ある作家の日記 新装版

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089209

作品紹介・あらすじ

いま読んでいる本、創作過程の実際、本の評判や売上げ、エリオットやフォースターとの交友など、1918年36歳の年から1941年自殺する直前までの日記。死後、夫レナードによって文学活動を中心に編纂された本巻は、創造の苦しみと楽しみを生き生きと伝える。

感想・レビュー・書評

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  • “1915年より、V・ウルフは規則正しく日記を書き始めた。これは1941年まで続き、最後の日付は、彼女が亡くなる4日前である。”

    “私は26冊の日記を注意深く読み通し、その中から彼女自身の文筆活動に関連している箇所のほとんど全てを取り出し、本書に公表する”

    と序文P.Ⅶで夫レナード・ウルフによって語られている。

    本書はV・ウルフの日記の抜粋からできて、彼女にとって日記には2つの用途があったとのこと。1つは日記をつける人が行うような、自分がしたこと、他人、人生、宇宙について考えたことを書いている。2つは、1人の作家として、芸術家として、その時々でぶつかる問題などについて、日記の中で自己と対話している。

    作家としての背景、つまり数々の小説やエッセイが生まれるまでの、V・ウルフの思いや、作家としての大変さなどが書かれている。

    そのため本書を読む前に、V・ウルフの主要な作品を何点か読んでから本書を読むと、より楽しめると思う。

    私も本書を読みながらではあったが、『ダロウェイ夫人』『灯台へ』『自分一人の部屋』『波』などに触れていた為、楽しむことが出来た。

    逆に言えば読んでいない著書について書かれているところは、実際に読んでいないため、あまり実感が湧かなかった。

    今後もV・ウルフの作品を読むたびに、本書を開き、その作品が生まれる背景を楽しみたい。

    作家としての著者の一面に見え隠れする、病気の波が見受けられる。

    1920年10月25日にはこう綴られている。

    “どうして人生はこんなに悲劇的なのだろう。深淵の上にわたされた鋪道の一すじのようなものだ。下をのぞくと目がくらくらする。どうやって終りまで歩いていけるか分からない。でもどうしてこういう風に感じるのだろう。”“いろんなことがあっても幸せなのだ-ただ、深淵の上にわたされた一すじの鋪道というあの私の感じさえなければ。”

    この彼女が語る「深淵の上に渡された一すじの鋪道」というものは、どれだけ彼女が不安な人生を送っているかが伝わってくる。少しでもバランスを崩せば深淵、つまり病気の波に飲まれることになる。その病気の波に耐えきれないと考えて、彼女は自らの命を絶っている。

    そのような不安定な状況下で、作品を作り続けた彼女の直向きさと熱意は素晴らしい。

    V・ウルフ自身についてもう少し詳しく知りたければ、本書の神谷美恵子さんの解説に加えて、神谷美恵子さんの著書『本、そして人』P195〜P222に書かれている「ヴァジニア・ウルフの病誌素描」により細かく書かれている。「社会的及び文学的背景」から始まり、「家庭的背景」「容貌」「ウルフの伝記」「人となり」「精神病」「ウルフの作品」「病気と人格と作品の関係」という項目ごとに書かれている。V・ウルフについて興味がある人はこちらもおすすめする。

    日記の最後の方は戦時中であり、戦争に関する記載が多い。

    1940年5月20日にはこう書かれている。

    “戦争はまるで絶望的な病気みたいだ。或る日は完全に人の心につきまとう。それから感じる心が負けてしまう。翌日にはからだがなくなって、空中にいるようになってしまう。それからバッテリーが再び荷電されてまたーー”

    戦争を経験したからこそ出てくる言葉。ウルフならではの空想力も見事。人一倍感性が強ければ、戦争はそれだけ刺激が強かったのだろう。

    本書の巻末に索引や著書の一覧が載せてあるので、それも併せて見やすい。

    神谷美恵子さんの訳は、とても暖かみがあるように感じる。V・ウルフの思いを汲み取ることに細心の注意を払っているようにも感じる。

    精神科医としての神谷美恵子さんではなく、1人の人間として、V・ウルフに興味を持った人間として、彼女やその夫レナードに敬意を払っている印象も受けた。

    ウルフの本に触れた時は、また本書も開いていると思う。

    本書を通して、V・ウルフという人物について少しは理解できた気がする。人に対する好き嫌いのはげしさ、心を許した人への才智ある会話、類稀なる空想力・想像力、憂鬱と陽気さ、など全てが関連し合い、彼女の作品につながっているのだろう。

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著者プロフィール

1882年―1941年、イキリスのロンドンに生まれる。父レズリーは高名な批評家で、子ども時代から文化的な環境のもとで育つ。兄や兄の友人たちを含む「ブルームズベリー・グループ」と呼ばれる文化集団の一員として青春を過ごし、グループのひとり、レナード・ウルフと結婚。30代なかばで作家デビューし、レナードと出版社「ホガース・プレス」を立ち上げ、「意識の流れ」の手法を使った作品を次々と発表していく。代表作に『ダロウェイ夫人』『灯台へ』『波』など、短篇集に『月曜日か火曜日』『憑かれた家』、評論に『自分ひとりの部屋』などがある。

「2022年 『青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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