- Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620106670
感想・レビュー・書評
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皆さんはニュースを見たとき、犯罪者の家族について考えたことはありますか?突然強盗殺人犯の弟となった直貴。どんな出来事が起きても、「強盗殺人犯の弟」というレッテルが彼の幸せを奪う。「普通の人間」になるた直貴は必死にもがいていく。(愛知大学図書館報「韋編」第41号に掲載)
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罪を犯すと取り返しのつかないことになるとはこういうことをいうのだと思う。
罪を犯した兄と縁を切るというのはちょっと想定外で残酷な気もしたが、残された方はそうやって生きていきたいんだろう。
差別を受け入れる、
社会的差別を受けるというのは衝撃的で考えさせられた。
以下あらすじ。
武島剛志は両親の死後、弟直貴を大学に行かせるべく懸命に働く。
剛志自身は学問に明るいわけではなかった。
それでも、その理由は、亡き母親が生前父親の学歴がないことで苦労した生活を送っているからだと度々嘆いていたからである。
だから、兄として弟の進学を期待していた。
ところが剛志は大学入学のための資金集めに苦心していた。
引っ越しの仕事をしていたが、腰を痛めたため職を転々とする。
ある日、以前引っ越しをした老婆の家に大金があるともくろみ、盗みに入る。
犯行中、老婆には出くわさず、作戦は成功したように思えた。
しかし、老婆の家を家を出る直前、天津甘栗を見つけ、昔、弟が好きだったことを思い出し、お土産に持ち帰ることにする。
ところがその間老婆は別室から現れ、咄嗟に剛志は老婆を殺害してしまう。
警察から連絡を受けた日以来、直貴の人生も一変する。
高校生だった直貴は担任の協力によってアルバイトを始めた。
ところが兄が罪人だと知ると周囲の目つきが変わる。
なんとか高校は卒業できたものの
式は出席せず、バイトも辞め、住む家も変えることになる。
剛志は毎月欠かさず直貴に手紙を書いていた。
その手紙には直貴の近況を知りたいことと老婆への墓参りを依頼していた。
直貴は卒業後、寮付きの仕事にありつき、そこで働くことになった。
ある日、同じ寮に住む1人の男が置いていった本の中に通信大学の案内があることに気付く。
直貴は通信大学を目指し、合格する。
その頃、由美子という1人の女性が直貴に親しくしてくるようになる。
直貴にとって、由美子に関わられることはあまり気が進まなかった。
通信大学に通いながらスクーリングの授業で知り合った1人の男と仲良くなり、彼はバントを組んでいると聞かされる。
直貴もバントの一メンバーとして関わることになり、いよいよメジャーデビュー目前の時になり、直貴の兄が罪人ということが知られ、直貴はバントを辞める。
その頃、直貴は剛志の手紙を読まずに捨てるようになった。
直貴は通信から通学へ大学を切り替え、友人に囲まれ憧れの日常生活を手にする。
1人の女性と交際を始め、結婚も視野に入れていたが、彼女の実家との社会的格差、また兄剛志とのことが知られ別れることになる。
由美子はその間ずっと直貴のそばにいて、直貴に協力していた。
兄が受刑者ということで職や恋人を失った直貴は兄のことは一切隠して生きることを決意。
会社の就職試験では兄はアメリカに留学中で連絡が取れないとしてなんとか合格する。
就職し、仕事も軌道に乗っていた頃、社内で盗難事件が勃発。
犯人はしばらくして捕まったものの、捜査中社内の様子を調べ上げられ、直貴の兄剛志のことも知られる。
そして、直貴は異動する。
それは兄のことが知られたための人事異動にも思えた。
社長とも直々に受刑者の弟としての思いを話すことにもなる。
由美子と結婚した直貴は由美子が剛志へ手紙を送っていたことを知る。
しかし直貴は剛志へ手紙が書けない日々が続いていた。
遺族への償いとして直貴は家庭へ訪問するが、住人を前に逃げ出してしまう。
由美子は結婚後も気丈に振る舞い、近所とも仲良くしていた。
ところが剛志のことが近所に知られていることがわかり、周囲の付き合いもよそよそしくなってしまった。
そこで、引っ越しをする。
ある日、由美子と直貴の間に生まれた女の子と由美子が自転車に乗っていた。その時、ひったくりにあう。
女の子は意識を戻すのに時間がかかり傷跡を残すことになった。
加害者の両親が直接直貴たちのもとへ謝罪に来て、直貴は被害者としての気持ちも知る。
直貴は意を決し、兄に手紙を書く。
それは今後絶縁すること、手紙を書かないでほしいということ、外との唯一の繋がりである自分を頼りにするのではなく、自分で生きてほしいこと、また加害者の兄弟として社会生活に影響が出ていることを伝えた。
そして直貴は老婆の遺族へ謝罪へ行くが兄からの手紙で自分のしてきたことが自己満で甘えであった、という内容が遺族のもとへ手紙で届けられていることを知る。
直貴はかつてのバンド仲間から慰安訪問として千葉の刑務所へライブしに行かないかと誘われ、行く。
そこでステージ越しに兄と再会し、直貴は涙が止まらなくなる。 -
初めて読んだ東野圭吾作品。
最後が切なかった。 -
感動、というよりもやりきれなさで涙が止まらなくなる作品。
もし自分が弟の立場だったら、どういう決断をするんだろう。
犯罪が、犯罪者の親族にどんな荷を科すことになるのか、その苦悩がリアルに描かれていて、胸が苦しくなる。人を守ろうそして起こった犯罪だったから余計に。
犯罪者の家族は差別されて当たり前とはやっぱり思えないけど、自分に家族ができたらそうなってしまうのかなぁ。 -
ラスト…。そりゃイマジンなんて歌えないよなぁ…。
この兄弟が今後どうなっていくのか、想像がふくらむラストだった。この兄はこの後どうやって罪を償い、弟はどうやって世間と折り合っていくのか…。
小説は終わるけど、この兄弟の苦悩は終わらないのだろう。 -
読後、ある殺人犯を思い出しました。
彼は今、どうしているのでしょうか。
とっくに少年院は退院していますが。
彼の逮捕後、せっかく手に入れたマイホームを手放すハメになった両親。
転校を余儀なくされた弟。
そう、弟は、たぶんもう大人になっているはずだ。
彼の家族は、差別を受け入れ泣きながらも生きているだろうか。
人を殺して数年後にやっと我に返った彼は、
今、必死に償いをしているようです。
ごくたまに見かける彼の記事からは、
安らぎや享楽といった事柄とは無縁の生活、むしろ無縁を覚悟している様子を思い浮かべられました。
それはきっと、彼の家族も同じことなんでしょう。
そんな彼らと主人公たちが重なります。
ラスト、殺人犯の兄貴が弟の前でただただ合掌するシーンは、打たれます。