ジャッジメント (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575521399

感想・レビュー・書評

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  • 残酷な事件をニュースなどで耳にすると
    被害者の家族、遺族の立場を考えると
    司法だけの判決では満足いかずに、
    他に何か違った方法で復讐するという言葉が出てきますが、
    まさにこの作品は大切な人がそのような場合になってしまい
    復讐法というものを選ぶというストーリーで、
    重たくもタブー視されている問題を描いている作品でした。

    いくつかの事例ごとに成り立っていますが、
    どの事例も無残で残酷なもので読んでいると重く辛くなってきます。
    復讐法では多くの場合が被害者の家族が執行しているので、
    復讐しているうちに、今まで知らなかった本当の
    子供の姿が分かってくることが多くなっています。
    それにより加害者のことよりも自分の今までの身の振り方まで
    考えさせるようになりとても辛い裁きになっているかと思います。

    復讐をすれば亡くなった人の気持ちが少しでも
    報われると思いきや、そんな簡単な言葉で片付けられることではなく、
    逆に自分も同じような事をしていることで、
    犯罪者のような人間になってしまうということが共通になっています。
    憎しみから生まれた復讐からは何も良いことが生まれることは無いというのがよく分かります。

    どの事例でもラストのシーンは心詰まるものがありますが、
    最終章のジャッジメントは最近ニュースでも児童虐待の事が
    頻繁に取りだたされているのでとても胸を締め付けられる思いです。
    子供からの心の叫びの声には目頭が熱くなります。

    ストーリーの中では特に解決策というのは見出すことは
    出来ていないですが、罪を償うということを被害者の遺族にどのようにしたら最良なのかということを考えさせられました。
    そしてそうゆうことも含めて社会に問題提起されている
    作品だとも思います。

    小林さんの作品は初めてですが、それぞれの人物像がしっかりとして、描写も割と細かく描かれていたので感情移入もしやすく、読みやすかったので他の作品も読んでみたいと思いました。

  • 最終話にウルウルきた
    人は他人の痛みを理解できないから、傷つけてしまう。同じ立場になって初めて理解できる。ひどい殺され方をしたら犯人を同じ目に合わせていい。そんな法律ができたら自分はどうするか。相手と同じになるのと、相手を許すこととどちらが難しいのかな
    いろんなことを考えさせられる一冊でした

  • 「復讐法」と言う、犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として自らの手で刑を執行するお話でした。

    そんな法律あるわけないって思いながらも、もしも本当にあったら…と思いこの本を手に取りました。

    応報監察官と言う復讐法の執行を見届ける鳥谷文乃さんと、5つの犯罪からの話し。

    人を殺すことなんて簡単で、本当に難しいのは人を許す事。

    大人や子供、親子の役割も主従関係も存在しない家族。
    境界線のない世界。役割を降りても消えない絆。

    完璧な人間なんていないのに、自分の小さな傷や欠点を見つけて、その傷を自ら深く広げて自責の念に駆られる。

    暴力を受ける恐怖よりも、捨てられる不安の方が強い。

    死ぬよりも苦しいのは見過ごすこと。何も出来ない、何もしなかったのは自分自身だ。

    それぞれの話の中で沢山の心にささる文章がありました。
    実際に大切な人を殺された人間にしかわからない話なのかもしれませんが、自分が復讐法を選ぶ事は難しいです。

    はぁ~…
    モヤモヤが消えない…

  • 面白かった。
    目には目を歯には歯を的な感じで合法化された復讐法。
    難しいテーマですね。良いとも思うし良くないとも思う。
    そこら辺の葛藤がよく表現された作品だと思いました。
    読みやすかったし、良かったです。

  • 実際にこういう法律があって自分が当事者だったらどうしただろう……

    凶悪な犯罪が増加する中制定された「復讐法」殺害された身内が犯罪者に対して同じ方法で合法的に復讐できる法律。
    5つの事案があげられ応報監察官、鳥谷文乃が主人公として復讐をする執行人の葛藤やら本当の事件内容を垣間見てこの「復讐法」のあり方を考えていく。
    復讐法を選択して実際に殺害された身内と同じ事をして犯罪者を殺害する者。
    犯罪者と対話して真実を知り復讐はしなかった者。
    自分の今までしてきた事に対して間違っていた事に気付き犯罪者ではなく自ら命を絶つ者。
    それぞれの結末を迎える。鳥谷文乃は悩んでいた。この法律は本当に必要なのか?
    応報監察官の仕事はやはり自分に向いていない。最後の事件でこの仕事を去る事にする。

    「ジャッジメント」
    単行本が出てる時から気になっていた本です。
    文庫本化された事で買って読んでみました。
    自分が実際に当事者でこの法律が本当にあったら今までの刑罰ではなく復讐法を間違いなく選んでいると思う。
    しかし、選ぶのと実際に自分が執行するという事は別問題になる。
    中々考えさせられる内容で一気読みでした。
    これって映像化されるんではないでしょうか。
    ただ残虐なシーンは問題ありですが……

  • 「遺族が合法的に加害者に報復できる」そんな架空の世界を舞台に、罪と罰とは、という問い掛けをしてくるような一冊。その設定だけで、後味が良くなるはずはないというのがある意味決定づけられているとも言えるので、まあそうなるよねえ、という章が多かった。

  • 復讐というと、殴られたから殴り返す、あぁ言われたからこう言うみたいなことばかり思いつく。しかし、作中の復讐とは、大切な人が残虐な殺され方をした遺族に許された、人を殺すことを認めた法律のこと。
    私が考える復讐とは訳が違った。昔、復讐をする方が精神的にもダメージを受けるということを聞いたことがあったけど、私には理解ができなかった。しかし、それは復讐のイメージがそもそも軽かったからだ。
    平凡な日々を送ってきた人が、人を殺すというのは相当な覚悟と精神の強さが必要だ。怖気付いてしまったりして、逃げ出してしまいたくなる。しかし、逃げてしまえば、大切な人が残虐な殺され方をしたにも拘らず、逃げてしまった自分を許せなくなってしまう。立ち向かっても地獄、逃げても地獄。八方塞がりだ。

    遺族の苦しみが痛いほど伝わってきて、苦しくなった。許せない、怖い、犯人と同類になることへの嫌悪、大切な被害者を思う気持ち、いろんな気持ちが一気に流れ混んできて、しんどかった。
    私が権利者の立場にいたらどうだろう?大好きな家族や友人を殺されたらどちらの道を選ぶだろう。そんなことを考えたら悲しくなってしまった。

    サイレンでは、最後にいい父親でありたいって気持ち、ボーダーでは、娘の悲しみと強さ、アンカーでは権利者たちの友情、フェイクでは、したたかさやずるさ、ジャッジメントでは圧倒的な切なさと兄弟愛。一冊を通してポジティブな感情はまったく芽生えないけど、妙に引き込まれてしまった。1ページめくるごとに心がギュッと切なくなる。


    第3章 アンカーの「胸を三回刺した」ところがとても好きだ。

  • 無差別殺人事件のニュースをみると、犯人にも同じこと体験させてやりたい、とは思うけど、被害者に近い人にやらせるとその後の人生に影響しそう、とも。
    ただ、精神鑑定の結果不起訴になるのは、被害者側になったら納得できないだろうな。今だったらVRでできないのかな。

    復讐法があって、選択できる立場になったらいろんな葛藤があるだろうな。復讐することを選んでもその場に立ったらできないような気がする。
    5篇のなかでは『ボーダー』が好きだな。復讐法が無ければ真実は分からないままだったんだろうな。『フェイク』は嫌な結末だった。

  • 特殊な法律の元での葛藤
    女性の視点が強く出ていた

  • まあ凶悪事件が起こるたびに湧き上がる”厳罰化論”に究極の状況で向き合おうという形で出て来た話なのかな?と思い、かなり無理のある設定もある程度はこう斟酌して読んでいくわけですが…。やっぱり設定の無理さ加減が厳しすぎる~。

    そもそも刑法システム自体が「当事者同士で直接対決状態にしたらワヤクチャなりますがな。」というので出てきたのにガチガチのはずのシステムに大本のそこぶち込んでどうするのよ~。陰惨な、非人道的な殺害を目前で繰り返し職務で見させられる職員の人権問題から、鉄板のはずの”被害者とまったく同じ状況で『のみ』遺族が刑を執行できる”っていう大原則全く守られてないし。じゃあ業務上過失致死のケースで壮絶ななぶり殺ししても止められないって事になっちゃうじゃんね。

    てか万引きとか経済犯とかどうやって復讐(しかも刑務官の立会いの下で、服役中に)するんですかな?あと親族間で選択の意見がまとまらない事の方が多そうだし。

    と文句たらたらしつつも、厳罰化論の持つ答えの出ない、でも結構色々言い尽くされた感もある葛藤の部分は割と臨場感を持って描かれてて、デビュー作でこれは凄いな、と思いました~。一気読みしちゃったし。

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著者プロフィール

1976年長野県生まれ。11年「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。2016年、同作で単行本デビュー。他の著書に『罪人が祈るとき』『救いの森』がある。

「2020年 『イノセンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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