- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622085553
作品紹介・あらすじ
「はたして自分が田舎者なのかパリっ子なのか、わたしにはわからない。わたしはたまたまノルマンディに生まれた。そして、わたしの作品の大部分は、子供時代や思春期を過ごしたポーの町とベアルヌ地方から着想を得ている。けれども、わたしの町ということになれば、それはパリである。本当のパリっ子とは、別の土地で生まれ、パリで生きるのが征服することであるような人間をいうような気がするのだ。それには、セーヌ河にかかる橋を渡って、目を見はるだけで十分だ。比較を絶する空が広がっている。夢ではなくて、わたしはパリにいるではないか!」(本書より)
1943年以来ずっとパリに暮らす、97歳の作家が、19世紀パリの印刷工だった祖父の住所を皮切りに、数々の思い出と出会いにあふれる町を言葉で散歩する。占領から解放される現場に立ち会い、カミュのもとで編集発行された《コンバ》紙のジャーナリスト、ガリマール社の編集者として、多くの作家を知ったグルニエの、親切な道案内で路地裏を歩いてゆく読者に、パリは新たな相貌をみせてくれるにちがいない。
本書には、ジッド、サルトル、ジュネ、バタイユ、フォークナー、ヘミングウェイ、カルペンティエルなどが姿をみせ、今は亡き親しい友人たち(ブラッサイ、パスカル・ピア、クロード・ロワ、ロマン・ギャリ)も生きているようだ。都市を舞台とした愛情地理学にして、人生のアドレス帳。
感想・レビュー・書評
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1900年代初頭から2000年代初頭までの約100年を生きた作家が、パリのあちこちの場所にまつわる思い出を語った一作。
激動の時代を生きてきた方だけれど、語り口は淡々としている。戦時中のパリ占領下ではレジスタンスの活動にも参加していたのに、解放直前のパリで見聞きしたことや、いわゆる大物との交流なども全く大仰には描いておらず、まるでただの備忘録か日記のよう。でもこの街には至る所に人の生きた記憶が染み付いているんだなとしみじみ感じた。目には見えないけど、空間の中に、時間が地層のように積み重なっているイメージ。通ったことのある通りや、行ったことのある場所で、数十年前にはこういうことが起き、こういう人たちが行き交っていたのだと思うと、楽しい。
早くまたパリに行きたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示