- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620108216
感想・レビュー・書評
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フォローしているレビュアーさん方のレビューで興味を持った作品。
地方の人間である私には東京會舘と言われてもピンと来ないのだが、大正十一年に創業という歴史ある建物とのこと。その僅か十ヶ月後に関東大震災で休業を余儀無くされ、昭和に入ってからは大政翼賛会の本部として接収、戦後にはGHQに接収され、最近では東日本大震災もあって…と様々なことを乗り越え、様々な歴史や人々を見つめてきた建物だ。
この上巻では五人の視点で描いた五編の物語が収録されている。
第一章は作家を目指しているものの上手く行かず故郷に戻り鬱々としている青年の話。
憧れのバイオリニストのコンサートを鑑賞するために再上京するが、劣等感と気後れと焦りが増すばかり。最後の想い出にと東京會舘に入ったところで思わぬ出来事が。(大正十二年)
第二章は長年ホテルマンとして働いてきた男性が大政翼賛会に接収される前の最後の日に東京會舘を見て回る。
そこで彼と東京會舘の日々を振り返る。(昭和十五年)
第三章は東京會舘で結婚式を挙げる女性の話。
縁談話が来て式が行われるまで、一度もまともに顔を合わせたこともない男性と結婚することに涙がこぼれるほど不安になる彼女を励ましたのは美容師だった。(昭和十九年)
第四章はGHQに設定された中、バーで働く青年。
アメリカ人の上司とアメリカ人の客、勝手の違う中で情熱と誠意を持つ先輩バーテンダーに鍛えられながら成長していく。(昭和二十四年)
第五章は引退を迎えた元菓子部長の男性。
そこでしか食べられない菓子を作り続けてきた彼にとって手土産用の箱詰め菓子を作って欲しいという事業部長からの頼みはとても受け入れられないものだったが…。(昭和三十九年)
読む前の予想と反して関東大震災、戦時中の話は登場人物たちの回想やセリフの中でサラッと触れられている程度。設計の段階から建築工事の物語、様々な困難を乗り越えていく話かと思っていた。
辻村さんが描きたいのはそうした歴史ではなく、東京會舘が見つめてきた沢山の人々の想いや人生の一ページなのだろう。
どの話も最終的には前向きなものだし、前の話の登場人物が出てきたり触れられている中でより活躍しているのが分かるのも辻村さんの狙いだろう。
バーテンダーと菓子部長の話はお仕事モノのような側面もあって楽しめた。
ただ下戸のバーテンダーってどうやって味見するのだろう。試飲を重ねないと味の追究も出来ないが、誰かに飲んでもらうのかなと自分も下戸なので素朴な疑問を感じた。
個人的には大政翼賛会が東京會舘でどんな密室政治を繰り広げ歴史を動かして行ったのかとか興味があるのだが、この作品には相応しくない内容か。
下巻に続く。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2017年1月に読んだ本。
東京會舘の織り成す様々な人々のお話。
印象に残っているのは、クライスラーのでてきたお話。読んでいて様子が目に浮かんだ。建て替えで取り壊しになる
と、いうところを読んだときには
えっ、と思ったけれど下巻での新しい
東京會舘に期待を膨らませている。
綺麗な會舘に生まれ変わってほしい。
でも、変わりすぎて昔からの
「古き良き」という雰囲気も変えないで
ほしい・・・・生意気かも知れませんが、
そんなことを感じました。 -
〉東京、丸の内。
皇居の隣、ちょうど二重橋の正門の真向かいに"東京會舘"という建物がある。
〉東京會舘の創業は、大正十一年。
〉百年近い歴史をこの場所で見てきた建物なのだ。
この建物を舞台に小説を書くという作家が、社長にインタビューをするというプロローグで始まる連作短篇集。
上巻は、
大正12年の作家志望がヴァイオリニストの演奏会を聴く話『クライスラーの演奏会』。
昭和15年、會舘が政府に接収される日に従業員がそれまでを振り返る話。建物は、大東亜會舘と名が変わる。『最後のお客様』
昭和19年、戦時下。結婚に不安しかない花嫁が結婚式に臨む話『灯火管制の下で』。
昭和24年、GHQがアメリカンクラブオブトーキョーと名付けた時代、バーで働く一人のバーテンダーの話『グッドモーニング・フィズ』。
昭和39年、東京オリンピックの年。引退した製菓部長が會舘の象徴ともなったお土産菓子を開発した思い出話を語る『しあわせな味の記憶』
の5篇。
どの話にも客をもてなすための一流の場所である、という哲学が感じられます。
時代々々の人々の考え方の違いや、違わないところも自然と描写されていて、筆力が素敵。
後から振り返る形式の物語は、語られるのが激動の時代であっても全ては過ぎたこと…的な落ち着きがあって、なるほど大人の読み物だなと思うところです。
おすすめいただきまして、ありがとうございました。
下巻も楽しみです。 -
辻村深月さん・・人気の作家さんですよね~。
ブクログユーザーさん達の評価も高いようなので、気にはなっていたのですが、私の勝手なイメージで、イ〇メやスクールカースト的な“リアルしんどい系”の内容が多めという印象なんですよね・・で、そういうのが無理目な私は手を出せないでいたわけです。
ですが、図書館で本書を発見し、この題材なら“お試し深月”にピッタリかも!と、手に取った次第です・・・という事で(長っ)上巻読了。
大正11年、丸の内に落成した国際社交場・〈東京會舘〉を舞台にしたオムニバス群像劇。
こちらの上巻には、プロローグ&五章からなる物語が収録されております。
大正十二年。国際的ヴァイオリニスト・クライスラーが来日。作家を夢見る青年とクライスラーとの奇跡的な邂逅が印象的な第一章「クライスラーの演奏会」
昭和十五年。〈東京會舘〉が大政翼賛会という公事結社の本部に摂取される事になり、その“最後の日”を迎える従業員の一日を描く第二章「最後のお客様」
昭和十九年。〈大東亜會舘〉と呼ばれている會舘にて結婚式を挙げる女性の繊細な心情と、彼女を支える美容師のお話。第三章「「灯火管制の下で」
昭和二十四年。戦後、GHQに摂取され〈アメリカン・クラブ・オブ・トーキョー〉と呼ばれていた會舘のメインバーでアメリカ兵を相手に奮闘する、若きバーテンダー達の姿を描いた第四章「グッドモーニング、フィズ」
昭和三十九年。持ち帰り用の菓子の制作を依頼され、難色を示す職人肌の製菓部長と、彼を粘り強く説得した事業部長の熱意により出来上がったお菓子とは・・第五章「しあわせな味の記憶」
関東大震災や、太平洋戦争といった激動の時代を歩んできた〈東京會舘〉の歴史と共に、フィクションとはいえ、そこに携わった人々の想いが伝わってくるような内容です。
正直、ちょっと説明っぽくなっているように感じる部分もありましたが、著者の方がこの建物について調べた事を多く伝えたいのだろうな・・と思いました。
個人的に好きだったのは、第五章「しあわせな味の記憶」ですかね。
最初は持ち帰り用菓子を作るのを渋っていた製菓部長の勝目さんのプロ意識と、“〈東京會舘〉の味を外食に縁のない奥さんやお子さんにも伝えたい”という田中事業部長の熱意が造り上げたクッキーをはじめとしたお菓子の数々・・(お菓子を入れる缶へのこだわりも素敵です!)。
話のラストで、東京観光に来た夫婦が〈東京會舘〉のお菓子をお土産に購入するところに勝目さんが居合わせたシーンには心が温かくなりました。
旧館を舞台にした物語はここまで。
続く下巻では、改装された新館を舞台にした物語が待っております~。-
あやごぜさん、こんばんは。
今まさに目の前に東京會舘で購入したクッキー缶があり、思わずコメントしてしまいました。
辻村深月さん、私もあやごぜ...あやごぜさん、こんばんは。
今まさに目の前に東京會舘で購入したクッキー缶があり、思わずコメントしてしまいました。
辻村深月さん、私もあやごぜさんと同じような理由で手に取ったことがなく……でも、こんなテーマでも書かれているのですね。
苦手意識が払拭できるかはわかりませんが、こうした本もあることはメモしておこうと思います!2024/01/31 -
ゆのまるさん。コメントありがとうございます♪
わぁ♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*〈東京會舘〉のクッキー缶がお手元にあるのですね!
なんて素敵...ゆのまるさん。コメントありがとうございます♪
わぁ♪¨̮⑅*⋆。˚✩.*〈東京會舘〉のクッキー缶がお手元にあるのですね!
なんて素敵!いいなぁ~✧ (*´ `*) ✧
そうそう。私も辻村さんに苦手意識があったのですが、こちらは“普通にええ話”でした~。
“ファースト深月”にピッタリの作品かと思います~(^^♪2024/02/01
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今まで『凍りのくじら 』しか読んでいない。本屋大賞に選ばれた『鏡の孤城』は、いじめを受けて行き場をなくした子供たちに支持されているらしい。となると興味が薄れ本作を選んだ。
読みやすい文体で、章ごとに大正時代から現在まで10章で編まれていた。3章まで読み終えた。
予約した本が次々に図書館から届き返却期限が間近なのでひとまず返却することに。 -
海外ヴァイオリニストのコンサート、灯火管制下の結婚式、未知のカクテルを編み出すバーテンダー…“會舘の人々”が織り成すドラマが、読者の心に灯をともす。大正十一年、丸の内に誕生した国際社交場・東京會舘。“建物の記憶”が今、甦る。激動の時代を生きた人々を描く。直木賞作家の傑作長編小説!
東京會舘を訪れた客、迎え入れる従業員、様々な立場で東京會舘に関わった人たちの、それぞれの物語。
各話の主人公は違えども、登場人物が時を超えてリンクしているので、一冊の中で懐かしさを感じる不思議な本。
東京會舘という場所に行ってみたくなる。 -
上巻は東京會舘の開館当時から東京オリンピックの年まで。
辻村さんの思い入れも含めとても丁寧な作品だと思った。とても「東京會舘」を大事にしている。それは登場人物に凄く反映されていた。
著名人たちが使用したと有名な東京會舘であるが支えているのは無名であるけれどその仕事にプライドを持っている人たち。
皆輝いていた。
作家、同僚、夫婦、キャストとゲスト若しくは會舘でただすれ違った人々。
皆何処かで繋がっている。
一つの物を何年も何人の手によって大事にされる。
当たり前の様で最近はそれがなかなか難しい事になって来てるな。と思った。
ガトーアナナ、食べてみたいな。 -
東京會舘に行ってみたくなる。どこまでが事実に基づいたものなのか気になる。何度も感動できるいい小説だった。
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バトン形式の連作かー。
お菓子検索しちゃったよ。縁ない世界。