大伴家持: 氏族の「伝統」を背負う貴公子の苦悩 (日本史リブレット人 10)
- 山川出版社 (2015年1月29日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (103ページ)
- / ISBN・EAN: 9784634548107
作品紹介・あらすじ
「かりそめにも先祖の名を絶やすことのないようにせよ」。大伴氏の危機を察し、軽挙妄動を慎しむよう家持がうながした「族を喩しし歌」。しかし、その七年後、権威を振りかざす藤原仲麻呂に対し、志を同じくする他氏の数名とともにみずからも挑んでいた。権力を握る有力者の盛衰に翻弄されるなかで、一番の支えは、代々守りぬいた氏族の名誉と誇りだったのではないだろうか。疫病・政争・戦争のなかを生きぬいた、奈良時代貴族の生涯をたどってみたい。
感想・レビュー・書評
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大友家持の生涯を通して奈良時代の政治を見ていくような構成。大伴家持といえば万葉集の人として知られていると思うが、実際には政治家、軍人であった。しかも一歩引いたところにいたのではなく、政治に深くかかわっていた。この辺りは歴史の教科書からだけでは読み取れないもので、本書を読まなければ万葉集の人のままだったかもしれない。
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万葉歌人としての面を過剰に推し出すでもなく人物の評も辛くも甘くもない感じで丁度よい感じでした。
全体のバランスも。
家持の本は小説や作家として文学的な方面の本が多いせいか鼻につく部分がどこかあったりするのですがこの著者の方は気になる論文を以前に拝見していたこともあり説が割れる部分も個人的に好ましい方向のものが多かったこともあり「いや、どうだろう?」という表現は少なかったかな。
歌は有名どころは押さえてある感じです。
あと今までの本には触れてなかったような?と思う部分も多かったので楽しめました。
掘り下げが甘いのはこのシリーズではそこまで求められるものではないのだと思います。
特定人物に関する著書というのはやはりいくつか読んでおくべきでしょうね。
触りや、きっかけとして読むにはとても適しているかと。 -
大伴家持は万葉歌人として有名だが、歌人である以前に律令官人であった。その人生は波乱に富んでいて実に興味深い。奈良時代という隠れた激動期の中で権勢のはざまを漂いながら生きた人物である。本書は家持の人生を歴史学の成果で綴った概説書である。
歌人としての評価はよく知られている。また万葉終焉歌は家持の歌人としての最後と見る説もある。しかし、家持の人生を考えるとむしろ万葉時代以降に多くの歌を残したのではないかと思うのである。
筆者は家持を「氏の名」を負う意識を持った奈良時代の官人の典型であると位置づけている。平安時代には官僚として個人の資質が問われる時代になっていく中で、これは旧態然とした考え方であった。古い考え方を持ち続けながら時代に翻弄された人物であったことになる。
後半の人生に家持がどのような歌を作ったのか。もしどこかの文庫に残されているなら、ぜひ知りたいものである。