弟を殺した彼と、僕。

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591082355

感想・レビュー・書評

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  • 「償う」ということ
    「赦す」ということ 
    「救済」ということ  について深く考えさせられた1冊。

    作者のすごく率直な想いに自分だったら、、、を考えさせられてしまった。「怒り」「憎しみ」のエネルギーというのは本当に本当にやり場のない行き場のない感情だと改めて感じた。死刑=被害者遺族の救済につながるという図式はあまりに単純すぎる。でもこういった図式のようなメディアの煽り方が今もなおあるのが現実ではないかと感じた。
    情報を受け取る側は、鵜呑みにせずに想像する、自身で考える、そのうえでの意見を持つ事をなお強く意識しなければならないと感じた。

    犯罪事件に関わらず、日本の世論やメディアのあり方を深く表していると感じた一言

    ー「被害者遺族の気持ちを考えた事があるのか」と言いますが、彼らもまた考えた事はないのです。

    20041年8月 ポプラ社 装画:山田宣之

  • 図書館で借りてきた本。

    著者は弟を殺された遺族だが、弟を殺した死刑囚に対して「死刑執行をしないで欲しい」という上申書を法務大臣に送った人。その後、著者の願いは受け入れららず、死刑囚は死刑が執行された。

    第三者のわたしには何も言葉がない。
    ただ、こういう人も中にはいるのだ、死刑を執行することと人を赦すということは全く違うことでもある、という考えをしている人もいるのだ。死刑囚と言葉を交わしたい被害者遺族もいるのだ。

    「その頃、僕は、こんなことをイメージしていました。明男と僕ら家族が長谷川君たちの手で崖から突き落とされたイメージです。僕らは全身傷だらけで、明男は死んでいます。崖の上から、司法関係者やマスコミや世間の人々が、僕らを高みの見物です。彼らは、崖の上の平らで広々としたところから、「痛いだろう。かわいそうに」そう言いながら、長谷川君たちとその家族を突き落とそうとしています。僕も最初は長谷川君たちを明男たちと同じ目に遭わせたいと思っていました。しかし、ふと気がつくと、僕が本当に望んでいることは違うことのようなのです。僕も僕たち家族も、大勢の人が平穏に暮らしている崖の上の平らな土地にもう一度のぼりたい、そう思っていることに気がついたのです。ところが、崖の上にいる人たちは、誰一人として「おーい、ひきあげてやるぞー」とは言ってくれません。代わりに「おまえのいるがけの下に、こいつらも落としてやるからなー。それで気がすむだろう」被害者と加害者をともにがけの下に放り出して、崖の上では、何もなかったように、平和なときが流れているのです。」

    「仮に平凡な暮らしをしている人たちがゼロ地点にいるとしたら、僕たち家族は明男を殺されてマイナス地点に落とされました。ゼロに戻りたいのに、誰も引き上げてくれません。しかし、長谷川君には、大きなマイナスに落ち込まないように支えてくれるよき友だちがいるのです。僕が長谷川君を自分よりも大きなマイナス地点に落としても、僕の方はちっともゼロには近づけず、同じマイナス地点にいるに過ぎません。僕が望んでいることは、事件前のように人を心底憎むこともなく、明るく平穏な生活に戻ることです。その望みが叶うかどうかは、長谷川君を死刑にしてもしなくても関係ないように思いました。(中略)しかし、僕は、彼と面会したことが、自分にとって快復への道につながる予感を感じました。」

  • 図書館で借りて読む。2004年刊行。
    半田保険金殺人事件の被害者遺族、原田正治の手記。1983年、原田正治の弟、原田明男が、雇い主であった長谷川敏彦、同僚の井田正道、東公平(東のみ仮名)によってトラック運転中に殺害された。この三名のうち、長谷川、井田は、原田明男以外に二人も殺害していたことによって死刑となり、いずれも執行された。だが、長谷川は、獄中から何度も原田家に謝罪の手紙を送り続け、クリスチャンにもなった。原田は、拘置所へ長谷川に面会にまで行き、とりわけ長谷川の死刑執行を行わないよう働きかけさえ行った。だが、被害者遺族である原田のそうした訴えさえ退けられ、長谷川は死刑執行されてしまう。
    こうした事件関係者(被害者、加害者双方サイド)の訴えは、一般に報道されたりすることはほとんどない。そのため、関係者以外の多くの人たちの受け止め方と、関係者自身の思いは解離してしまっているということがよくわかった。

  • (随分前に読んだ本なので大雑把に覚えていること)

    弟を保険金殺人で殺害された著者と死刑囚となった加害者との関わり。
    加害者は事件のことは反省する。
    被害者の兄は、なんとか死刑執行をやめてもらおうとするのだが、結局死刑は執行されてしまった。

  • 実際に起こった「半田保険金殺人事件」で弟さんを殺されたお兄さんの原田正治さんが記した壮大なノンフィクション。
    事故死だと思われていた弟の死が殺人事件に変わり、次第に翻弄されてゆく原田さんを中心とする人間模様。

    文章からは溢れんばかりの怒り、悲しみ、そして闇と光が読み取れる。
    一章が終わる毎に出る溜め息は本当に重たい。
    時の流れに沿って移り行く著者の心情に注目。

  • 「赦す」とは。

    報復すれば解決なのか、報復せずに納まりはつくのか。
    「心臓を貫かれて」と、表と裏をなす。

  • 1つのことに対して、人それぞれ色んな考え方や感情があるんだなぁ…と勉強になりました。

    被害者、被害者家族というひとくくりでみんな同じ感情とは限らないんですね。

    ちょっと考えればわかることなのに、改めて気づかされました。

  • 殺人事件の被害者が、法の壁の前に加害者とまともに話をすることもできない原状に、驚いた。死刑とは、遺族の気持ちとは無関係にこうも勝手に執行されるものだったのか。

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