- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582767322
作品紹介・あらすじ
遠い日の故郷福井の想い出、奉公先での読書と夜学で出会った恩師、愚かしい戦争と「東洋」の消滅、数万片の甲骨資料のトレースと、ガリ版刷りの日々-自ら綴った生い立ちと、各界著名人との対談から、白川静の学問と人生が浮き彫りになる。九十歳を記念して刊行された魅力あふれる一冊。
感想・レビュー・書評
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オススメ本に入っていたので、読了。
自身の生い立ちを語った自叙伝パートと、対談パートから成る一冊です。
二つ、紹介されていた言葉で心に残ったのが、「居は気を移す」と「拙を守る」でした。
「居は気を移す」は、東大の先生に自分の論文を読みもせず、著作を貶されたことへの皮肉として使われているのが面白いのですが。
『孟子』にあって「住む場所や地位によって人の気性は変わる」という意味のようです。
「拙を守る」は陶淵明の詩句にあって「拙さを常に心に持ち、愚直に徹する」という意味なのかなと思います。
不器用な自分に響いた言葉でした。
内容としては、常用漢字に言及した箇所が多かった、というか目についたのだと思います。
漢字を単に暗記させることで、かえって覚えられなくなっているとか。漢字の持つ創造性が失われてしまっているとか。
しかし、嘆く一方で、戦後ローマ字化をアメリカから求められながら、守ることの出来た部分については肯定するような言葉もありました。
字には物語が潜んでいて、白川静に触れると世界がそこからパノラミックに広がっていく感動がある。
ただ、まあどうしても辞書的な使い方をするので、体系的に触れられなくて、時々こうした本を読んで想像を巡らせています。
タイトルの「思」にも「想、念、憶」などといった字があり、そこからその人の心が見える。
言葉に豊かでありたいなぁ……。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
白川静の代表作とも言うべき「字書三部作」である『字統』・『字訓』・『字通』に取り掛かったのが73歳のときであるという。何かを始めるというのに「遅すぎる」ということはないのだ。
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白川先生は素晴らしい!
昔の人って、凄い勉強家なんだ…
今からは考えられないな。 -
日経の連載もの、白川静「私の履歴書」がまず冒頭に。これが主題です。あとは対談集として編集されています。対談としては、呉智英との「雲山万畳、猶ほ浅きを嫌ふ」がカチッとしたものとなっていて、この本の全体的な質を高めています。以下、一部を引例。。
ものに部分というものはない。部分は、全体に対して、全体の中においてある。部分が明らかになるときは、同時にその全体が理解されるときです。少なくとも、その可能性が開かれたときでなければならぬ。これを文字学のうえからいえば、特定の文字だけが理解できるということはない。わかるときには全部わかるのです。全部がわかるということは、その体系が把握されたということです。(pp.128-29)
白川静という人は、どこまでも東洋の精神の淵源を摸ろうとしました。「東洋」への慕情、といいかえてもいいのかもしれません。ここが、偉大なる所以なのでしょう。ただ私には、ここが根本的な疑問となっています。
いずれにせよ、日本人は漢文の素養を失って久しいわけで、戦後日本の諸悪の根源もここにあります。ところで石牟礼道子曰く、摂関時代には、歌詠みとしても一流の知識人たちが大臣を務めたのに。今の議員さんたちも選挙をやめて歌を詠んで、それで国民が審判したらいいなとか思ったりするんですけど、歌どころか日常の言葉も下落しているのでは無理ですね、と。(p.380)
I cannot refute her claim…。