和菓子迷宮をぐるぐると

著者 :
  • ポプラ社
3.53
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本棚登録 : 391
感想 : 54
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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591169445

作品紹介・あらすじ

<内容紹介>
ランチの煮魚を食べながら、その作り方を科学的に検証してしまうほどの理系大学生・涼太。ちょっと変わり者と言われる彼が出会ったのは、あまりに美しい「和菓子」だった。その「美味しさ」にも魅せられてしまい、すっかり和菓子の世界の虜に。勢いのあまり大学院に進まずに和菓子職人になることを決意し、製菓専門学校に入学してしまった。
個性豊かな学生たちとともに和菓子作りに精を出すが、和菓子はとにかく答えがない。なんとか自分の和菓子を作ろうと苦心するも、全てを1か0かで考えてしまう理系的思考が、数値だけでは測りにくい和菓子作りの邪魔をして――。

<プロフィール>
太田忠司(おおた・ただし)
1959年愛知県生まれ。81年に「帰郷」で「星新一ショートショート・コンテスト」優秀作を受賞。「少年探偵・狩野俊介」「目白台サイドキック」「名古屋駅西 喫茶ユトリロ」シリーズほか、『奇談蒐集家』『遺品博物館』『猿神』など著作多数。

感想・レビュー・書評

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  • 美味しく美しい和菓子のミステリー
    河合涼太(りょうた)は、6才の時に母・女優河合沙雪(さゆき)に捨てられ叔父・河合修に育てられる。大学で物理を専攻する涼太は、全てを数式で物事を解明していく。はために見ると気難しく、理屈っぽく、付き合いにくい人にうつるが、誠実で、頭脳明晰で、自分の進路に一直線に進んで行きます。

    その涼太が、デパートの催事売り場で美味しく美しい華房伊織の和菓子に出合い即座に、大学院への進学を止め、菓子の専門学校のタジマモリ製菓専門学校に2年間学ぶ道を選びます。
    学校での班別で一緒になった、A班は、涼太のほかは個性豊かな高卒の遠藤寿莉(じゅり)、堂島爽菓(さやか)、峯崎朱音(あかね)、田城陶子(とうこ)の4人との楽しく胸がときめく物語です。

    なぜ涼太が、たまたま出合った和菓子にとことん拘って、優秀な物理学者としての将来を捨ててまで和菓子の世界に入ったのか、その謎が最後に解き明かされます。6才の時に母が、子供はいらないというイギリスの映画監督と再婚するとき。涼太が、最後に食べた母の手作りのぼたもちへの思いが捨てられず。そのぼたもちの味を超える餡を作ることに拘ったのでした。

    しかし、その餡は、母が京都のロケで知った美味しい和菓子屋・斤布堂(きんぷどう)から粒餡を取り寄せて作った物でした。それを映画監督の死後に涼太と会うために17年ぶりに日本に帰って来た母から聞いて餡へのこだわりが解けます。そして、母へ「僕は母さんから自由になります。だから母さんも、僕から自由になってください」と言って別れる。

    【読後】
    この物語は、菓子の専門学校でのA班女性4人と涼太との、恋のせめぎ合いが爽やかに濃密に書かれています。最初読んでいたら物理の数式がよく出て、わけが分からず困りましたが、学校が楽しく和菓子の奥深さを知るにつれ楽しく読む事が出来ました。
    字の大きさは…小(字が小さく、薄いので2、30ページ読んでは寝落ちする)。
    312ページ
    2021.8.22~25 4日間で読了
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    【名言】
    「この世で最大の不幸は、戦争や貧困などではない。人から見放され、自分は誰からも必要とされていないと感じることだ」 マザーテレサ。P242
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  • バリバリの理系なのにデパートで見た和菓子に魅入られてしまい(「対数美的曲線」なんて表現している!)、大学院進学をやめ、製菓専門学校に入学してしまった河合涼太。専門学校で同じ班になった女子4人との友情がいいなあ。その一人の寿莉の視点もあるのが上手く生きている。涼太の言動はほとんどぶれないのだが、自信がなく引っ込み思案の寿莉が涼太や他の女子たちに啓発され変わっていくさまが、この小説の肝だろう。なかなか気持ちのいい小説だ。「傷つける方より傷つく方が悪い」という涼太の言葉はぐっときたけど、うーん強い人間の言葉かも。

    • しずくさん
      「傷つける方より傷つく方が悪い」とは何とも深淵ですね。読んでみようかな?
      和菓子を扱った 和菓子のアン も愉しかったもの。美しいモダン絵の...
      「傷つける方より傷つく方が悪い」とは何とも深淵ですね。読んでみようかな?
      和菓子を扱った 和菓子のアン も愉しかったもの。美しいモダン絵の封筒の本も図書館に準備してもらえそうです。
      2021/04/20
    • goya626さん
      太田忠司さんの最近の作品では出色のものだと思います。寿莉さんにどうも感情移入してしまいますが。和菓子のアンシリーズもいいですよね。絵封筒、い...
      太田忠司さんの最近の作品では出色のものだと思います。寿莉さんにどうも感情移入してしまいますが。和菓子のアンシリーズもいいですよね。絵封筒、いいですよう。
      2021/04/20
  • 坂木司さんの和菓子のアンシリーズを思い出しました。

    バリバリ理系の涼太が美し過ぎる和菓子の魅力に取り憑かれ大学院の進学をやめて製菓専門学校に入学します。理屈っぽくでちょっと面倒臭いのにどこか憎めない...涼太の真っ直ぐな態度や言葉が響きました。
    学生時代の友達ってやっぱりいいな。最後は、ホッコリ。
    涼太と寿莉の行末も気になります。

  • 六歳の時に小豆餡のトラウマになった涼太が大学生に成ってデパートで出会った和菓子で不思議な出会いをする。
    大学院進学を変更して専門学校に通う事になる所から物語が始まる⁉️
    青春、成長物語ですね

  • 続きそうな予感もしつつ、このままの余韻でいいような気持ちもありつつ。
    和菓子を題材にだけど、結構内容の濃いお話で面白かったっです。
    主人公の理系男子涼太もいいし、専門学校の仲間たちも良い。
    師匠や先生の言う事も。ほんとそうで。
    職人はもっといい物を一生追い求めていくものだと思うし。
    一生努力し続けると思う。
    涼太は母のぼたもちを超えたいんだろうけど、最後の母の告白が意外で、それがまた良かった気がする。
    とにかく最近の中では面白かったお話でした。

  • 2021年2月ポプラ社刊。書下ろし。物理工学科を学ぶ涼太が和菓子と出合い、製菓学校に入学して、和菓子職人を目指すお菓子、友人、家族、仕事のお話。涼太のまっすぐすぎる態度が面白くもあり、羨ましくもあり、楽しい。良い人、良い仕事が面白く描かれる世界は、ファンタジーのようでもあります。

  • 【収録作品】第一章 きっかけは対数美曲線/第二章 お菓子の学校のおかしな仲間/第三章 餡の迷宮へようこそ/第四章 新春和菓子コンテスト/第五章 自分の人生は自分で決める
     『天才柳沢教授の生活』の柳沢教授の若い頃を彷彿とさせる理系男子・涼太の探究心と試行錯誤が好もしい。漫画化か深夜アニメ化されてもいいような気がする。

  • 読みやすく、テンポもよく良かったです。
    理系男子の涼太が和菓子に魅せられて、本当に和菓子迷宮をぐるぐるとしています。

    和菓子の美しさを数式で表したり、1か0かで考えたり、わからないことを突き進んで調べたり。とても真面目で実直な涼太が一貫して良かったです。

    周囲の人にめぐまれているなあと感じますが、なんだかんだ愛されキャラだと思います。

  • 初読みの太田さん。たまたま図書館で見つけたのですが、想像以上に素敵な作品でした。
    読むほどに、じわりじわりと響いてきます。
    すごく味わい深くて、大切なことがいっぱい詰まっていました。

    涼太が好きなことに出会えた瞬間の興奮や喜びがすごく伝わってきた。
    楽しいこと、苦しいこと、色んな思いを胸に自分の道を模索し、突き進む涼太や友人たちの姿が眩しくて、羨ましくなりました。
    心に響く言葉もたくさん!
    涼太の徹底した論理的な物言いが独特。でもそれが愛すべき彼の魅力に感じるし、自分にも他人に対してもいつも真っ直ぐで潔くて、すごく好感が持てる。
    クラスメイトや憧れの和菓子職人のお店の面々が個性的で人間模様も良かった。
    読み終えたあと、表題の「ぐるぐると」の言葉が素敵に感じられる。
    ラストは思わずニヤリ。

    清々しくて元気をもらえる作品。
    特に今迷いがある人、自分に自信のない人に読んでほしい。もちろんそうじゃない人にも。
    強いインパクトはないけど、しみじみ良いなと思える作品でした。


    『誰に出会うかで人生は変わるんです』

    『理想を追いかけることには意味があります。変化するための目標になるから。でもきっと、先生みたいにはなれません。でも、何者かにはなれると思う。今の自分より少しだけ理想に近付いた自分には』

    『大事なことは、面倒なんです。
    大事でなければ避けるか捨てればいい。でも大事なことだから、避けて通れない。向かい合わないと』

  • 青春だ!和菓子が無性に食べたくなりました。

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著者プロフィール

1959年名古屋市生まれ。名古屋工業大学電気工学科卒業。81年「星新一ショート・ショートコンテスト」で「帰郷」が優秀作に選ばれる。その後、会社勤めをしながら「ショートショートランド」「IN★POCKET」にショートショートを掲載。1990年、長編ミステリー『僕の殺人』を上梓してデビュー。2022年『麻倉玲一は信頼できない語り手』が徳間文庫大賞2022に選ばれる。

「2022年 『喪を明ける』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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