- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575520378
感想・レビュー・書評
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『ねえ、利休は何故、秀吉に殺されたと思う?』
“特別なスキルや経験がなくても誰でもできる仕事”、それを世間では『雑用』と呼びます。『会議室を押さえて、声がけして、進行役して、議事録を作って、つまむお菓子を用意して、お茶を配って…』、と自らの仕事を列挙して、それを『雑用』であると言う主人公。世の中には色んな仕事があり、それぞれの仕事に人が割り当てられています。でも、そんな『雑用』という仕事も人が変われば、その結果は決して同じにはなりません。『ただのお茶汲み』と考える人が淹れるお茶と、『お客様さまのために』と考える人が淹れるお茶。それを振る舞われる側の印象が同じになるはずがありません。そんなことこんな場で言われても困る、言いたいことは分かるけど実際にはそんなものは理想論という考え方もあるでしょう。でも世の中にはそんな風に切り捨てない人がいます。『すべてはお茶とともに始まる』と考える人がいます。そんな『お茶を用意することは、場の主導権を握ること』と考える人がいます。そして、そんな『お茶汲み』をする人に『今ならチャンス』と説く人がいます。あの某大物歌手を彷彿とさせる『おかっぱ頭の大女』それが、アッコさん。これはそんなアッコさんが主人公たちを振り回していく物語です。
「ランチのアッコちゃん」の続編として書かれたこの作品。「ランチの」同様に四つの短編から構成されています。そして「ランチの」同様に前半の二編でのみアッコさんが大活躍し、後半二編は、アッコさんのお店の名前が街の風景のひとつのようにさらっと出てくるだけです。アッコさんのあの濃いキャラが四編連続して胃もたれしないように、もしくは出し惜しみにも感じる割り切った構成です。私としては前半の二編、特に最初の〈3時のアッコちゃん〉が内容的にも読み応え十分に感じましたので、このレビューではこの短編に絞って書いていきたいと思います。
『ソーダ味のアイスキャンディーの最後のひとかけをかじりとると、前歯の付け根から頭のてっぺんにかけてぴりりと白い稲妻が走った』と仕事中にこっそりアイスを食べるのは「ランチの」の主役・澤田三智子。『レジ台の前に客が立ったことに、しばらく気付かなかった』と目の前に置かれた本を見る三智子。『風にのってきたメアリー・ポピンズ』『クマのプーさん』…『随分たくさん買い込むなあー』と思いながら『視線を本の背表紙からその客へと移す』と『おかっぱ頭の下でぎろりと光る黒目がちの目にぶつかり』悲鳴を飲み込む三智子。『はずれ』、『食べ終わったばかりのアイスキャンディーの棒を取り上げ』、『店番してる時くらい、飲食は我慢しなさい。まったく』と叱るのは『約半年ぶりに再開したかつての上司、アッコさんこと黒川敦子』でした。『この半年、メールをしてもほとんど返信してもらえず、たまに連絡がついてもそっけなく、寂しい思いを噛み締めていた』という三智子。『領収書お願い。宛て名は「株式会社 東京ポトフ&スムージー」で』というアッコさんは『ポトフの方は今お休みしてるの。暑くなるとさっぱり儲からない』と説明します。そして『客が入ってきてもいらっしゃいませも言わない。そんなんじゃ古書店の妻は務まらないわよ』というアッコさん。『あなた、今もまだ高潮物産にいるんだったかしら?』という問いに『五月の昇進試験で派遣から契約社員に昇格しました。いまは宣伝部広報課にいます。でも、ただの雑用です』、『本当にただの雑用ですよ。会議室を押さえて…お茶を配って…』と返す三智子。それに対して『すごいじゃないの。ねえ、利休は何故、秀吉に殺されたと思う?』と突拍子もないことをいうアッコさん。『時の権力者にお茶を振る舞うことで、権力者よりも優位に立ち、政治を意のままに操ることが出来たからよ』というその答え。そして『お茶を用意することは、場の主導権を握ることなの。今ならチャンスじゃない。進行役なら立場を利用してどんどん企画を出しなさいよ』と迫ります。『そんな図々しい真似出来ません』とたじろぐ三智子に『そうだわ。いいこと思いついた!週明けから五日間、あなたの会社に通い、会議に出すアフタヌーンティーを用意するわ』と言い出すアッコさん。『アッコさんが?高潮物産に来る⁉︎困ります。絶対来ないでください!』と『首の上から血が引』いた三智子。そんなアッコさんは高潮物産で何をしようと考えているのでしょうか、そして三智子の運命は…というこの短編では「ランチの」の勢いそのまんまにアッコさんが物語をぐいぐい引っ張っていく、そんな勢いのある物語を堪能させていただきました。
“会社”を舞台にするこのシリーズでは、「ランチの」もそうですが、月曜日、火曜日…金曜日と日毎に”会社”の中で繰り広げられるドタバタが五日間という枠内でテンポよく描かれていきます。それは〈3時の〉でも同じこと。週末の金曜日のクライマックスへ向けて、何かが起こり、何かに気づき、そして何かが変わっていくというこのある種パターン化された展開が心地よくリズムを刻んでいきます。『この作品はスピーディーなところが良さなので』と語る柚木さんの狙い通りに繰り広げられる月〜金のドタバタ劇。ただ、よくよく考えると、それは私たちの普段の日常そのものなんだと思います。このレビューを読んでくださっている皆さんの多くは月〜金に働いてという方が多いのではないでしょうか。私もそうですが、そんな月〜金の繰り返しの毎日の中では、その日々はいつの間にかパターン化していきます。『会議というのは、リミットを設けないと何も決まらない』とはよく言われることですが、それが分かっていてもダラダラと時間だけが過ぎてうやむやになっていく、そんなことってあなたの会社にはないでしょうか。そんな会議の場も発言する人、しない人が固定化されて、そんなことまでもがパターン化していく日常。そんな中に『もしかして、会議ってすごく楽しいものなのかな?』という気づきが生まれたとしたら。『そうか。これは喧嘩じゃないんだ。議論なんだ』と会議とは何かに気づくことがあったとしたら。『違う意見がぶつかり合う、それこそが会議なのに』と今更であっても気づく瞬間の到来。そんな瞬間に『ずっと止まっていた時間がようやく動き出した』と感じる三智子の感情は、そうは言ってもね、と一方で感じることはあっても、会社員として働かれている皆さんには何かしら感じるところもあるのではないかと思います。うちの会社にもアッコさんが来てくれたなら、アッコさんに相談することができたなら、とこのシリーズを読んでふと感じる思い。アッコさんとは、繰り返しの日常に、まだおかしいと感じることのできるそんな普通の会社員にとっての永遠のヒロインなのかもしれません。
「ランチの」同様にアッコさんがグイグイと突き進むパワフルな行動力が物語を動かしていく前半の二つの短編。しかし、「ランチの」でもそうでしたが、書名にまでなっているのに、それぞれの短編における主人公は決してアッコさんではありません。一編目は澤田三智子であり、二編目では榎本明海です。そんな中にあってアッコさんは『強烈な存在感』を持った存在として、主人公たちをただただ振り回していく、どちらかと言うと迷惑な存在として描かれていきます。最初はそれをただの迷惑としか考えない主人公たち。でも、アッコさんに有無を言う間なく振り回されていく中で主人公たちの心に変化が訪れます。〈3時の〉で澤田三智子はそんなアッコさんのことを『いつも荒唐無稽で夢みたいなことばかり言う』人であると語ります。「ランチの」に続いてアッコさんに振り回されてばかりの三智子の心中は確かにそうだろうなと思います。一方でそんな三智子は、『それは想像力が自然と体から溢れ出てしまうからなのだろう』と考えます。そして、『人は想像力に救われ、想像力にお金を払う。不景気で夢を見られない時ほど予期せぬサプライズを切望する。それはまぎれもない事実なのだ』と気づきます。それを言葉ではなく行動を持って教えてくれたのがアッコさんでした。人によって悩んでいること、苦しんでいることは異なります。その一つひとつを個別具体的に解決していくことは、流石のアッコさんにだって、たやすいことではないはずです。また、それはアッコさんのタスクでもありません。『道しるべならこの手の中にあるのだ。いつだってヒントはそばにある』というように、結局、その答えを知っているのも、その答えを握っているのも自分次第ということ。そう、『それに気付くか気付かないかは自分次第なのではないか』。そんな気づきのヒントを教えてくれたのがアッコさん、この作品の影の主人公であるアッコさんなんだと思いました。
『人の話聞かないし、威圧的だし、自分勝手だし、怖いし、おせっかいなくせに秘密主義でぜんぜん心を開いてくれないし…』という主人公が思うアッコさん。それだけ聞くと、うちの職場にもいる、そういう人…という嫌な人物像。『でも、面白かったんですよね。彼女と働くのは』と続くその言葉に感じる驚き、そして、会ってみたいと感じる魅力的な人物像。そんな魅力的な人物が全力で駆け抜けていくこの作品。
進むべき道を見失った、そんな時に現れるみんなの永遠のヒロイン、それがアッコさんなのかもしれない、そんな風に感じた作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
短編嫌いの私が、シリーズ3冊同時購入(^-^)
ほんの少し隙間時間がある時などに超おすすめ。
作品一つ一つがとても元気。
コロナで沈んだ気分の時にはピッタリ。
この本に出てくる女の子は、みんな容姿端麗な美人でないところがまた良い!
東野圭吾さんだと、瓜実顔の美人しか登場しないが、この本の女の子は多分きっと平均的。
むしろ、ちょっと鈍臭い?女の子。
だからか?とっても感情移入しやすい。
不器用で、生きにくさを抱えてるような女の子が必死に生きているのが、とても清々しい(*^^*) -
「ランチのアッコちゃん」に続く第二弾。
4つの短編集。
アッコさんが出てくるお話は2つ。
あとの2つは関西が舞台だ。(阪急の岡本と梅田!)
相変わらず、食べものの描写、特に今回は甘いものや3時のお茶のシーンの描写が美味しそうでたまりません。私個人のアフタヌーンティーへの憧れがますます募ります。
お話的には「メトロのアッコちゃん」に心掴まれました。アッコさんのお節介は、大いなる母性が感じられて、構うことの大切さをお知らせしてもらった気がします。
「シュシュと猪」は声出して笑ってしまったし
「梅田ワンダーランド」みたいな駅が舞台みたいなお話ステキでした。
今回も楽しく読了!
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アッコちゃんシリーズは本をそんなに読まない方にもお勧めできるくらいさらっと読めて負担にならないと思います。
食べ物が登場しておいしそうなのも良いところの1つです。
『3時のアッコちゃん』は最初の2編しかアッコちゃんが登場しなくてちょっと残念でした。アッコちゃんのような先輩は誰にとっても大切な存在だと思うし読んでいて元気がでます。
前向きで大きな夢を持ちながら堅実にそして大胆に今現在自分にできることを成す。自分もそんな風に生きていきたいと思えるし、気持ちが明るくなります。 -
『3時のアッコちゃん』読了。
すごく元気出た。読んでいるうちに鬱々とした気分が晴れてきた。
働くこと、生活をすること、アッコさんが全て解決してくれた。
非常事態なだけに全てをコロナのせいにしちゃダメだよなって思った。少し反省。
自分のペースでいいから生活をよりいいものにしたくなった。
改めて思うんだけど、本ってすごいなぁ…自分の凝り固まった思考をほぐしてくれた。仕事に向かう電車で読んだけどすごく泣きそうになった。
こんな不安だらけなご時世だけどわーわー言ってるだけでほんの少しでも生活をよくしようとしているか?って自問自答していたわ。
というわけで、お菓子を食べていい気分になろう〜
2020.3.29(1回目) -
ランチのアッコちゃんの続編。
アッコさんが出てこない話もあり、1作目の方が好みでした。
4話の前半2話は面白かったけど、後半2話は少し物足りなく感じました。 -
アッコちゃん第二弾これもまた面白かった。
自分の能力の無さに打ちひしがれ、だんだんと元気とやる気と目標を取り戻していく。アッコちゃんには元気をなくしている時に現れ気付かせてくれる。
誰かの役に立てるおせっかい。私も誰かにおせっかいしてあげたくなった。 -
毎日30分だけ、英国式の「アフタヌーンティー」スタイルを取り入れて会議を提案し、"話し合いはダラダラやるより、短期決戦を数回重ねた方が効果がある"と言うアッコさんに共感。
美味しそうなお菓子と紅茶、私もいただきたくなりました。
この本を読んでると、「アフタヌーンティー」の文化があるイギリスが羨ましく感じた。
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こんばんは⭐︎図書館にあると良いのですが…♪機会があったら是非読んでみて下さいね。柚木麻子さん、私も好きです。読みやすいし元気をいただけます...こんばんは⭐︎図書館にあると良いのですが…♪機会があったら是非読んでみて下さいね。柚木麻子さん、私も好きです。読みやすいし元気をいただけますよね。こちらは例年よりも早く、もう少しで桜が咲きそうです。コメント、ありがとうございます(^^)2023/04/14
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そうなんですね!私のところは葉桜になって綺麗です♪
私も柚木麻子先生ファンです!ファンと言えるかはわからないけど、いろいろチャレンジしてみま...そうなんですね!私のところは葉桜になって綺麗です♪
私も柚木麻子先生ファンです!ファンと言えるかはわからないけど、いろいろチャレンジしてみます!ありがとうございました。2023/04/14 -
さわわさんの所は葉桜になってるんですね〜。各地色々な風景があって、同じ日本でも随分違うものなんだな〜と感慨深くなります。
コメントありがとう...さわわさんの所は葉桜になってるんですね〜。各地色々な風景があって、同じ日本でも随分違うものなんだな〜と感慨深くなります。
コメントありがとうございました。2023/04/14
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シリーズ第2弾。
元気が出るビタミンチャージ本。
アッコちゃんこと黒川敦子女史がガッツリ登場する2話+チラリと見える2話。
全部働く女性、働こうとしている女性にエールを送り「ヨシッ!」という気持ちにさせてくれる。
まさにサプリメント小説。
ズッシリ重たい読了感、イヤミスに疲れたリハビリに最適なシリーズ -
行動力すごい!自分を大切にしてチャンスをつかみとっていく。疲れたら休む。とても大切。前向きになれる作品です