並木印象

著者 :
  • 平凡社
3.70
  • (2)
  • (10)
  • (8)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 73
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (199ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582835090

作品紹介・あらすじ

さくら、すずかけ、さるすべり。こころに眠る思い出を、並木がよびさます。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • +++
    帰りそびれた春の夜、戻らない夏の時間、校庭で膝を抱えていた秋……思い出の背景にはいつも並木がいてくれた。さくら、けやき、いちょう……季節ごとに想起する20篇の物語。
    +++
    1 さくら けやき すずかけ いちょう まつ とち ふう やなぎ
    2 ヒマラヤスギ メタセコイヤ こぶし はなみずき とねりこ 白樺 フェニックス えんじゅ さるすべり しいのき きんもくせい くすのき
    +++

    さまざまな時、さまざまな場所、ときどきに高く低く心持ちを抱いて並木道を歩く。一本一本の木に心を止め、木肌に触れて、そのときそのときの自らのありように想いを馳せる。
    わたしの勝手な印象だが、著者は自分ルールをしっかりと持っていらっしゃるように思う。控えめながら芯のしっかりした女の人なのだろうと想像する。それでいていつもどこかに心細さを感じさせられるのだが、今作ではその心細さが際立っているように思われる。体調の不安のせいかもしれない。お節介とは判りつつ、木肌にそっと手のひらを当てるようにそばにいてあげたいと思ってしまう。ところどころで著者の振れ幅に共鳴して泣いてしまうような一冊である。

  • さくらやくすのき、きんもくせいなど木々の名前がついた短編集。服装や食べ物を思い浮かべながら読むのは楽しい。ひらがなのやわらかさと行き交う人々の会話が落ち着く。

  •  メモしたくなるような言葉がたくさんあった。それはすべて、
    こんなふうに不器用な気持ちの在り方に救いをみせてくれるようなものだった。

  • 2013 1/28

  • 2012/11/27
    復路

  • 同世代(正確に言うと年下)の方にもかかわらず、石田千さんの本は書き方もテーマ古い匂いがして、そこが一番の魅力だといつも思う。この本は装丁からして古本仕様だし、テーマが木だし、
    ますます枯れたシブいエッセイかとおもいきや、身辺の人間関係をからめたけっこう赤裸々な個人的心情を綴っていたので、意外でした。もっと飄々とした達観した人かと勝手に想像していたので、なんか安心したな。特に白樺は、同じような父母を持つ身としてつまされました。

  • 目次が木の名前でそれを眺めるだけで
    へへ(*´-`*)と幸せになります
    そして千さんの描かれる文字がとても素敵

  • 『はじき出された駅は、みどりの息が深い。夜ふかしの町の朝は、ぜいたくなほどひとけがない』-『けやき』

    決して人を混乱させるような長々として曲がりくねった文章というわけではない。むしろ、淡々、という印象につながりそうな、どちらかと言えば素っ気ない短い文章が並ぶ。迷うことなど少しもなさそうな見た様であるのだけれど、気付くといつも迷子になっている。途方にくれてしまっている。しかしそれが不快ではない。むしろ楽しくさえある。メレンゲを口に含んだ後のような、既に実体のないものにいつまでも幸せを感じているような、そんな印象にとらわれる。

    石田千の書くものは、かげろう、のようで、現在とも過去ともつかない佇まいを見せる。そんな様子を眺めているだけだというのに、ノスタルジアが運ばれてくる、不思議。かげろうの正体は、だから、過去に存在したものであるだろうとあたりをつけてはみる。はっきりしているのはそれが未来のものではないことだけである。それはぼんやりと現在という立体のスクリーンに影を落とすのだ。過去であるゆえ、そしてそれが投影であるがゆえ、その存在ははかなさと一体で、読むものはふと手掛かりを失い途方にくれてしまう。手応えもないままに、過去に存在したものの残像だけをいつまでも抱きしめなくてはならなくなる。

    それはぬくぬくとした過去の悲しい記憶である。そして今この一瞬を支える糧ともなるもの。理由のない幸福感を紡ぎだし得るもの。過去は常に美しいのだ。

    しかし、それは一瞬の幸福であることも、また、忘れてはならない。例えばそれは、マッチ売りの少女のみた幸せの食卓。マッチのある限り何度でもかみしめることはできもするけれど、やがては消えてなくなってしまうもの。そして現実に手にしたことの無いものは思い浮かべることも叶わない。そこに気付くと警鐘が鳴りはじめる。そこにいつまでも浸っていていけない、と誰かがどこかでささやく。その声にしっかりと耳を傾けなければならない、と解かってはいる。しかし郷愁というのは人にとって、希望の未来なんて不確かなものよりも余程現実味のあるもの。その甘い罠は相当な引力がある。とらわれる、は、やはり、囚われる、なのだ。

    それにしても、石田千の描く過去をいつのまに自分は知っていたのだろう。何の共通体験も持ち合わさないことも知った上で、なお、この郷愁はほんものだと思っているのだけれど。

  • 2011/08/08-15 文章がやや抽象的な箇所あり、集中して読むことが求められる。

  • いつもながら潔い書きっぷりが見事です。しかし、自分は樹木を知っているつもりが、意外と知らないことを改めて感じました。

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

石田千(いしだ・せん)
福島県生まれ、東京都育ち。國學院大學文学部卒業。2001年、『大踏切書店のこと』で第1回古本小説大賞を受賞。「あめりかむら」、「きなりの雲」、「家へ」の各作品で、芥川賞候補。16年、『家へ』(講談社)にて第3回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。16年より東海大学文学部文芸創作学科教授。著書に『月と菓子パン』(新潮文庫)、『唄めぐり』(新潮社)、『ヲトメノイノリ』(筑摩書房)、『屋上がえり』(ちくま文庫)、『バスを待って』(小学館文庫)、『夜明けのラジオ』(講談社)、『からだとはなす、ことばとおどる』(白水社)、『窓辺のこと』(港の人)他多数があり、牧野伊三夫氏との共著に『月金帳』(港の人)がある。

「2022年 『箸もてば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石田千の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×