ヒロイン

著者 :
  • 毎日新聞出版
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感想 : 91
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620108704

感想・レビュー・書評

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  • ボリュームのある作品だったが最後まで引きつけられた。

    主人公 岡本啓美は「光の心教団」の引き起こした渋谷駅での毒ガス散布事件に関わった人物として指名手配される。
    逃亡を続けた17年…

    設定が現実にあったオウム真理教のテロ事件に似ているが、
    本作はあくまでもフィクションである。
    そのぶん、物語は大きくうねる。

    啓美がそもそも入団したのは、バレエ講師である母の呪縛から逃れるためだった。
    教団が引き起こした事件もぐうぜんその場に居合わせた啓美が首謀者 貴島についていく羽目になり、一般信者はなにも知らなかったのだ。
    その場ですぐに出頭すればちがう人生が待っていたはずなのに、助けを求めることを知らない女は逃げる道を選んだ…

    皮肉なものでバレエが嫌で逃げたのに、逃げるための助けになったのはバレエで培った体作りであり、時折なんの救いもなかった教団の教えが虚しくよぎる。

    この物語は逃亡者 岡本啓美だけの物語ではない。
    彼女を裏で支える女たちの話でもある。

    みどり。啓美を助けた、父の再婚相手。
    その娘 すみれ。
    夫・父親からのDVを受けながらも、母子で夢のバレエの道を進めるよう入念な計画を立てて実行する。
    じっくり時間をかけてDV男を社会から排除するよう仕向けていく。
    それを知っても啓美は自分の実の父に同情すら浮かばない…むしろ自分と違い素質をもったすみれのこれからに期待を抱く。

    鈴木真琴。啓美と貴島を匿いながら、告白本を出版しようと企てたフリーライター。
    自分の身の上を貸し出して、祖母の梅乃と暮らさせた。スナックの常連たちは啓美を梅乃の孫として疑いもしない。
    東京に暮らすフリーライター名のまことと連絡をとりつつ、「鈴木真琴」を生きてきた。
    長い月日を経て梅乃の最後も看取り、血のつながりもない二人なのに分身のような関係が出来上がる。

    あの日起こった事件で一変する。
    ライターまことの狂気に震え上がる…
    そしてそれに同調した真琴(啓美)も怯むことなく、やるべきことをこなしていく…
    これが、逃亡を続けるふてぶてしさ、他の人間になりすまして生活する大胆さを持った人間たちなのだ。

    女たちは図太く、狡猾に、堂々としている。
    それぞれの人生を生きるのだ。
    どんな名前になろうとも、死ぬまで人生は続く。

    秘密の共有で、つながりは一層深く、
    しかし、いつ裏切られるかも分からない不安。
    一人では堕ちていけぬ、道連れのこの先。

    これは「ヒロイン」というタイトルのダブルネーミングなのかもしれない。

    ただ一人愛した男 ワンウェイ。
    「片道切符」という意味にも取れる名前が、その先を暗示させる。
    裏の世界に生きる者はどこまでも影がつきまとう。

    ようやく世間でいうところの「幸せ」、働いて寝て食べて、となりにいっしょに生活する男がいる…そういう暮らしにたどり着いたはずなのに、まとも=ふつうの、度胸のない男では綻びは隠しきれない。
    幸せの証として撮った記念写真。weddingの文字。

    ラストまで読んだら、プロローグをもう一度読んでほしい。

  • 幼い頃からバレエに励んできたが、バレエ教室を経営する母の期待に応えられるほどの才能がない主人公。
    逃げるように新興宗教にそまり全財産を手放して出家するが、教祖たちの企んだテロに巻き込まれ、警察から指名手配をうける身となる。
    逃げこんだ町のスナックでママの「孫娘」として暮らすようになるが、やがてそこも離れ、遠い町で遠いところから逃げてきた男と暮らしていた。
    運命に流されていく女の物語。

  • 地下鉄サリン事件を思い出す。
    ある宗教団体にいた女性の逃亡生活の話。
    続きが気になり一気に読んでしまった。
    彼女自身はただ一緒にいただけなので、何が何やらで始まった逃亡生活。
    同情の余地はあるけど、すぐに事情を話すために出頭すれば良かったのにとか、育てられないのに産むの?なんてエゴだとか、色々思うとこもありモヤっとしてしまった。
    でもそこも含めて面白かった。

  • 地下鉄サリン事件を思い起こすような、ある宗教団体が起こした事件に関わった無実の女性のはなし。みつかっていない指名手配犯はこうやって日常にとけているのかもしれない、と思った。どうなるのか先が気になってどんどん読めた。

  • オウム事件を思い出す様な話だった。そんな事件の後全然知らずに関わってしまった女性のその後の数奇な人生の話。とても重くて辛い半生最後はその後の人生に幸多いことを祈ってしまった。

  • 居場所求め彷徨 人の心とは [評]横尾和博(文芸評論家)
    <書評>ヒロイン:北海道新聞デジタル
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/933168/

    桜木紫乃さん「ヒロイン」 無実の彼女は17年逃げ続けた「虚構じゃないと見えてこない真実もある」|好書好日(2023.10.03)
    https://book.asahi.com/article/15015945

    オザワミカ(@mica_ozawa) • Instagram写真と動画
    https://www.instagram.com/mica_ozawa/

    ヒロイン | 毎日新聞出版
    https://mainichibooks.com/books/novel-critic/post-638.html

  • オウムの地下鉄サリン事件を思い出した。
    ワンウェイは結局どうなったんだろう? 
    2人の関係がはかなくて読みながら切なくなった。

  • あの事件を元にしたフィクションだけど、どうしても事実と重ねてしまい、ヒリヒリとした臨場感が伝わってくる。

    著者が描く女性は、どうしてこんなに切なく強いのか。

    なんだか読み進めるのが辛くもあり、女性のしたたかな怖さもリアルである。

  • 生を受けた名前を捨て「誰か」として生きる主人公
    逃げる生活の中で本当の自分の心理と向き合い
    「誰か」として自分の人生を生きるヒロイン
    どん底では小さな幸せでもきらきらと輝くのだろう

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著者プロフィール

一九六五年釧路市生まれ。
裁判所職員を経て、二〇〇二年『雪虫』で第82回オール読物新人賞受賞。
著書に『風葬』(文藝春秋)、『氷平原』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『恋肌』(角川書店)がある。

「2010年 『北の作家 書下ろしアンソロジーvol.2 utage・宴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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