敵前の森で

著者 :
  • 双葉社
3.72
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本棚登録 : 104
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575246209

作品紹介・あらすじ

「あなたには、捕虜の処刑および民間人に対する虐待の容疑がかけられています」戦後まもなく、インパール作戦の日本人指揮官にかけられた嫌疑。偽りを述べたら殺すと言い放ち、腹を探るような問いを続ける英人大尉。北原はしだいに違和感を覚える。この尋問には別の目的があるのではないか? 戦場の「真実」を炙り出してゆく傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争ものは好きでは無い。各国がそれぞれの事情で戦っているためにどちらが正しいということが無いためだ。そんな戦争ものを数多く書かれている著者の最新作。第2次世界大戦のビルマを舞台に最前線で起こった現地人の逃走事件を発端に何故起こったのかが、主人公の北原が振り返るという形式で語られる。現代で考えうる最悪の地獄での人間心理には舌を巻く筆力。約200ページちょっとながらずっと緊張感が続いていく。真相は目新しいものではないかと思うが極限状態での日本人らしさに国民性を見た気がする。このジャンルは苦手だが唸る内容。

  • 第2次世界大戦の末期、日本の戦況がかなり悪くなってからインドとビルマの国境で行われたインパール作戦での話。
    一人の若い日本人の少尉が、悪い戦況の中で次々に下さなければいけない決断についてや、対戦相手のイギリス軍との駆け引き、自分より年上の部下との関係などについて、悩んだり、後悔したりした当時の状況を、戦後、捕虜になり、呼び出しを受けたイギリス軍の語学将校からの質問への受け答えの中で明らかにしていく。
    この本を借りた理由は忘れてしまったが、このような本と巡り合うことができて良かった。

  • すごく衝撃を受ける本だった。戦地で戦った人たちのイメージは,やりたい放題ひどいことやった(ごめんなさい)→『日本軍兵士』のイメージが加わる,まで来てたのだけど,この本みたいな発想は全くなかった。実際はそうだったのでは,と思う。
    とはいえ私には難しすぎて,1回目は正直さっぱり分からず(大枠だけは分かって衝撃を受ける限度),2回目読んで大体は理解できたけど理解できていないところ複数残ってるな,という感じ。古処誠二はなぜ直木賞をとっていないのかと書かれた記事を読んだけど,もう少し読んで分かる人の対象を広げてくれたらな有り難いです,と思う。

  • 星4ではなく星3なのは私がインパール作戦諸々、よく理解してない私側の問題なので凄く迷ったのですが、正直に星つけました。
    古処さんというと私の中ではいつまでも「UNKNOWN」の印象が強くて「少年たちの密室」もとても良かった印象。段々読み手側の胆力が求められる作品傾向になった気がして最近は読んでなかったのですが、やっばり好きだなぁと思いました。

  • 4.0

  •  著者のビルマ戦線ものの一作。本作の舞台は捕虜収容所。イギリス人諜報将校の尋問を受ける若いポツダム少尉の記憶を通じて、インパール作戦撤収時の日本軍兵士とビルマの民間人との黙契が明らかにされていく、という物語。
     見習士官として初めて戦場に立った北原の視点から、そのときは気づけなかった日本軍の下士官や兵士の「真の思い」が浮かび上がる仕掛けはさすがという感じだが、描かれる日本軍兵士が揃って理性的で思慮深い人物と描かれるのがとても気になる。北原を尋問する諜報将校がビルマの再植民地化を目論むイギリスの象徴的な人物として形象化されていることを考えると、本作では、著者の従来の作品以上に、日本―ビルマ―イギリスというネーションの構図が強く打ち出されている。この点は、ビルマの反英独立運動と旧日本軍とのかかわりを確認したうえでコメントする必要がある。
     
     以前から著者の小説は伊藤桂一の作品世界(と問題点)とよく似ているなと思っていたが、本作を経て、その印象はますます強くなった。

  • 『娯楽』★★★☆☆ 6
    【詩情】★★★★☆ 12
    【整合】★★★☆☆ 9
    『意外』★★★★☆ 8
    「人物」★★★★☆ 4
    「可読」★★☆☆☆ 2
    「作家」★★★★★ 5
    【尖鋭】★★★★☆ 12
    『奥行』★★★★★ 10
    『印象』★★★★☆ 8

    《総合》76 B

  •  ここのところ、古処誠二さんの戦争小説の舞台はビルマが続いている。最新刊の舞台もビルマだが、一つとして同じ物語はない。部隊の数だけ人間模様があり、兵士の数だけ苦悩がある。本作はいわゆるインパール作戦の失敗後という局面を描く。

     終戦後、英国の俘虜となって尋問を受ける、見習士官の北原。英国人大尉は言い放つ。ひとつでも偽りを述べたらわたしはあなたを殺す。質問の真意を慎重に探りつつ、記憶を呼び起こす北原。物語は回想形式で進む。あのとき何を考えていたのか?

     主に後方支援を担っていたが、戦況の悪化により前線に放り込まれた北原。歩兵たちは、階級は上でも経験の浅い北原に、侮蔑を隠さない。北原が率いる部隊の中で、特に厄介なのが佐々塚兵長だった。佐々塚は物語の鍵を握る人物だ。

     佐々塚は兵士として一本気な人物には違いない。瀕死の敵兵に懇願され、迷わずとどめを刺す。敵側が戦争犯罪だと煽ることなど承知の上だろう。彼に保身という発想はない。だからこそ、上官への抗命すら厭わない。戸惑いを隠せない北原。

     英国人大尉の指摘は一理あるだろう。日本は末端の兵士に至るまで義務教育が行き届いている。それ故に、どれだけ犠牲が出ても、残った兵士で任務を続行しようとする。北原や佐々塚も然り。上層部の多くが、保身に走ったのとは対照的に。

     評判がよいとは言えない佐々塚だが、その慧眼を戦後復興に生かせなかったことは無念でならない。死が近づく局面でも、佐々塚は北原の指摘をはぐらかす。決して歩み寄らず、相容れないまま終わるのは、彼なりの意地なのか、美学なのか。

     終章で語られる真相を、北原も英国人大尉も知らない。佐々塚は情にほだされたのか? この男の本質は、そんなに単純ではあるまい。敗戦を意識した後の日本兵の振る舞いは様々だろう。自身が助かることを最優先しても、誰が責めらるのか。

     傑作『いくさの底』は、軍という組織の価値観を背景にした戦場ミステリーだったが、本作は個人の価値観を描く戦場ミステリーと言えるかもしれない。

  • 今の所今年ベスト本。
    敵とは何か
    誰の心を読んで生き延びるのか
    他人の心など読めない
    肝心のモンテーウィンの内心が描かれていないというのが巧み。
    行間の深みと暗さが研ぎすまされている。
    余韻が胸を掻きむしりたいほど苦しい。
    古処誠二の本を読めるのは「恵まれている」
    これからも本を書き続けられるように応援したい。
    ファンレターを書きたい。

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著者プロフィール

1970年福岡県生まれ。2000年4月『UNKNOWN』でメフィスト賞でデビュー。2010年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。17年『いくさの底』で第71回「毎日出版文化賞」、翌年同作で第71回「日本推理作家協会賞(長編部門)」を受賞。著書に『ルール』『七月七日』『中尉』『生き残り』などがある。

「2020年 『いくさの底』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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