心理療法論【新装版】

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622085478

作品紹介・あらすじ

人間の心についてのユングの独創的な洞察は、精神科医ないし心理療法家としての実践の中から生み出された。心理療法は生身の人間に全体として関わるものであり、療法家と依頼者とが全人格をかけて関わり合う作業である。そこでは療法家の人格全体が問われることにならざるをえず、ユングのいう療法家の「世界観」が試されることになる。

本書は、心理療法上の基本的な問題についてユングが論じたものの中から、とくに重要な6論文を訳者が選んで一書としたものである。狭い意味での心理療法に限らず、世界観や倫理的な問題、また政治と心理療法の関係などのテーマにも目配りがなされている。なぜ夢に注目するのか、フロイトやアードラーとの違い、若い療法家へのアドバイス。これは「心理療法とは何か」を広い視野で、ユング自らが語ったものなのである。ユングの心理療法の原点を知るのに最適の書といえよう。
[1989年2月初版]

感想・レビュー・書評

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  • ユングの開いた心理学を下地にした人間理解は、目に見えないものに対する畏敬と、さうしたものと共に生きていくことの強さに気づかせてくれる。
    さうした彼の理論が実際の心理療法でどのやうに展開されてゐるのか、ユングの心理「療法」に手近に触れることのできる一冊だと思ふ。
    改めて、彼が実際の患者さんを前にして常に考へ、何が一番患者さんにとつて効果的であるのかを探り続ける支援者であるといふ姿に気づかされる。
    他人に巻き込まれながらも、他人に影響を与へねばならない心理療法家の独自性や、患者さんの特性に合はせて適応される治療法が異なること、理論の適応の難しいケースに対する心理療法家の態度、臨床家の倫理といつた心理療法に携はる者の職業人としての在り方を丁寧に示してゐる。
    これらすべて、彼が自分の経験の中で培つてきたことである。さうした中で、様々な知見と結び合はせ、その考へをまとめ上げたことは、単に心理学者としてだけではなく、彼が心理学をはみ出たひとりの考へる人間であつたからに間違ひはない。
    ケースの中で出会ふ善悪はひとに関はる以上避けられないことである。果たして自死を止めることが患者さんにとつて本当によかつたことなのだらうか。もしかすると、自死によつて彼は自分の人生を取り戻すことになるのではないか。大切なのは、何か答へを出すことではなく、さうしたことを問ひながら患者さんと話していくことだ。あらゆる前提を問へること。裁き人や調停者、指導者ではない、具体的状況に耳を傾けることこそ、唯一のアプリオリ。
    だからこそ、個人的無意識の固着であるならフロイト的精神分析による洞察を、無意識に生じる劣等感ならアドラー的な精神分析による補償をと、使ひわける必要があるのだ。さらに、人間は個人的無意識のうちだけで生きてゐるわけではないから、集合的無意識より、聖なるものとして、自身の経験を体験し直すことも必要な場合があるだらうといふのだ。
    生きてきたひとの文化が異なれば、当然形作られる習俗、道徳観、心理が異なるといふのは彼からしてみれば当然の帰結である。その差異を明らかにしなければ、それぞれにあつた治療が施せるはずがない。ここに政治的な意図はなかつたはずだ。それが誤解されたことは、彼にとつて大変不名誉なことであつたはずである。それでも彼は、改めて問ひ直せる機会であると批判に耳を傾ける。声を荒げて闘ふことがすべてではない。本来なら、政治的なところから離れて考へたかつたに違ひない。けれど、立場上それが許されないため、彼は相手を見極めるため模索しやうとしてゐたのだらう。さう感じられる。

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著者プロフィール

1875-1961。1875年7月26日、スイス北部のケスヴィルにて生まれる。バーゼル大学卒業後、ブルクヘルツリ病院のブロイラーのもとで言語連想実験の研究に従事。その後、フロイトの精神分析運動に参加し、フロイトの後継者と目されるほど、その中心人物として精力的に活動した。1913年にフロイトと決別。その後は独自の心理学の構築に専心し、「コンプレクス」「元型」「集合的無意識」「無意識の補償機能」「内向/外向」「個性化」などの独創的な理論を提唱していった。1961年6月6日、死去。20世紀最大の心理学者の一人。

「2019年 『分析心理学セミナー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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