- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622004288
感想・レビュー・書評
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生物学者で、ノーベル賞も受賞しているジャック・モノーは、本書の執筆の動機を以下のように述べている。
「あらゆる科学の究極の野心がまさに人間の宇宙に対する関係を解くことにあるとすれば、生物学に中心的な位置を認めなければならなくなる。 ~ 私が明らかにしようと試みたのは、現代生物学の概念そのものより、結局はその≪形≫であり、またそれらの概念と他の思想の領域とのあいだの論理的な関係を明らかにすることであった。」
彼のスタンスは、養老孟司が言う、遺伝や脳などの側面から、人間の活動とその世界観を解き明かす「人間科学」と近い立場だと思う。
本書は、当時の最先端の科学者による、科学者の視点からの哲学批判・イデオロギー批判である。その主張は、40年経った現在読んでみても、色褪せてはいなかった。
注目したのは、上記の議論を展開している最終章、「王国と奈落」における、知識と価値の関係性についての考察。
モノーは、知識と価値は、行動や言説において分かちがたく結び付けられていることを指摘する。
社会主義などのイデオロギーや宗教においては、無反省にそれらの区別から目をそむける。
例えば、ヘーゲルの「歴史」あるいは、マルクスの「弁証法的唯物論」では、人類の歴史と宇宙の歴史とが、同じ永遠の法則に服従するものとする。
そこには科学的な根拠はなく、明らかに何らかの目的や意図(価値観)を背景に持っている。
(往々にしてそれらは、人間そのものや、神を認識できるものとしての人間を中心に捉えている。)
一方で、客観性を追求する科学的な立場では、知識から価値判断を徹底的に排除する。
ただし、科学的精神がよって立つこの「客観性の公準」の採用も、倫理的な選択であり、客観性という価値を前提にしてはいる。
とはいえ、こちらは、前者のようにおしつけがましく人間に迫ってくるものではなく、行動や言説の正真正銘さの条件として、人間自らが選びとるものなのである。
著者によると、現代社会は、科学による富と力を享受しながら、一方では、科学によって根元を掘り起こされた古い価値体系がいまだ蔓延しいている。
よって、非科学的な幻想を断ち切り、科学的な知識の倫理を受け入れて追及していくべきとしている。
以上が、本書にあった、科学的方法論からのイデオロギー批判の概要。
知識と価値という視点で、思想の背景を照らし、矛盾を指摘している姿勢は素晴らしいと思った。
ただ、科学的精神の勝利は、宗教を含む幾多のイデオロギー、すなわち既成の世界観・価値観の敗北を意味する。
これは、筆者も言っている通り、人間に対して胸苦しい不安、すなわちニヒリズムをもたらす。
結論では、科学的な知識による楽観的な見通しが述べられていたが、まさに科学では解決できない、価値の問題が今日的な課題であると感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おもしろい。
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タンパク質。高校の生物の授業を思い出した。出版当時は反響を呼んだのだろうが、やはり現代では少し古い気がする。
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サイエンス
哲学 -
40年前に読んだのだが 内容に まったく記憶がない。
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2352円購入2011-02-09
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科学的方法は、「自然」が客観性を有するということを当然に仮定している。つまり、ある現象を「目的」の面から解釈することによって真実の認識に到達することができるという考えを否定する体系である。その科学的方法によって、生物の3つの特性(合目的性、自立的形態発生、複製の不変性)が明らかにされた。合目的性を生物の特性と認めることは、「自然」の存在である生物が、それぞれの構造と性能を通じて何らかの「目的」を実現し、かつ追求していると認めることである。したがって、そこには、少なくとも外見上、深刻な認識論上の矛盾がある、というところから話は始まる。著者は、合目的性を担うタンパク質の振る舞いも、複製の不変性を担う核酸の振る舞いも、化学的な相互作用で説明できることを示した上で、生物の合目的性は、生物の複製機構に不可避的に生じる擾乱と偶発事が自然淘汰によって選別された結果にすぎず、「自然」が何らかの目的を有していることを意味するものではないと結論づけているのだと思う。人類の進化も、結局は偶然がもたらしたものに過ぎないという考え方は、大いに納得できるものだが、この本が出た1970年当時、少なくともヨーロッパでは、簡単には受け入れられなかったようだ。それはさておき、生物進化は、熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)により必然的に不可逆現象であるという記述があって、なるほどと思った。それにしても、熱力学第二法則は、生物とはよほど縁があると見える。生物が熱力学第二法則に反しているように見えるという話は、よく見聞きするし、シュレーディンガーも、遺伝子の正体を物理学の立場から考えた本の中で熱力学第二法則に言及していた記憶がある。
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東大京大教授が薦めるリスト100選抜
No.90 -
久方ぶりに読みましたが、こんなに超絶レベルでしたか。
当方の衰えかそれとも当初からそんな能力さえなかったのか、いずれにせよいささか内容についていけず★3つ、挑戦的かつ野心的内容は本来★5つの本なんだろうと思う。
生物にとっての本質は保存であって、進化の契機は偶然に過ぎない。
加えて進化と言えるものになるかはその保存機能によって選別されるってこの主張、相当に攻撃的ではないかな?
その裏に様々な西欧哲学への痛烈かつ根源的批判の意図をこの学者が込めているように素人の当方でも何となく感じ取れるだけに。
一度生物学を生業としている友人に聞いてみますかな。