あずかりやさん まぼろしチャーハン

著者 :
  • ポプラ社
4.14
  • (53)
  • (74)
  • (29)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 500
感想 : 68
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591168967

作品紹介・あらすじ

一日百円で何でも預かります。東京の下町でひっそりと営業する「あずかりや」。「半年後に引き取りにこなかったらポストに投函して」と店主に託された手紙の行方は? 突然店にかかってきた電話の相手は、意外な女性で…。高倉健、緒形拳、石原裕次郎の三人が預けた「ある物」とは? 日本屈指の盆栽の名人が遺した名木を、不肖の孫が受け継いだことから巻き起こる大騒動……累計25万部突破、ほっこり切ない人気シリーズ第4弾。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 盲目の店主が1日100円で何でも預かる「あずかりや」を営むシリーズ第四作。

    今回も様々なものを預かるのだが、一番印象に残ったのは『言葉』だろうか。
    夜に掛かってきた電話での、酔っぱらいの戯言のような『言葉』。預けると言ったものの預かり賃も払わず、引き取りにも来ないまま何年も経ったまま。
    読んでいる私もそんなエピソードを忘れかけていた頃、預けた男の妻が引き取りに来る。
    『言葉』を一字一句記憶していた店主の桐島にも驚かされるが、その事情にも驚かされた。
    こういう伏線があるから大山さんの作品は侮れない。

    他にも三人のホームレスがある夢のために古びたカバンに金を貯める「高倉健の夢」も伏線が効いていて良かったし、一番短いのにこの作品の副題にした「まぼろしチャーハン」も良かった。
    他に双子の弟に宛てたラブレターに返事を出してしまう兄と、そのラブレターの送り主との顛末の「ラブレター」に、高価な盆栽『文人木』を預ける青年の話も良い結末が待っていた。

    何でも1日100円で預けられるが、引き取りに来なければ店のものになるというシステムは時に大変な苦労と損失を生む。
    ましてや店主の桐島は目が見えないというハンディがあるわけで、客の道徳心や善意に頼った商売のように思えて危うい。
    実際大変な損失になることもあるのだが、逆に思ってもみない収益になることもある。「あずかりや」との出会いを経て困った人たちへのセーフティスペースを作る人がいたりすると、「あずかりや」の商売が違う形で実を結んだと言えるかも知れない。

    声だったり生き物だったり人だったりと、預かるものは100円に見合わないものも大いにある。
    だが逆に言えばこの「あずかりや」はそれだけ懐の深いお店だということなのだろう。店主の桐島が目が見えないという設定も、人を見た目で判断しないという懐の深さに通じている。

    似たような話で小川洋子さんの「薬指の標本」を思い出す。あちらも標本に出来ないようなモノも保管する話だが、この「あずかりや」は最終的にはホッとする話に落ち着くので安心する。

    それにしても桐島くんも30歳とは。元々落ち着いたキャラクターだったから、ようやく年齢に追い付いてきた感がある。

    ※「あずかりやさん 桐島くんの青春」レビュー
    https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4591151417#comment
    ※「あずかりやさん 彼女の青い鳥」レビュー
    https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4591162656#comment

  • 1日100円で何でも預かり、期限が過ぎたら引き取る。
    明日町のこんぺいとう商店街にあるあずかり屋を舞台にした、連作短編集。

    シリーズ第4作。

    おもしろかった。

    曇りがなく、何事も否定せず受け入れる。
    店主の穏やかなたたずまいと、人情味あふれるストーリーで、どの話も心あたたまり、時にじーんと泣ける。

    型通りに預かるのではなく、変則的だったり。
    店主ではなく透という一個人に戻った、プライベートだったり。

    今回は切り口が変わっていて、変化があったのも、よかったで。

    「ラブレター」の、翔太ファンクラブのスペックには笑う。
    まるでネットの特定班のよう。

  • この本に出てくる人や物って、本当に素敵だねぇ。純真で素朴で。読んでて、心に爽やかな風が吹き抜けるよう。
    この作家さん、好きだな。
    ところで、副題の『まぼろしチャーハン』が、たったの4ページと3行なのにはびっくり。意表を突かれました(笑)

  • 一日百円でなんでもあずかります。
    大好きなシリーズ。

    店主・桐島透(きりしま とおる)の静謐な佇まいがいい。
    なんでも受け入れる懐の深さがいい。
    困っていればそっと手を差し伸べる。
    と言うより、ぽん、と置かれたものを大切に守る。

    『ラブレター』
    二卵性双生児の弟の方に送られたラブレターのゆくえ。
    ちょっとした行き違いが悲劇を生んでしまうこともあるが、幸せを生むこともある。
    若者は明日に満ちている。

    『ツキノワグマ』
    鮭をくわえたツキノワグマと並べて置かれる黒電話。
    鳴らない黒電話はただの置物だっ!!
    待っている。
    ある時は店主と一緒に、ある時は預けられて迎えを持つものと一緒に。
    透の盲学校時代の友人からの連絡。柳原先生の回想が哀しい。

    『まぼろしチャーハン』
    母が熱を出して、幼い娘を保育園まで連れていくこともできない。
    200円握らせる。
    さとうさんのところにいさせてもらいなさい、パン屋さんでお昼を買いなさい。

    『高倉健の夢』
    河原で暮らしていた三人のおっさん達がユーモラス。
    鞄というものも・・・空は飛ぶし、中に入れられるものはさまざまだし、本当にロマンに満ちている。

    『文人木(ぶんじんぎ)』
    前の話の鞄のように、値段をつければ、これも高価なものである。
    しかし、自分が置かれることになった意外な場所、変わりゆく運命を面白がることもできるのは、風流?
    さすがは盆栽。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    言葉を預かるお話が沁みた。
    相沢さんの、まだ使えるものを捨ててしまうことに違和感がある、という発言は現実的だけれど深い。
    「寿命が来る前に捨てるって、人として、間違っているんじゃないかと思うの」
    物もそうだが、人も・・・と思う。
    姿を変えても、環境が変わっても、生きていこうと思う気持ちがあれば。

  • 「あずかりやさん」シリーズ第4作。全作書き下ろし。
    あずかりやさんシリーズにしては珍しく、今回は個々の短編という感じで、短編同士のつながりがありませんでした。
    ただその分、全体を通しての意外性がなかったので、☆3つと真ん中にしました。

    短編タイトルも「ラブレター」「ツキノワグマ」「文人木」など、割りとストレート。
    (「高倉健の夢」だけはどゆこと??ってなりますけど(笑))
    そんな中だからこそサブタイトルが「まぼろしチャーハン」になったのは、うなずけます。

    まぼろしもチャーハンも、何の変哲もない言葉なのに、そこが掛け合わされたときの不思議な感じ。
    しかもこの「まぼろしチャーハン」、中編でも長編でもなく、超・短編なところも、驚きました。
    超・短編がサブタイトルになる…いや、全然ありなのですけど、なんかその小説の中の長い話がサブタイトル、みたいな思いこみがあったので、意外でした。

    どれもオススメで、じんわりくるのですが、好きなのは「ラブレター」と「文人木(ぶんじんぎ)」ですね。
    ちょっとふしぎな話なのは、「ツキノワグマ」でしょうか。
    「まぼろしチャーハン」は、いい話…なんですけれど、冷静に理性で考えてしまうと、ちょっと怖くなってしまうところが、哀しいお話。
    出会ったのがあずかりやさんでよかったけれど、主人公の「わたし」は、本当に運がよかった…ともおもいます。

  • 盲目の青年が営む、一日百円で何でも預かる「あずかりやさん」シリーズ第4弾。今回もまた語り手は様々、預かる品物も様々。あたたかく人情味溢れる展開ながら、人生のほろ苦さも滲ませる。その甘辛なストーリーに、今回も夢中にさせられた。
    4作目ともなればマンネリ感出てくるか?と思いきや全くそんなことはなく!今作でも、一体この語り手は何者なのか、預ける人かそれとも「物」か?がすぐにわからないところにドキドキする。そして、「それも預けられちゃう!?」という意外性がまたたまらない。
    シリーズものとはいえ、本作単体で読んでも問題なし!今回は5つのストーリーが収録されているが、それぞれのさりげないリンクが心憎い。ページを遡ってその繋がりを見付けられるのが嬉しい。そして、毎度思うのが「物」視点での持ち主への思い…寄り添って暮らしていれば、物にも感情が宿るような気持ちになる。そんな「物」に、自分はどう見られているんだろうなと思ったり。
    ベタベタな人情物にならないのは、ビター展開が相当に効いているから。だから人の心のあたたかさがご都合にならず、胸に迫る。盲目の店主・桐島透の、丁寧で誠実なキャラクターが秀逸。人にも物にも敬意を払って接する彼の姿勢が好きだなぁ…と、今回もすごく思いました!

  • 久しぶりの「あずかりやさん」を堪能しました

  • 大好きなシリーズ第4弾♬
    1日100円で何でも預かる「あずかりやさん」
    全5話の短編集。
    今作も色んな"もの"が語り手になってました!
    黒電話とか盆栽とか、、
    この設定がとても好き。

    どの話もしみじみ良かった〜!
    桐山くんの穏やかさにほんとに癒されます。
    どれも大好きな話だったけど、1番印象に残ったのは物体ではなく"言葉"を預けるお話「ツキノワグマ」。
    なんて素敵な話なんだ!
    今回も優しさにいっぱい包まれました

  • 4冊目になる「あずかりやさん」
    変わらず心が穏やかになる。
    今回も、各章で語り手が変わり、
    あずかりやがまだ和菓子店だった時からいる
    昭和の「黒電話」だったり、
    あずかりやにあずけられる「トランクケース」
    と、モノが語り手でとてもユニーク!
    そしてモノ目線からの世界が、
    私達人間が忘れてしまった大切なものを
    思い出させてくれる気がします。
    また一方で、登場人物が語り手になったりと、
    間に挟むような感じが、一体感を感じます。

    ***ネタばれ***
    前作から続く伏線も楽しかった。
    前作で、幼い頃患った病気が再発し、再び入院することになった高校生の女の子が、手紙を預けにやってきて、半年たっても取りに来なかったら、代わりにポストに投函してほしいと店主の桐島くんにお願いするというお話がありました。
    今回の物語の第一章がその手紙の行方で、
    女の子が無事であったことが凄くうれしかった!
    また、その手紙にまつわるエピソードが凄く楽しかった。微笑ましい。

    その後続く章も、
    とてもユニークで素敵なお話です。
    次はどんなエピソードが待っているんだろう?
    まだまだ読みたいです!

  • シリーズの中でも1.2を争う素晴らしいストーリーでした。モノや人、それぞれの愛や温かさを感じる内容ばかりで、読んでいるこちらも優しい気持ちになれました。個人的には石永さんとの関係が気になるところ。次巻が楽しみです。

全68件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

東京都出身。2006年、『三日月夜話』で城戸賞入選。2008年、『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。2011年、『猫弁~死体の身代金~』にて第三回TBS・講談社ドラマ原作大賞を受賞しデビュー、TBSでドラマ化もされた。著書に『赤い靴』、『通夜女』などがあり、「猫弁」「あずかりやさん」など発行部数が数十万部を超える人気シリーズを持つ。

「2022年 『犬小屋アットホーム!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大山淳子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
瀬尾 まいこ
凪良 ゆう
恩田 陸
恩田 陸
東野 圭吾
小川 糸
小川 糸
伊坂 幸太郎
青山 美智子
坂木司
凪良 ゆう
町田 そのこ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×