話を聞いたことがある。これを例に、辛い 悲しい話はどんどん産み出され、発信されるべきだと私は思う。そして絶対にその物語を現実に連れ出してはならない。悲劇を学ぶのだ。

    なんちて、持論展開で気持ち良くなってみようと試みてみたのですが、暫くはこの気分の落ち込みは続きそうだなぁ...。安静にします...。
    面白かったです^ ^

  • レビューを拝見して知った本です。ありがとうございます。

    ラストがすごくハラハラさせられるサスペンスで一気読みでした。

    柏原麻由子は自分を高校三年生だと思っていますが、実際は41歳の主婦です。
    20年前、閤田幹成による通り魔殺人で両親を殺されています。
    その後交通事故に遭い、加害者である長岡光治と縁があり結婚しています。
    しかし麻由子は事故が原因で記憶障害を発症してしまっています。
    それで、すぐに自分が結婚していることも夫のことも何もかも忘れてしまうのです。

    その麻由子が「自宅で閤田を刺し殺した」と自分で警察に電話をかけて逮捕され、留置所にこう留されます。

    以下、途中までネタバレありますのでお気をつけください。

    夫の光治は「自分だけを信じるんだ」と麻由子にメモを残します。
    そこに米森久江という麻由子を娘のように可愛がる老婦人が「麻由子は無実だ。あの子がそんなことをするはずがない。弁護士をつける」と言い出し「夫が麻由子に暴力をふるっていた」と言い出します。
    麻由子は夫に電話をかけさせられたことを思い出します。
    それで今度は麻由子の介護に疲れた夫の金銭目的の犯行が疑われ、久江が光治に襲われて光治が指名手配されます。それで麻由子は釈放されますが、そこから物語は麻由子の記憶がないということがネックになり麻由子は真犯人に狙われるというどんどん怖い展開になります。
    一体、真犯人は光治なのか…。
    それとも他に誰かいるのか…。
    麻由子は誰を信じるのか。

    本当にハラハラする展開で怖かったです。
    ミステリーというよりはサスペンスかと思います。
    最後は怖いだけでなく泣かされるオチもあります。

  • 途中、誰を信じたらいいのかわからなくなり私の記憶までもがおかしくなりそうでしたが、後半30ページ、20ページ辺りからは涙が止まりませんでした。

  • これまた、まことさんのレビューを読んで直ぐにAmazonでポチってしまった(^-^)


    二十年前に起きた通り魔事件の犯人が刺殺された。
    警察に「殺した」と通報したのは、その短時間しか記憶を持つことが出来ない高次脳機能障害の女性だった。
    彼女の記憶は曖昧で断片的だった。
    通り魔事件の犯人を刺殺したのは、本当に彼女だったのか!?



    読み初めは、すぐに記憶が無くなってしまう彼女のことを、とても可愛らしく思ってしまった(^^)

    まるで高校生の女の子のような思考の41歳の女性だが、無邪気な振る舞いの彼女がとても可愛らしく感じられた。

    ミステリとしても面白いのだが、最後の場面は感動して涙が止まらなくなった(T-T)
    ほんと、とても素敵(*^^*)
    心がほわっと温かくなりました!

  • 記憶障害の女性にかけられた殺人容疑。死んだのは父母を亡きものにした通り魔だった…
    交通事故によっておった脳障害。記憶はもって20分。そんな状態で復讐はできるのか最初から疑問。色々と出てくる人達怪しい… 途中から忘れていく麻由子が子供みたいに思えてくる

  •  冒頭からグングン引かれていく展開で、次はどうなる?と気になり、あっという間に読了。
     ただ、面白いだけではなく、記憶障害の麻由子の立場になって読むとかなり読むのが辛かった。

     男を殺し、自首する麻由子。ただ、麻由子は記憶障害を患っており、自分が本当に殺したのかわからない。しかし、状況は麻由子が殺人を犯したことを雄弁に語っている。麻由子を19年間も献身的に支えながらも殺人を犯したことをすんなり受け入れる夫。麻由子の近所にすむ老女の久江は夫の虐待をリークし、弁護士を雇い麻由子が釈放できるように計らう。一体何が正しいのか。誰を信じればいいのか。
     
     刑務所の入り口に
     
     自分が殺人を犯したこと。
     刑務所に収監されていること。
     自分は大学生ではなく41歳であること。
     夫がいてとても愛してくれていること。
     自分は事故による記憶障害があり、物事を忘れてしま うこと
     両親が通り魔に殺害されたこと

    などのメモを残し、忘れるたびもう一度その現実を突きつけられる麻由子。毎回初めてその現実を突きつけられるのはどれ程の苦痛を生むのだろうか。と考えると胸が圧し潰されそうになる。
     
     また、麻由子を担当する刑事の優香は、母親がアルツハイマーを患い、施設に入所させてしまったことに後ろめたい思いを拭えないでいる。そんな母親と麻由子を重ねて見てしまうのだった。

     さて、序盤は麻由子に自分を投影して苦しみながらも、誰が犯人なのかと謎解きしながら楽しく読めた。最後はやはり帯にもあるように、二転三転するどんでん返しも楽しめた。ただ、それだけだったら単に面白いだけになってしまうが、ラストの海での麻由子と夫のシーンは秀逸。思わず目頭が熱くなってしまった。
    3.5

    • まことさん
      ひとしさん。こんにちは!

      ひとしさんのレビューを拝見して、手に取りました。
      ラストはこんなにハラハラする展開とはつゆ知らず読まされま...
      ひとしさん。こんにちは!

      ひとしさんのレビューを拝見して、手に取りました。
      ラストはこんなにハラハラする展開とはつゆ知らず読まされました。
      レビューはひとしさんの書かれたものがこれ以上書けないくらい素晴らしくまとまっているので超えられないなあと思いました(*^^*)
      他にも、ひとしさんのレビューで知った本を図書館から今、借りています。
      『あの日の交換日記』もひとしさんのレビューで知って読みましたが、とてもよかったです。
      またひとしさんの本棚、覗かせてくださいね。
      2021/04/28
    • ひとしさん
      まことさんこんばんは!

      ありがたいお言葉ありがとうございます!
      私のレビューでそんなことを言っていただけるなんて恐縮ですし、ありがた...
      まことさんこんばんは!

      ありがたいお言葉ありがとうございます!
      私のレビューでそんなことを言っていただけるなんて恐縮ですし、ありがたい気持ちでいっぱいです。

      もう、読んだのもだいぶ前になりますし、内容も覚えていないのが正直な気持ちです。
      でも、そんな忘れがちな最近ですが、ブクログも備忘録にはぴったりなアプリで、利用させていただいています。
      私の本棚で良ければいつでも覗いてください!
      2021/04/29
  • 事故の後遺症で記憶を留めておくことができない殺人犯。
    事件を追う刑事の母親は認知症。
    殺人犯と母親の、記憶に問題がある人たちの目線で描かれた部分は面白かった。
    周囲の人たちの大変さも伝わってきた。

  • 秋吉理香子さんの作品にハマりました!この作品も思ってもない方向で結末を迎えます。読み応え、あります。

  • 事故による高次脳機能障害を持っている柏原麻由子が人を殺した、と自首するところから始まる。麻由子は事故後、新しく記憶することが出来ない。麻由子は10分から20分くらいの記憶しか維持できず、その間にメモを残すことによって、記憶をつなぐ方法を得ていた。麻由子の脳機能障害の加害者である光治は彼女と結婚し、献身的に介護していた。麻由子と両親は通り魔事件に巻き込まれ、麻由子の両親は死亡、犯人から逃れるために逃げた麻由子を車で撥ねてしまったのが光治だった。
    ある日、麻由子は両親の敵である閤田幹成を殺した、と自首する電話を警察にかける。麻由子の取り調べを担当した桐谷優香は記憶障害のある麻由子を認知症のある自分の母を重ね合わせる…

    とても面白かった。終盤に犯人かも?と思う人がどんどん交代していく。米森さんが登場してきたとき、この人怪しい、と感じたけれど、そこにつながるとは思わなかった。雇われていた弁護士はどうなるのかなあ。
    優香の介護に対しての心情を描く部分が多くあるので、非常にしんどく感じるところもある。犯人よりも何よりも許せない気持ちになるのが、優香の兄だ。介護に口出しするなら、金出すか、自分がやるか、しろよ!優香は家族には今、恵まれていないかもしれないが、職場には恵まれているよなあ、と思う。
    麻由子のおぼろげな記憶の描写がとても見事で、こんな状況をよく書くことが出来るなあ、と感心してしまった。最後がとても切なく終わるのだけれど、これはこれでいいのだろうか。

    ただ金銭の現実で考えると両親の生命保険があったとしても、20年経っても資産家、というのは難しいんじゃないかなあ、と考える。興ざめにはなるが。

  • お前が犯人かー!と思いきや2転3転してハラハラしっぱなしでした。

    ラスト切なくて泣けます

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学院で映画・TV製作の修士号を取得。2008年、短編「雪の花」で第3回「Yahoo!JAPAN文学賞」を受賞、翌年、同作を含む短編集『雪の花』で作家デビューを果たした。ダークミステリー『暗黒女子』は話題となり、映画化もされた。他の作品に『絶対正義』『サイレンス』『ジゼル』『眠れる美女』『婚活中毒』『灼熱』などがある。

「2021年 『息子のボーイフレンド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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