夏の水の半魚人

著者 :
  • 扶桑社
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  • Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594058784

感想・レビュー・書評

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  • 思春期の入り口に立った頃を思い出す。

    著者の描く子どもたちの夏の風景に、自尊心を上手く言葉に出来ないもどかしさや性の萌芽に対する戸惑い、これからの人生に対する漠然とした不安が滲み出ているからだ。

    物語は最後の美しい情景を頂点に収束し、読者に静かな余韻を残す。

  • 2011/07/08読了

    小学生ってちょうどこんな感じだったな。
    自分が主人公だから、他の人を主人公にさせたくないっていうかさ、分かっているけれど大人になりきれないというか。
    自分もどうしたらいいかわかんなくなって、結局ぐちゃぐちゃして

    海子や母親があんなんだし、それがきっかけで魚彦もどうしたらいいかわかんなくて。だから不安定だって言うのもまたなおさらだろう。
    彼は主人公になりたいけれど、主人公にはなれないただの一人の子どもだから。
    子どもの時にはきっと誰もが思うその理不尽さを描いた作品なんだと思う。
    ああ、きれいな海に行きたいな。

  • ダラダラした文章に、盛り上がりがほとんどない展開。
    この脱力しすぎた作風はものすごく好みが分かれそう。
    思考を垂れ流してるような箇所も多く飛躍したりわき道にそれたり、余分な部分が目につく。
    でもその余分な部分がなんともいえない味になってる。

    小学生の未熟でおぼろげなまなざしが写し取った世界。
    子どもってなんなんだろう。
    まるで半魚人のように、陸にもなじめず、水にもなじめず、でもその両方に片足をつっこんでるような危なげなもの?

    表紙の酒井駒子さんの絵が美しい。

  • 「うん、行ったときない」
    海子は「行ったことない」と言うべきところを
    「行ったときない」と言う。

    「行こう、海があふれる」

  • 品川に住む小5の少年の日常。

    魚と会話が出来たと話す母がつけた、魚彦という僕の名前。
    愛知から引っ越してきた風変わりな海子の存在。

    車椅子に乗る物知りで仲の良い今田。
    斉藤の弟のキンは自分を慕ってくれて可愛いと思うけれど、男として扱ってやらねばと思う気持ち。

    今田たちと喧嘩して、謝ることができないままの夏休み。

    子供ながらの世界が、確かにそこにある。
    大人になったら忘れてしまいそうな気持ち。
    最後が不完全燃焼気味。。。

  • まるでほんとうに小学生の主人公が書いたような文章で終始する。拙く単純な言葉遣い、だけどなぜか飽きがこず、子どもならではの視点にふとはっとさせられる。純粋すぎる子ども残酷さに奇妙な人物の言動が混ざり合い、ホラー映画を見ているときようなひんやりとした恐怖感が背後に迫る。その生々しさに感服である。

  • まず酒井駒子さんの装画が美しくて、物語の雰囲気にぴったりの佇まいだと思う。

    魚彦や海子という名前、車椅子の少年、小学生の頃の懐かしい遊び、液体を満たしていたガラスの破片だけで作られる願いの叶う魔法の人形、東京湾に面した人工的な海、お祭りの屋台で売られているビニールに入れられた短命の金魚…

    東京の品川が物語の舞台なせいか、ノスタルジックでいてどこか無機質さも感じさせるような不思議な印象を受ける。

    大人が思っているよりも子どもは色々なことを考えているし、理解している。
    この年代の頃もっていた純粋さや、ごく自然に飼い慣らしていたある種の残酷さを思い出した。
    ビー玉越しに世界を覗いたような透明さ、窒息しそうな湿度を感じる。

    海子のことをもっと知りたかったなと思った。
    彼女の体質の訳や、引っ越してきた理由なんかを。
    でもそれは別に明かされなくても良いことなのかもしれない。
    彼女のことを考えるとなんだか胸がぎゅっとなる。
    そんな女の子だった。

  • 夏の水の半魚人

  • 装丁/奥山志乃(細山田デザイン事務所) 装画/酒井駒子

  • 久しぶりに小説を読んだ。小説は深く物語の世界に入り込めることが良い。

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著者プロフィール

1977年生まれ。劇作家、演出家、俳優、小説家。和光大学人文学部文学科在学中に劇団「五反田団」を旗揚げ。2005年『愛でもない青春でもない旅立たない』(講談社)で小説家デビュー。同作が野間文芸新人賞候補となる。2006年、『恋愛の解体と北区の滅亡』(講談社)が野間文芸新人賞、三島由紀夫賞候補、2007年、『グレート生活アドベンチャー』(新潮社)が芥川賞候補に。2008年には、戯曲「生きてるものはいないのか」で岸田國士戯曲賞受賞。同年、『誰かが手を、握っているような気がしてならない』(講談社)で三島由紀夫賞候補。『夏の水の半魚人』(扶桑社)で第22回三島賞。その他の著書に、『逆に14歳』(新潮社)などがある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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