- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575307382
感想・レビュー・書評
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管野須賀子の肺患も進行していた 山県有朋やまがたありとも 幸徳は根が助平だから_自ずと前轍を踏むさ その鉱毒は渡良瀬川に流れ出して たとえ袂を分かっても変わらぬ友誼を賜りたい 伊集院影韶かげあき 酷暑の頃に巣鴨監獄を出た 元々日本領と認識されていた南樺太の割譲のみという結果に国民の不満は弾けた 寒村を聳動したのは『平民新聞』の創刊宣言であった 足尾村で会った田中正造からは悲痛な嘆きの言葉を聞いた しんぐう新宮 内弟子たるは情婦たるを意味した 堺枯川こせん 胃の下のチューブ(腸ガット) 誘蛾灯に飛び込む虫のように 革命の精神も褪色たいしょくする この時近代日本の青年期たる「明治」は事実上終焉した 秋水ってのは刀のことさ 日本皇帝睦仁君に与う 制限と懐柔の按配が寧ろ肝要かと…_汁粉に塩を入れるが如く…かね お召し列車 大府駅 民衆の「迷妄たる信仰」を破るには天皇を傷付け赤い血がその体から流れることを見せるしかないと確信した 長野県明科の製材所に転勤する途上 犀川の河原で 『舞姫』のエリスを回想した 際どく絞首刑を免れた 下獄 壮吾の癖 謀議の疑いが濃いのです ハレー彗星が暗黒の彼方に飛び去った明治四十三年六月_日本は近代の曲がり角を曲がった 時は須臾(僅かな時間)の遅延さえ無く走る 脚本家の容喙を許す幾つかの隙間があると思い至ったからである
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渡邊太先生 おすすめ
69【教養】K726-T
★ブックリストのコメント
『坊っちゃん』執筆時の夏目漱石を中心に、近代国家形成の途上で翻弄され、あるいは奮闘する人々を描いた群像劇。物語のクライマックスの一つは、幸徳秋水ら社会主義者が処刑された大逆事件。 -
幸徳伝次郎、秋水。カリエスを病む友人、田岡佐代治、嶺雲。湯河原の宿での永遠の別れ。東京監獄で死を待つ管野寿賀子。長与病院へ通う、胃病の夏目金之助、漱石。東京朝日新聞の編集室で自然主義を語る石川一、啄木。観潮楼で山縣有朋の使いと会う森林太郎、鴎外。幸徳に直訴状を依頼する田中正造。みんな、同時代の流星だった。
配置の仕方が上手い。さすが関川夏央。 -
2017年6月9日
ブックデザイン/日下潤一+浅妻健司+赤波江春奈 -
この巻は幸徳秋水を中心として「大逆事件」について。
まず笑ってしまったのが、自分の結婚式をすっぽかす幸徳秋水。
石川啄木も自分の結婚式には出なかった。田舎に帰る旅費がないからというのがその理由だが、いつもどおり借金しては飲んでいたのであるが。
幸徳秋水の理由は違う。奥さんが美人ではないから、がっかりして。
幸徳秋水と言えば「橋のない川」で孝二が折に触れ思い返す「幸徳秋水、名は伝次郎」を思い浮かべてしまう。
孝二が思う秋水は、懐大きく毅然とした大人物。
しかしここに描かれる秋水は、なんとなくとぼけた人物なのだ。
もちろんいつも真剣に物事に取り組んでいるのだけど、視野狭窄にはならない。
バランスのとり方が絶妙で、追い詰められているはずなのになぜか余裕が感じられる。
土佐の田舎から上京した秋水は、民権運動、社会主義者、無政府主義者と、徐々に過激になっていくのだが、実は大逆事件のころには身体を壊していて、文筆だけで生きていこうとしていた風でもある。
中江兆民の講演
「日本のごとき小邦たるもの 有形の腕力では欧米諸国に及びもつかず まさに卵を岩に投げつけるにひとしい!それはフランス国にて この兆民生 実見実感したところであります。すなわちわが日本は 自由をもって軍隊となし 平等をもって城となし 友愛をもって大砲となす!これよりほかに 生存するの途はありません!」
森鷗外
「工場ができ 興業富国すればするほど 貧乏がはびこり 青年たちに煩悶がはやる……本物の開化とは かく厄介なものだ」
田中正造
「都会は便利になった。しかし田舎は 御一新前より悪くなった。差は開くばかりだ……。これが近代国家か。これが 大日本帝国の農村か。村は忘れられたのだ。このままでは日本は滅ぶ。」
日露戦争に勝ったのにもかかわらず、大きな利益を得ることなく終わってしまった戦後補償に、民衆の怒りが爆発し暴動が起きた。
それを見ていた秋水は無政府主義へと大きく傾く。
「国権の拡大を 国民の拡大と誤解する幸福な時代は終わった。これからは 国家と個人の 敵対する時代だ。」
しかし秋水は徐々に運動の一線から引いていく。
けれど秋水の名を怖れた政府が、秋水はほぼ無関係であることを知りつつ逮捕し、死刑に処する。国のトップがそれを望んでいることを察して、空気を読んだのだ。怖い。
本当に天皇暗殺を企てていたのは、秋水の内妻管野須賀子とその仲間数人だけだったのに、死刑判決二十四人の大事件となってしまった。
全然日本文学と関係ないではないか!と思ったけれども、実はこの事件、多くの文学者の思想にも影響を与えているらしい。
漱石が文部省から博士号を贈るという通知をもらいながらもかたくなに拒否し続けたこと。啄木の詩。徳富蘆花や三宅雪嶺が行った講演。与謝野鉄幹の詩。
佐藤春夫や武者小路実篤、正宗白鳥、永井荷風もあからさまではない感想を作品の中に記したという。
その中で森鷗外が、体制側の人間でありながらかなりはっきりと大逆事件を思わせるような作品をものしたという。
『沈黙の塔』と『妄想』
これはいつか読まねば。
明治時代のほんの10数年で、日本は天皇中心の軍国主義へと大きく舵をとることになった。
江戸時代と大正デモクラシーのあいだの激動の時代。
あと一巻、目が離せない。