ヤマケイ文庫 山怪 山人が語る不思議な話

著者 :
  • 山と渓谷社
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感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635048729

感想・レビュー・書評

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  • 田中康弘『山怪 山人が語る不思議な話』ヤマケイ文庫。

    山や里山で暮らし、山を仕事場にするマタギや猟師などの山人が語る摩訶不思議な体験を集めたノンフィクション。既に続巻が刊行されているが、本作は第1弾の文庫化である。文庫化にあたり、書き下ろしの『山怪後日談』を収録。

    こうした山や里山で起きる不可思議は先人たちの戒めだったり、自然への畏怖によるものかと思われる。また、所謂田舎ではこうした不可思議が口伝により伝達されるうちにデフォルメされて、物語が形成されるのだと思う。しかし、山や里山には全く理由が解らない不可思議が存在することは事実なのである。

    田舎に行くと、①近所の家でしこたま酒を飲んだおんちゃんが帰り道にタヌキに化かされて、田んぼの中で泥まんじゅうを食べていたとか、②気のふれた農家の嫁が我が子を殺害し、カレーにして近所に振舞ったとか、③長らく入院していた親戚が亡くなる間際にお知らせに来たとか、④狐の憑いたかのように、おかしな振る舞いを始めたばあ様を家族が煙で燻し、木の枝で叩いたなど、未だにそういう類いの話を耳にするのだ。

    本体価格800円
    ★★★★★

  • 単行本既読。文庫書き下ろしあり。
    タイトルにもあるように「不思議な話」が収集されています。

    読む人によっては恐ろしくも感じるでしょうし、全く訳が分からないとも思うかもしれません。
    似たような体験をした人は共感したり、「あのときのあれはそうだったのかもしれないな」と思い出したりするかもしれません。

    「現代」に、「実在の人物」に聞いているというのが本書の最大の特徴です。
    淡々とした語り口は、脚色をなるべく排しているんだろうなと思います。
    現代でも不思議な話って集められるもんなんだな〜と、改めて感心しました。

  • ホラー映画のように、これでもかとけたたましく人を怖がらせる何かは山に存在しない。そこには、じわじわと湧き起こる恐れがある

  • 山の話は面白い。古来から、山は日本人の日常でありながら、その厳しさゆえに人を非日常へと簡単に誘うものであった。本書で紹介されるのは、山にまつわる民話の原石となる「怪しい」話である。

    山が開かれ、娯楽が充実した現代では、代々口伝で伝わってきた山の話は絶滅寸前だ。民話にならなかった話の数々をテキストに起こした筆者の功績は非常に大きいだろう。

    山でよくある話は「狐に化かされる」というものだ。山に慣れた人が集落の近くの何でもないような道で左右を間違え、遭難する。そういった時に、人は「狐に化かされた」と言う。

    もちろん、実際にそんなことはないだろう。低山での遭難記録をいくつか読めば、遭難は何でもないようなところで道を一つ間違えるだけで起こることがよく分かる。山は一つ道を間違えるだけで全く違うところに出てしまう世界なのだ。

    航空の世界では空間識失調(ヴァーティゴ)というものがある。雲の中などに長くいることや疲れが原因となり、航空機のパイロットが平衡感覚が喪失するものである。しばしば航空機事故の原因ともなる。ヴァーティゴは、パイロットの経験の長さに関係なく起こる。人間の性質上、仕方のないことなのだ。慣れた山道での遭難メカニズムというのは、おおむねヴァーティゴに近いものだろう。

    ヴァーティゴでは計器を信じることで墜落を回避できる場合があるが、コンパスや地形図のない時代の山ではそういうわけにはいかない。ゆえに、経験の長いマタギですら迷うこともある。そこで「狐に化かされた」というのは、経験の量を問わず遭難が誰にでも起こりうるゆえに、捜索の労力を当人の責に帰さないための方便である、という解釈がなされる。生活の知恵である。

    そんなわけで、大抵の「怪しい」話は論理的に説明できてしまう。しかし、それでも説明できないことが残る。だから面白いのだ。

    たとえば幻覚。遭難記録を読むと、遭難者は極度のストレスからよく幻覚を見ることが知られている。私は遭難したことはなくとも、極度のストレスで幻覚を見たことがあるので「人間はけっこう簡単に幻覚を見る位に追い込まれる」という認識がある。

    ところが幻覚を見たことがない人間からしたらそれは想像できない。というより、幻覚を見慣れなければ「それが幻覚である」ことには気付けない。ゆえに、山で人は様々なストレスから幻覚を見るが、それが幻覚であることに気付かない。

    大抵の「見た」話は幻覚で片付けられる。だが、複数の人間が同じものを見た話はどうだろう。幻覚は似通うのか? それとも本当に何かあるのか?

    「説明できるもの」を省いていった先にある「わからないもの」に惹かれるタイプのオカルト好きには是非とも勧めたい一冊である。

  • 山に暮らす現代の人たちの不思議な体験談を聴き集めた物語集だ。帯にある通りまさに現代版遠野物語。起きた不思議をそのまま語る。理屈をつけたり、下手に怖がらせようとしないから話の真実味が増している。さらに訛りが入ってて盛り上がる。
    猟師や木こりが山で出会うもの、山男を惑わすもの、土地の老人が教えてくれること、山の学校で起きること。
    こういう話はいいよねえ。夕飯の後に、田舎の爺ちゃん婆ちゃんやおじさんたちの話を聞くようだ。死霊とか悪魔とかそんな野暮な相手ではない。相手は山の神、狐、狸、蛇…狐火、小豆研ぎ、ベトベトさん…。そして何より何が起きたかわからないような体験談。ほとんどが21世紀の話なのだ。

  • 聞き取り話。
    取材がとても大変だったと思いました。
    どの話も、静かにゾッとする感覚で、私好みの怪談でした。続編も読みたいですね。

  • 山を仕事場とする猟師や、山里に暮らす人々が実際に遭遇した奇妙な出来事。深い親交を持つ著者だからこそ聞き得た阿仁マタギの体験談をはじめ、時代の流れとともに消えつつある「語り遺産」を丹念に集めた現在形のフィールドワーク。

  • 思い当たる節あり。

  • ヤマケイ文庫の棚に行くと、つい、何かしら買ってしまう。本書もそんな1冊。
    山で起きた不思議な話、怖い話を聞き書きしたもの。取材した著者も『いずれ消える運命にある』と記していたが、今では語る人も少なくなったのだろうか。確かに趣向を凝らしたエンタテインメントではないが、こういう素朴な怪談も面白いと思うのだが、フィールドワーク的に纏める人もなかなかいないだろうなぁ……。

  • 「現代版遠野物語」という前評判というか事前情報がすごく的を射てる。
    昔話とか不思議な話、実話怪談のような不条理な雰囲気の話が好きな私には大満足でした。

    山で生活する人々の間で語り継がれたり、ちょっと噂になったりした「不思議な話」をまとめている本。
    怪談本というにはあっさりテイストで、淡々とした語り口。心霊現象というよりは狐狸妖怪(特に狐や狸)の仕業じゃないかという噂、のような内容。「遠野物語」のイメージが掴めなくて、怪談本のような怖い話を期待して読むと期待外れかもしれない。
    評価は完全に主観・好みで星5

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著者プロフィール

長崎県佐世保市出身。
佐世保南高校→島根大学農学部→日本写真学園
雑誌、冊子等の撮影、執筆を生業とする。
秋田県の阿仁マタギとの交流は20年に及び“マタギ自然塾”としての活動を行う。
狩猟採集の現場から「地の力」とそこに暮らす人々の生活を常に見つめてきた。
「マタギ 矛盾無き労働と食文化」は阿仁マタギの里での生活を活写。
熊、ウサギ、岩魚、山菜、キノコと山の恵みを享受してきたマタギの暮らしを追った。
今は引退されたり、亡くなられた多くのマタギ達との様々な体験が記録されている。

「2023年 『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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