文豪怪奇コレクション 幻想と怪奇の夏目漱石 (双葉文庫)

著者 :
制作 : 東 雅夫 
  • 双葉社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575524208

作品紹介・あらすじ

いまなお国民的人気を誇る文豪・夏目漱石は、大のおばけずきで、幻想と怪奇に彩られた名作佳品を手がけている。西欧幻想文学の影響が色濃い「倫敦塔」「幻影の盾」から心霊小説の名作「琴のそら音」を経て、名高い傑作「夢十夜」、さらには今回初めて文庫化される怪奇俳句や怪奇新大詩まで、漱石が遺した怪奇幻想文学作品のすべてを1冊に凝縮! 怖くて妖しい文豪名作アンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • 双葉社さんゴメンなさい。平凡社さんか筑摩書房さんと勘違いしていました。

    文豪怪奇コレクション 幻想と怪奇の夏目漱石 夏目漱石(著/文) - 双葉社 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784575524208

  • 新潮文庫で読み、ちくま文庫全集で読み、これで三度目。
    ちくま文庫でいえば第2巻(初期)と第10巻(小品)を並べ直したようなセレクト。

    ■鬼哭寺の一夜 ……新体詩。女人幻想。
    ■水底の感 ……藤村操「女子」(!)について。
    ■夢十夜 ……まあいつもの。
    ■永日小品(抄) ……蛇/猫の墓/暖かい夢/印象/モナリサ/火事/霧/声/心 ……二度読んだあと、ポッドキャストやCDやで何度聞いても、憶えられず、そのうち眠ってしまうのが、こちら。このままの付き合い方を続けたいとも思う。
    ■一夜 ……確かに「だからどうした」という感想。とはいえ「草枕」の萌芽があるとも感じる。「猫」や奥泉光の諸作でも度々感じることだが「益体もなさ」を愉しむ時間を持てることこそが読書の醍醐味だ、文章を読んで日常や生活からほんの少し遊離することが読書の経験だ、と。何か得られるものを求めるのではなく、文章を読む時間そのものが娯楽である、と。憂慮、煩悶、輾転反側、真面目腐った理念、から一線引いたところでものを書いていこうという表明のようにも感じる。百数十年後の読者としては、イデオロギーから一線引くための態度を漱石から得るというのも、ありかもしれない。大袈裟な言説は「ひとまず信じるな」というのは、押井守も言っていたことだし、吉本隆明も煎じ詰めればそう言っていたと思う。
    ■吾輩は猫である(抄) ……首くくりの松の個所。
    ■琴のそら音 ……なんか心配になったけど結局大丈夫で安心した、というだけの話。だが外界の描写と内面の描写が緻密に溶け合っているので、「どう心配になったか」「どう暗示が埋め込まれたか」「どう不吉な兆候に行き会ったか」読むうちに、体験しているように感じた。それが大丈夫とわかって解放され、床屋と客のいい口調の会話でさらに解放され、最後に嬉し恥ずかしな場面が来ても清々しい。読み手を操作する巧みさに充ちている。家政婦の婆さんもいいキャラ。心霊への興味と対応は「吾輩は猫である」にも似通った水準。
    ■趣味の遺伝 ……探偵は厭だ嫌いだというのは漱石のいつもの調子だが、自嘲しながらも探偵した結果が開陳される。なるほど「異性の」趣味の遺伝か! 夢野久作を連想せざるをえない。また、結構際どい夢想を繰り広げながら、出征兵士を送り出す群衆に遭遇する。逆かな、群衆の狂乱から、狂騒的な戦場を妄想する。その念入りさが凄まじい。なんとなく「愛のコリーダ」で吉蔵が行進する兵隊に逆行する場面を連想したりもして。ところで「陽気の所為で神も気違になる」という冒頭は印象深いが、それに続く数節で戦争の夢想に至るとは、忘れていた。
    ■倫敦塔 ……中野京子「怖い絵 泣く女篇」にあった、ポール・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」をナショナル・ギャラリーで見て、漱石は着想を得ている。ジョン・エヴァレット・ミレー「オフィーリア」が「草枕」の那美の着想の一部であるように、漱石と絵、という着眼点は大学生当時にはなかったので、今回実作を通じて気づけてよかった。
    ■幻影の盾 ……山尾悠子が「傳説」を書く際に「……と思え」という言い回しを拝借したという文体。漱石は3回、山尾は22回も! 拡大利用甚だしい。
    ■薤露行 ……断念。
    ■マクベスの幽霊に就いて ……断念。
    ■漱石幻妖句集 東雅夫 選 ……「菫ほどな小さき人に生まれたし」は有名だが怪奇の文脈で選ばれると、これはこれで。また「あんかうや孕み女の釣るし斬り」のあまりの残酷絵ぶりよ。
    □編者解説 ……この文庫でシリーズを始めようとする気概ばっちり。

  • タイトル通り、漱石の幻想的な作品を集めたアンソロジー。編者はお馴染み東雅夫。どうやらシリーズ化予定されているようなので続巻が楽しみ。

    まずは漱石、おなじみ「夢十夜」や「倫敦塔」などの代表的幻想作品を始め、「幻影の盾」「薤露行」など、アーサー王伝説や騎士の時代の英国に題材をとったものなどを収録。詩句が収録されているのはわりとレアかも。

    迷信深い家政婦のお婆さんの言葉に惑わされて、婚約者が命の危機かも、と恐怖に襲われあたふたする男性の「琴のそら音」や、戦死した親友の墓で擦れ違った美女の正体について調べる主人公が彼らの先祖の因縁に解決を見る「趣味の遺伝」などもとても面白かった。

    ※収録
    鬼哭寺の一夜/水底の惑/夢十夜/永日小品(抄)/一夜/吾輩は猫である(抄)/琴のそら音/趣味の遺伝/倫敦塔/幻影の盾/薤露行/マクベスの幽霊について/漱石幻妖句集

  • 夏なので幻想怪奇系積読消化するぞのじかんです。
    これは最近買った本だからそんなに積読じゃないけど、積む予定だったから読めてよかった。
    幻想怪奇かとゆーとそこまでではなかったけど、「琴のそら音」とか面白かった。
    「薤露行」は、わたしはアーサー王伝説をぜんぜん知らんので、Wikipediaとかで調べながら読んでたよ。擬古文しんどかったけど、話に合った文体やとおもた。

    あと、夏目漱石てやっぱり「人というのはこういうものだから」ていうのを描写するのがものすごくうまいというか、今まで意識してなかったようなそういうのを分かりやすく言語化してスーンと納得させてくれるよね。

  • 「幻想と怪奇の」夏目漱石。面白そうなのが出るなあと注目してた。
    ちくま文庫の文豪怪談傑作選が頭をよぎるも、編者が同じだし、著者も作品も重なるところはあまりなさそう……? あちらもほぼ未読なので気になるところ。
    「鬼哭一夜」「水底の感」「夢十夜」「永日小品(抄)」「一夜」「吾輩は猫である(抄)」「琴のそら音」「趣味の遺伝」「倫敦塔」「幻影の盾」「薤露行」「マクベスの幽霊に就いて」、漱石幻妖句集(東雅夫・選)を収録。

    「夢十夜」は何かと読んでいながら、幻想と怪奇のイメージがいまいち著者に結びつかないでいた。こうして選りすぐってもらえれば、知らなかっただけで色々なアプローチをしていたんだなと興味深く面白い。ただ四角四面というのではないのだけど、(特に文語でない作品の心理描写の面で)綿密に繋げられた、あそびないし揺らぎの少ない文が饒舌な印象はやはりある。それも魅力ではある。
    まず「鬼哭一夜」がよかった。ワキの到着から間を飛ばし、後シテの登場と退場を凝縮した夢幻能の趣。寂しく物憂い夜の情景に続く、「歌か詩か」の語りの凄さに魅せられる。菫はもしかして著者のこだわりどころだろうか。
    『真景累ケ淵』でも言っていた「神経」を活き活きと描く「琴のそら音」も特に面白い。津田君とやりあって辿る家路の怪しさに、婆さんの迷信深い心配性が重なって恐怖が募る。馬鹿馬鹿しいのに、恐怖につかまれている間はどこまでも本気。
    「倫敦塔」「幻影の盾」「薤露行」は続けて読むと格別の味。

  • 夏目漱石の怪奇幻想名作集。昔「吾輩は猫である」は読んだけれど、そうかそこにもこんな怪奇幻想のエッセンスがあったのか!
    やはり何度読んでも「夢十夜」は素敵です。そして一見紀行文のようにも見える「倫敦塔」は、歴史の色々を知っているとさらに趣深く読める一編。
    新体詩や幻妖句集が収録されているのが嬉しいところ。短いけれど、怪奇幻想はぎゅぎゅっと詰まっている印象です。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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