歴史のなかの米と肉 (平凡社ライブラリー)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582765410

作品紹介・あらすじ

日本人の米に対する強い志向と肉食を禁忌とする意識は、いかに形成されてきたのか。それは、天皇および天皇制、差別、農耕と狩猟など、日本史をめぐる重要なテーマに、どのように関連しているのか。食文化の歴史を日本史研究のなかに、初めて正当に位置づけた問題の書。

感想・レビュー・書評

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  • 鎌倉では魚介類や鳥類、鹿、猪、狸、入鹿、鯨の骨が出土しており、肉食が普及していた。

  • 近世まで日本では肉食禁忌があった。それは仏教の普及と関係していると従来言われている。本書の論は、これが必ずしも仏教の影響ではなく、むしろ日本人の異常な米穀への執着から生じたものであるとする。
    米生産において農耕畜は大切な存在であり、特に牛はその中心であったので牛肉食禁忌が生まれた。
    その思想文脈で武士社会の儒教・朱子学の発展に伴い、秩序階級重視の姿勢から人間→牛馬家畜→野生の猪鹿→鳥類→魚類の清穢序列が生まれ、次第に肉食禁忌が生まれた。
    米生産の増大を重要視する国家権力により、米信仰が醸成され、これが仏教や神道思想を利用する形で社会通年化した。
    さらに穢多などの屠殺に関わる集団への身分差別や、新嘗祭を行い五穀豊穣(特に大切なのは米)を司る天皇の存在もこれに関連する。
    としている。
    しかし、1993年出版の本書は、リベラルエコロジーや左翼思想のエッセンスがちりばめられており、時代を感じさせる。

    古事記などに出てくる朝廷への抵抗民「土蜘蛛」。蜘蛛は時代劇の「蜘蛛の巣党」や仮面ライダーの「蜘蛛男」として現代も日本人に「悪」のイメージでとらえられる14

    船津伝次兵衛 大久保利通に推挙され、東大農学部講師に、さらに農商務省に出仕32

    維新後の北海道開拓民は、育たないという理由で稲作を禁止された。が密かに工夫をして作る者あり。この中には捕まる者も出た。しかしその努力と工夫で明治20年頃には品種改良等で稲作が出来、普及する。この技術は北部満州やロシアにまで伝わった。35

    朝鮮併合による皇民化政策では、創氏改名や日本語教育が知られているが、産米増殖政策での米に対する価値観の押し付けによる稲作の強制も重要な要素だ41

    弥生時代は「稲作が普及」したが、「米食を中心にした社会が急速に広がった」訳ではない。それは発掘された水田や集落家屋の規模と、当時の収穫量の想定で測ると、米食だけではエネルギーが会得出来ない計算になるから49

    稲作には豚の家畜飼育を伴うことが世界的な歴史。日本は例外的に家畜を伴わない農耕が行われていたとされるが、近年の発掘からは否定されてきた。日本の農耕も初期の弥生時代には豚の飼育がされていた可能性がある51

    米は古語で「オオチカラ」と読んだ。うどんに米から出来た餅を入れたものを今でも「力うどん」という。151

    日本の差別(非農業民に対し)が進行したのは、肉食禁忌と米の至上主義が加速した室町期203

    鎌倉新仏教は、その信者大聖寺に穢多などの非差別民を多く抱えていた。さらにその開祖たちも、穢多などにルーツを持つと思われる者が複数いる。217

    沖縄と北海道は米の文化が浸透した地域とはみなされない。近代まで、北海道は狩猟と漁撈(和人は交易での穀物を含む)、沖縄はサツマイモの畑作を中心に漁撈と畜産(豚と山羊)(中世前半くらいまでは採取と狩猟)による食料の獲得が中心だった253

    安藤昌益は八戸生まれ。近世の思想家。共産主義・農本主義・エコロジー・アナキズムに通じる思想。米への執着、信仰をする。
    「人間は米穀の正体で、世界は米穀の原理によって動かされている」というヤバい思想294

    農本主義的左翼評論家村上一郎「日本人か正月に餅を食っているかぎり、天皇制は安泰だ」319

  • 肉は禁忌されるものという感覚があったことさえ忘れていたのだが、祖母が正月の間は肉をかたく家族に禁じていたこと。お盆もだった。その一方、兎や狸を魚同様さばけたことを(屠る?)リアルに思い出した。

  • 国家の基盤を米の収奪においてきたため、米の祭祀者として中心に天皇が存在し、農耕者はそのシステムに属する。一方、狩猟・漁労はこのシステムの外に存在するため、差別の対象になる。この書は、その仕組を歴史的な経緯と豊富な資料を元に語った基本的な文献。

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著者プロフィール

一九四九年・栃木県生。明治大学大学院博士課程中退。博士(史学)。現在国士舘大学21世紀アジア学部教授。著書『中世村落の景観と生活』(思文閣出版、一九九九)、『歴史のなかの米と肉』(平凡社、一九九三)、『食をうたう』(岩波書店、二〇〇八)他。

「2016年 『日本人はなぜ、五七五七七の歌を愛してきたのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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