共謀小説家

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575243826

作品紹介・あらすじ

明治の世に小説家を志す17歳の宮島冬子は、当代一の文学者・尾形のもとで女中をしながら執筆に励むが、文壇からは相手にされず、望まぬ子を身籠もり窮地に立たされる。そんな冬子に「共謀しないか」と結婚を提案したのは、尾形の弟子・春明だ。その伴侶は優しき理解者か、おぞましい鬼か。異色の夫婦の愛を描いた衝撃作。

感想・レビュー・書評

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  • 近代文壇をベースに描く女流作家の人生『共謀小説家』【斎藤美奈子のオトナの文藝部】 | Web eclat | 50代女性のためのファッション、ビューティ、ライフスタイル最新情報
    https://eclat.hpplus.jp/article/70686

    女性が表現することの不自由さを描いた歪な夫婦の物語|蛭田亜紗子『共謀小説家』 | ほんのひきだし
    https://hon-hikidashi.jp/enjoy/126825/

    蛭田亜紗子さん『共謀小説家』 | 小説丸
    https://shosetsu-maru.com/interviews/authors/quilala_pickup/152

    【お仕事情報】小説推理・連載「共謀小説家」挿絵|洵(じゅん/June)|note
    https://note.com/june06_cat/n/n03167d466cb2

    株式会社双葉社|共謀小説家|ISBN:978-4-575-24382-6
    https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-24382-6.html

  • 本文P.11より
    「架空の人間であるはずの登場人物の気配をいつまでも胸の内側に感じ、ふとしたときに、物語の結末のあとどうなったのかを考えてしまう」
    私もこういう作品が好み。

    明治、大正と近代文壇における一人の女性作家を描く1冊。

    頁を捲り、予想だにしない展開に心揺さぶられ、蛭田さんの言葉の世界に浸りながら、架空の人間たちの機微に触れ、心地よいほろ酔い状態のような読後。

    新潮社R-18受賞者である蛭田さんはずっと追いかけ、すべての作品を読んでいるが、本作も拍手喝采。

    「女性が虐げられ、認められない時代に頑張りました」という陳腐な成功物語ではない。

    人間は元来、「善なる存在」か、はたまた「醜悪なもの」か。
    「ひとが隠そうとしている面をえぐりだすことこそが、小説の仕事」(P.41)と文芸を捉え、時代に挑戦する主人公の夫 春明の言葉の心意気が眩しい。

    道徳や風紀に縛られ、人間を善きものとしてのみ捉え、昨今「ほっこり」する作品ばかり礼賛されることを私も呑み込めない。

    世相は異なれど、文壇に身を置く当時の若者たちが、書くことによって世間の常識や、日常、雁字搦めになっている価値観から解放されていこうとした気概を想像しては満たされる。

    一方で、彼らたちが注目や賞賛に手を伸ばすあまり、模倣や焼き直しを安易に求めたり、ともに足を引っ張り合う心の弱さも蛭田さんの筆で豊かな語彙を以て、丁寧に掬い取られる。
    日本語がとても美しい。

    巻末に参考文献が多く記され、しっかりした準備があって本作があることを知らせてくれる。

    蛭田さんの作品はデビュー作『自縄自縛の私』、『愛を振り込む』等、偏向した性癖の人物を描き、発想がとても豊か。

    R-18要素も多岐に含みながら、単なる官能小説に終始しない。
    そこには人間の持つ弱さや狡さ等を登場人物と書き手の適切な距離により、きっちり文芸に昇華する力量を感じる。

    登場人物の冬子を過剰な悲壮感を漂わせず描かれているのも好み。
    捉えどころのない夫の造形が少しずつ浮き立つ様と、最終版に露わになる心の底にある哀しみの描き方も巧い。

    大矢博子さんの書評によると、モデルは尾崎紅葉の門下生小栗風葉・加藤籌子夫妻とか。

    書き手が善悪を論じずに、読み手に委ねる。
    裏切りや不貞が溢れながらも露悪的に感じない。
    人々の煩悶を過剰に湿らせずに丁寧に伝える素晴らしい1冊だった。

  • 端正な文章。
    話自体は今ひとつ乗り切れなかった。
    引き込まれていく展開がないというか。
    時代考証などは入念になされているが残念。


  • 明治という時代背景、女性が作家を目指すということの難しさと、女性であるが故の師からの理不尽な扱い。それでも書くことへの熱を胸のうちに持ち続ける冬子の強さが際立つ。それに比して酒に溺れる春明の情けなさよ。憧れの師・柳後雄への想いを間に挟んで、愛憎が交錯する夫婦のヒリヒリと互いの傷を擦り合うような日々。冬子は強い。


    終盤、東京に出向いた冬子に紅丸が言った言葉、

    ーー時代遅れ?そう思っているならいまからかわりゃいいじゃないか。
    年齢とか、生まれた時代とかを言い訳にするなよ。

    これは胸に刺さりました。
    時代とか、歳とか、事情とか、そんなものを言い訳にしている時点で終わりなんだな。
    その言葉に発奮して熱を取り戻した冬子。そしてその結果、夫婦の形が変わる。

    共謀で始まった同志のような夫婦の物語、でも確かにそこに愛はあった。なんとも清々しく爽やかな読後でした。

  • 明治大正ではなく、現代版として書いた方が面白いんじゃないかと思ってしまった。

  • 冬子の願いは小説を書くことと春明とつながることの2つで、それは春明がもつ先生の絶筆した小説を書き上げることと先生への恋慕という願いと重なっている。
    だけど春明はどちらにおいても冬子に劣っていると感じてしまい、ずっと冬子ではなく先生を求めている。
    それは二人が出会った瞬間に声の重なった「春」を名付けた春明を冬子が追い求め、先生の息子でもある透が「冬」を好きだといい、春明は「夏」を好きというこのつながらない感じが切ない。
    二人で共謀をしているはずなのに、企んでいる内容が一緒ではない。
    そんな冬子にとって幸福の絶頂が大晦日に短編をどちらが多く短編を書けるか競った同士としての瞬間だったというのが、対等に同士にはなれるけど夫婦としてはつながれない、逆に言うと同士としてはしっかりつながれることに胸が締め付けられる。
    漣の飄々とした感じが好きだった。

  • 中盤、刺青を入れた理由の詳細を春明が言い淀む場面で、もしかして?と思ったら、最終章でその通りだとわかった。樋口一葉や平塚らいてう等、モデルがわかるものも多かったが、その装置を利用するメリットはそこまであったか謎です。
    でも文章も平易で一気に読めました。

  • 官能的描写が豊かで感覚や感情の生々しさが素晴らしいというのが第一印象。

    「⼥による⼥のためのR-18⽂学賞」受賞者だそうで、よくわからず調べたら当初のR-18文学賞は「女性が書く、性をテーマにした小説」小説に描かれる官能は主に男性のためのもので、女性が性を書くことはタブーとはされないまでも、大変な勇気のいることだった、、、というような発足らしい。

    なにかもの足らず他に2作品を読んでみた。
    どの本も部分は躍動感があって登場人物が生きていていいのだが、その流れの理由付けや落ちどころなど、物語をリアルにするためのそこここが足らないように思う。
    時代背景など資料をよく調べて消化されているようだし、文体も好きなのに全体が惜しい!

    こちらについては、主人公が独立した辺りからの続編を読みたいと思った。
    他の本も読んでみようと思う。
    結局は読みたい。

  • 面白くなくはないけど正直中盤から斜め読み。言い回しとか表現がお仕着せだったから、駆け出しの若い作家かと思ったらそういうわけでもなかった。
    センセーショナルなエピソードを入れてるわりに起承転結がぐずぐずで、どこに帰着したかったのか最後まで分からなかった。著者の意図としてはグイグイ読ませたかったんだろうな…って、そこが見えていながら物語に表れていないんだよな…。もっと時代小説っぽく硬派に振るか、ミステリーにしちゃったほうがよかったのでは、と思った。
    読書家で勉強家なんだろうなあとは思う。当時の風俗をしっかり調べているのはわかったし、読んでいて不快な印象は受けなかったけど、なんというか、ものが粗悪だというより、ガラスの食器だと思って買ったらプラスチックだった、みたいな。期待外れ。良くも悪くも、pixivとかで上がっているネット小説のよう。

  • 冬子の春明への気持ちは愛情なのか、嫉妬なのか、嫉妬ならば才能に関してなのか、関係性についてなのか…。
    綺麗事じやない気持ちを綺麗な文で綴られていてすてきだと感じた。

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著者プロフィール

1979年北海道札幌市生まれ、在住。2008年第7回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、2010年『自縄自縛の私』(新潮社)を刊行しデビュー。そのほかの著書に、『凜』(講談社)『エンディングドレス』(ポプラ社)『共謀小説家』(双葉社)などがある。

「2023年 『窮屈で自由な私の容れもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

蛭田亜紗子の作品

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