- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575524406
作品紹介・あらすじ
令和よりちょっと先の未来、国民は99%の働かない<消費者>と、働く1%のエリート<生産者>に分類されている。労働の必要はないけれど、仕事を斡旋する職安の需要は健在。いろんな事情を抱えた消費者が、今日も仕事を求めて職安にやってくる。ほっこり楽しい近未来型お仕事小説!
感想・レビュー・書評
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面白かった!渡し鳥の想像図をついつい落書きしてしまう。
装丁も星新一本っぽいが、内容もあの系統の読み応えというか、ええ感じでした。
99%の「消費者」と1%の「生産者」、国民には厚生福祉省から生活基本金が支給されていて、労働する必要が全くない(人間の代わりにロボットやAIが働いている)、平成よりちょっと先の未来という時間設定のSF。基本生活費は支給されるとはいえ、一人暮らしは無理な金額で、世帯人数が多いほうが生活が楽になるというシステム。そんな世界で家族と離れて暮らしたい女性が、独りで暮らすために、卒後に就職し、辞職し(ここらへんの話もとても面白い)再就職した職安で起きる出来事のストーリーなんだが、結構あちこちに出てくる文章がぶっささる。
P90
”厚福省の生活基本金は、ひとりで生きるには少し厳しい金額に設定されている。一方で家族をつくってまとまって住めば、いくらかの節約になる。
だからみんな結婚して、子どもをつくって、人数分の生活基本金をもらう。
そうやってこの国の人口は維持されている。
ずっと昔から、まだ科学技術なんてものが生まれる前からこの国はそういう風に運営されていたらしい。普通の生き方をしていれば国からきちんと面倒をみてもらえるけど、そこからちょっとでも外れるとひどく面倒な事になる。だからみんな、寒い土地で身を寄せ合うように「普通」へ「普通」へと向かっていく。”
p127
”「事務員?という事は、そちらも社会人の方ですか」
「社会人?」
と私が聞き返すと、
「生産者の昔の言い方だよ」
と大塚さんが小声で補足する。なんだそりゃ。まるで消費者は社会の構成員じゃないみたいじゃないか・ひどい言葉もあったものだ。”
とても短くて読みやすいので、
ランチタイムに1冊イケる系
あ、そうそう、
SNSは、EsEnEsという名前に置き換えられているんだが、
SNSって日本語で書くとエスエヌエス、全部エでスタートするやん!
という、ことに気づかされて、妙に興奮してしまった(なんやねん、それ)
ローマ字表記すると、Eが3つ!(興奮)
そんな感じで、久々に小学生か中学生ぐらいのころに
戻った気がしました。こんな感じの作品めちゃ好きでした。
(今も好きだと再確認した)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
▼近未来の「職安」を舞台にしたSF連作短編。「働く」ということの意味合いが「エリートであること」になってしまっているなど、格差社会が突き抜けた設定で、一方で生活保護的セーフティーネットは「一応行き届いている」という設定なので、それほど胃液が逆流せずに読めます。
▼目黒さん、というのが「普通の常識」を持っている女性で語り部で、言ってみればワトソンさん。副所長の大塚さんというのが奇妙奇天烈な変人、中年男性キャラクターで、言ってみればホームズ役。
▼読み終わってしばらくすると、細部はともかくこのふたりのやりとりがとにかくほのぼのと面白かった、という後味だけがはっきり残っています。とっても好印象で、面白かったんです。設定のSF的な苦みを追求しすぎない「ゆるさ」が持ち味だと思います。続編あったら読んでもいいかな、という好ましさ。
▼妻のすすめで気楽に読んだんですが、なかなか自分だけの守備範囲だとこういうのは読まないから、ありがたいですね。 -
人の仕事の多くがAIなどによって機械化され、ベーシックインカムによって働かないことが普通になった世界のお話。SFらしく皮肉を込めたギャグみたいなものもあるけど、実感としてはあり得る世界かなと思いました。
主人公たちの仕事は仕事の斡旋ですが、職安という名称が残っているのも皮肉ですね。 -
99%の人が"消費者"として、働かず、生活するのに必要なお金を国からもらって生きていける・・・そういう時代のお話。未来は現在のいくつかを否定してできるものでもあるので、ショートショート的な風刺が効いている。
交通事故を題材にとった二章『未来就活』がよかった。"責任を取って辞める"ということ、及びそれを求めることの効力や是非を考えてしまう。今すでに、主に政治において責任という言葉の軽さに慄いているところだけど、軽いからといってなくしていいわけじゃない。でもじゃあ、重みをもった責任の取り方ってなんだろう?結局のところ「納得」できれば行為の内容は何でもいいんだろうか?
「機械には絶対にできない仕事だ、誇りをもって取り組んでくれ」って言われてもな・・・?! -
再読。
ベーシックインカムの一つの姿。
働く意味とは。 -
「まず牛」の所でも述べたが、今後の柞刈作品の読書計画で迷っていた。が、迷いは即刻無くなっていた。いや、無くなったと言うよりも、加速している。このままでいくと、柞刈ロスが生まれる可能性があるので、ここは心を鬼にして現在読んでいるハヤカワ文庫JA「人間たちの話」で一区切りしたいと思っている。でもそれじゃだめだ。ここでハッキリと中断宣言する。それくらいの強い意志を持たないといけない。
さて、本書は前職の県庁交通事故責任担当で責任を取らされて失職した後の話で、職安を使わずに職安で働くのも面白い設定。しかし、働かない人が99%の世界ってパラダイス。しかし「働く」という言葉の定義をどの様に設定するかによって、この働かない人=99%の世界に意外と近づいている。単に「働く」というものが労働に対して対価を得るのであればちょっと定義が広すぎる。「働く」という質を考えた数値で再評価する必要もある。ホワイトvsブルー、労働時間、管理vs被管理、生産性vs非生産性等の構成を考えただけでも、等価なのか非等価で労働強度といった数字の重みづけも違ってくる。
人間が人間になる前の世界では働かない人=0%とすると、今世紀は働かない人が急増するのは間違いないだろう。しかし、働かない人の死亡率が高くなり、いくらAIが発達したとしても、働かない人=99%の世界にはなかなか到達できないのではないかと思う。人間は働く、というか生物は働くのだ。寄生虫だって寄生の対価が栄養とすると、仕事をしないと死んでしまう。生まれる前から一生分の栄養を所有しているのなら、寄生しなくても生きていける。でも、それって本当に寄生虫なの?つまり、働かない人間って本当に人間なの?働くという楽しみを失った人間って本当に人間なの?と、率直な感想が頭の中をよぎった。
作者はさすが生物学研究者だけのことはあるな、と感心した作品でした。 -
唐突ですが近未来が舞台の話です。
あくまで個人の主観ですが、小説で「近未来」というとパッと思いつくのは、ディストピアとか、機械やコンピュータに支配されてるとか、荒廃した社会だとか(どんな小説を読んできたんやという話ですが)、ネガティブなイメージです。
この小説の近未来は、なんて言うんでしょう、ほんとこのまま10年もすれば普通にこんな感じになってるかもって思えるほどの「身近さ」を感じさせられる近未来です。
とはいえ、「暮らしの中の物事はほぼ自動化され、人間がやるべき仕事も激減した結果、国民の99%は〈消費者〉として、働かなくても国から支給される生活基本金で暮らしていける。残り1%が〈生産者〉として働いている。」なんていう設定は、冷静に考えれば10年どころか人類が終わるまで実現しなさそうではあるのですが。
それでも「身近さ」を感じるのは、主要な登場人物の二人が特別でも何でもない職安の経営者と事務員という設定で、なおかつ彼らのごく普通のお仕事を描いているからでしょう。ほっこり安心します。
現代人が明治〜昭和初期のころを振り返るように、時折り平成の世の社会や暮らしぶりを「教科書で学んだ、現代では考えられない奇妙なこと」として、彼らが語ることが個人的にはツボでした。
このように、取り立てて何か起こるわけでもない、「未来の日常」だけっちゃあだけなんですけど、妙に気に入っちゃいました。
柞刈湯葉さん、初読みだったんですが、他の作品も読んでみます。 -
星新一のショートショートのロングバージョンみたいな印象。
オチは結構好き。