- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582838091
作品紹介・あらすじ
子供も大人も精神の不調を抱える現代、自分とは違う「棲まい方」をしている他人の世界を知ることで、自身の「棲まい方」や生きづらさを相対的にとらえ、共生を目指す入門書。
感想・レビュー・書評
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図書館で3名待ちだった本。「中学生の質問箱」と書いてあったので、超入門書だと思い込んでいたが、読んでみると超専門的!しかし、分かりやすい。
正直、中学生には理解不可能な気もするが、高校生高学年以上なら、そして、医師や看護師などの医療スタッフを目指す学生、自分はもしかしたら心の病気なのかも?と思っている方、そのご家族や友人、支援者や雇用者の方にも読むことを推奨します。
2019年7月に初版第一刷なので、かなり新しい本。最近起こった事件などにも触れつつ、心の病気を持つ方がどのようにして発症し、どのように自分自身の病気を捉え、どのように医療者との信頼関係が構築され、治療がなされ、そして治癒・寛解していくのか、あるいは再発してしまうのか、具体的に、そして理解のために必要な知識面も補いながら、丁寧に解説してくれる本。
それだけでなく、精神医学の発展に際し、これまで行われてきた非人道的な、患者に対する管理方法(魔女狩りや座敷牢、隔離政策など)、治療方法(ロボトミー手術、マラリア発熱療法、インスリンショック療法など)、そしてその背景にある人々の精神疾患に対する認知、捉え方、そしてその変遷を歴史を通して、精神医学の発展の経緯と、人々の心の病気に対する認識の変化も学ばせてくれます。
このあたりを学ぶことで、心の病気の治療方法が、「管理する」ことから「一緒になって理解する」ことへ変化していった理由と意味、そしてその有効性を知ることが出来ます。
身体的な病気とは異なり、認知されたのが大変歴史の浅い(フィリップ・ピネル以来、せいぜい200年強の歴史しか経っていない!)、また「主観的」で「対象化」しづらく「操作(治療行為)」が難しい病気である心の病気について、医療者や家族などの関係者、そして本人がその病気とどのように対峙していけばよいのかを考えるうえで、非常に参考になると思います。
本書は心の病気全般を扱いますが、主に、統合失調症、気分障害(うつ病、躁うつ病・双極性障害)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、解離性障害、転換性障害、強迫症、摂食障害、社会不安障害、発達障害、認知症など。ほかにも境界性パーソナリティ障害(ボーダーライン)、知的障害など、様々な病名が細かく紹介されています。
更には、現代社会の社会構造上重視されている「コンプライアンス」「成果主義」が、「インクルデンツ」「レマネンツ」といった心の病気を引き起こす誘発因子になり得ること、身体障害に対する「バリアフリー」化は進んでいるが、「障害者差別解消法」が2016年に成立した今でも、精神疾患の方に対する「差別」は根強く、理解と知識の共有がなされていないため、病気の苦しみにプラスして、差別に苦しむ社会に生まれたという社会的な苦しみの、二重の苦しみを背負っていることを指摘しています。
この本を読んで、確かに今でも生きづらい世の中だなとは思いますが、「わかる」「寄り添って理解する」という努力できる「器」を、それぞれが問われる時代になりつつあるのではないかと感じました。
いつ、誰が(自分が)、発症するかわからない心の病気について、無知ではいられない時代だからこそ、自ら「学ぶ」ことが必要だと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「中学生の質問箱」シリーズの1冊ですが、第1章の「心の病気ってどういうもの?」を読みはじめたときは、正直「なんだか難しいな」と感じました。
しかしそれは文章が難しいというよりも、理解するための思考を必要とするため、難しく感じるのだとわかりました。
第1章では、心の病気と体の病気の捉え方の切り口がちがうことや、それをふまえて心の病気に対してどんな治療が行われているのか、治療の歴史も追いながら述べられています。
第2章では、よく耳にする心の病気について説明されています。
単なる心の各病気の説明だけにとどまらず、そうした病気をもつ人が社会のなかでどんな困りごとに直面しているのか、それはどうしてなのかという視点もしっかり書かれているのが大きな特徴です。
そして第3章では第1章、2章をふまえて、心の病気があっても生きやすい社会にしていくにはなにが必要なのか、考え方の方向性が示されています。
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この本がわたしに教えてくれたことは、3つあります。
まず1つは「病気そのものばかり着目するのではなく、病気を抱えた人の困りごとに注目すること」です。
病気の症状がゼロにならなくても、その症状からくる困りごとを、工夫によってなくしていけば、当人もまわりの人もしあわせに暮らすことができるからです。
2つ目は「当人のことを考えていない、みけかけだけの一方的なやさしさは、迷惑以外のなにものでもない」ということです。
言葉では「当人のためなのよ」と言いつつも、結局は理想の姿を当人におしつけ、「この理想の姿になりなさい」ということって、考えてみるとよくありますよね。
でもそれはまさに「ありがた迷惑」です。 それは他人事ではなく、自分が善意で行っていることのなかにも「ありがた迷惑」が潜んでいるかもしれないのです。
自分の行動の根本には、なにがありますか?
その行動は本当に、相手のためになっていますか?
その視点から、もう一度自分の言動を見つめ直してみませんか?
その視点から考えていくことの大切さを、ひしひしと感じました。
3つ目は「『回復する』ということは、前の状態とは違う形の生き方を手に入れられるようになること」(274ページより引用)だということです。
これはわたし自身、うつの療養過程で実感していたことでもあったのですが、この文を読んだことで後ろ盾を得たような気持ちになり、ホッとしました。
わたしたちは病気にかかるとつい、「元通りになりますか」と聞きがちです。
でも特に心の病気に関しては、「回復する」ということは、元通りになることではないのです。
しかし現実にはまだまだ「回復=元に戻る」と信じている人が多いようで、わたしもよく「前とおなじくらい元気になったね」と言われることもしばしばです。
でも実はこれ、地味に凹みます。
見た目には、前とおなじ暮らしをきているように見えても、内面は確実に前とおなじではありません。
病気を通して経験したことが、内面を変えていくからです。
また、もし身体的な症状があったとしても、工夫をして困りごとにならないようにしている潟元います。
そういう変化や工夫を経て、今の暮らしているところに「前みたいに戻ってよかったね」と声をかけられたら、どうでしょうか。
あなたならどう、思いますか。
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この本は、今までにない視点から書かれているため、読み終えるまでには正直、とてもエネルギーがいります。
でも読み終えたときにはきっと、今まで自分になかった方向から、世の中や心の病気について考えていける自分に気づくでしょう。
この本が中学生だけでなく、医療者を含めた多くの方に広まったらいいな、と思います。 -
心の病気っていうのは、親とそして親以外をも含む過去の対人関係の影響、そして現在の対人関係での相互作用での影響でなるものであって、当人だけの問題では決してないことがわかります(外的な強い心的衝撃によるPTSDという種類の心の病気もありますが)。僕の身近に心の病気の人がいることもあって、この場などに書評や感想を書いていなくても、何冊かそういった本を読んできました。それらは勉強になるよい本でしたが、それらと比べても本書はより良書のほうだといえます。「この本がひろく知られるとほんとうに社会がよくなる。」と思えるほどの、とっつきやすい適度な内容の厚みと範囲の広さです。精神科医やカウンセラーたちがどうやって心の病気を診断し、わかるのか、といったところから始まり、統合失調症、うつ病、そううつ病、強迫症、摂食障害、PTSD、転換性障害(かつてはヒステリー)、不登校、いじめ、発達障害、認知症のそれぞれの症状や背景、そしてそれらをふまえた上で、社会をどうしていったらいいかのヴィジョンに終わっていきます。読んでみると知らなかった知識も多かったです。自分は貧しいと過度に思いこむ「貧困妄想」、几帳面さゆえに自分でルールを次々と作り、それにがんじがらめになってしまう「インクルデンツ」などが主にそうでした。
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鬱病は過去を重視する農耕民族。統合失調症は未来を先取りする狩猟民族。の話はすごく腑に落ちて全体を通して言えることだけど分かりやすく興味を持ちながら読み進める事ができてとても良かった。
摂食障害の成熟への拒否も分かりやすい。
著者が素晴らしいのかもしれないけど難易度的にちょうどいいので中学生の質問箱シリーズ他のも読んでみたい。 -
『心の病気ってなんだろう』
統合失調症、うつ、PTSDなどの精神医学の極めてやさしい概略本。
精神医学の治療で重要なことは、原状復帰ではなく、病気になる前とは異なる形になること。病気になる前と同じ状態に戻ってしまうと、また何かのきっかけで再発してしまう。再発しないような形に寛解していくことが重要。
転移という治療法も興味深かった。一般にトラウマとは、現在では操作不可能(記憶さえも抑圧されて、ない場合すらある)な心の傷である。そのままでは、治療できないが、治療しないと別のところで回帰してしまい、病状として現れる。その場合、精神医は心の傷が起こった当時の人間関係をそのまま精神医と患者の形にすり替える転移という手法を使う。例えば、母子関係に問題があったのであれば、患者にとっての母なる存在に精神医がなる。そうすることで、操作不可能な傷を現在に引き上げ、操作可能にする。母子関係の断裂が原因であれば、一度母子関係を再現した上で、病状に現れないような正常な形で分離を図る。こうすることで、新たに関係性を作り替え、寛解させる。映画「バタフライ・エフェクト」のブラックアウトはトラウマの一形態ではないかと思う。(主人公は自分で過去を改変することで、治してしまったが…)。
うつ病と統合失調症には時間感覚と関係性があることは興味深かった。
うつ病では、時間がどんどんゆっくりになっていくという制止という症状が現れる。時間がもっとゆっくりになっていくと、最終的には心を使う活動ができなくなる。意識ははっきりあるが、全く動けない、全く話せないような状況。これを昏迷とも呼ぶ。人間が体験している時間というのは新しい「今」が次々現れているような時間であり、さっきの「今」は、次の瞬間には過去になっている。逆に、「今」があるということは、「未来」があるということ。しかし、制止や昏迷になると、今がのっぺりと今のままに留まってしまい、未来がやってこない。今が今に留まってしまい、未来がなくなると、相対的に過去の比重が高くなる。そうして、自分の過去に目を向けると、自分に自信をもたせるような過去は既にだめになっているので、過去の些細な悪いことに目が行くようになり、罪悪感などの妄想から動けなくなってしまうという。自分の中の、記憶や知覚において、過去の存在がどんどん大きくなってしまった時に、人はその時間が止まってしまう。うつ病に限らず、人間にはあること思う。
現在、うつ病における治療は休息が中心と書いてあるが、この時期は相当つらいのであろう。
Sumikaというバンドにカルチャーショッカーという歌があるが、その中の、「過去の清算が今を止めちゃう前に」というフレーズがとても好きなのだが、まさにうつとは、過去の清算が今を止めてしまう状態のことなのであろう。 -
興味深く、ほぼ一気読みで読んでしまいました。
心の病気は本当に心だけの問題なのか、体の病気とどう違うか、どのように治療していくか、それぞれの病気の症状はどんなもので、患者さんはどう感じているのか。とても分かりやすい言葉で書かれていて一気に読み進めてしまいました。
私は過去にうつ病と診断され、現在は躁うつ病(双極性障害)と診断されているので、その辺についての知識はあったのですが、統合失調症や認知症、発達障害についてはまだまだ知識がなく、なるほど。と思いながら読み続けていきました。
病気だとその人すべてが病気と思ってしまいがちなところですが、人間らしいところが残っているからこそそれが症状として出てきたり、自分を守るために外から見たらおかしな行動をとったりしているという事が分かってとてもよかったです。
発狂という言葉に対義語がなく、行ったら行きっぱなしという点から精神疾患が悲劇のものと見られているという視点にも、なるほど。と思わされました。
最初の章で精神科病院やそれらを取り巻く環境の歴史についても触れられていて、興味深かったです。
心の病気の回復と体の病気の回復では回復の意味が異なるというのが今回の本でグッと来た部分です。私もいい回復していけるようになりたいものです。 -
自分を理解するための手がかりとして。
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感想
誰もが病気になる。それは風邪と同じ。心が弱いから、あの人は特別だから。そんな考えは理解を生まない。誰もが認め合える社会への第一歩。 -
表現が適切かどうか分かりませんが、とても面白く、ためになりました。心の病気とはどういうものか?どうやって''治す''のか?心の病気でも暮らしやすい社会とは?一つ一つ丁寧に解説してくれます。統合失調症、うつ病、PTSD、発達障害、認知症など、それぞれ心の中で何が起きているのかや、それに対してどう接するべきかなども説明されており、非常に「実践的」な内容でした。
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