古事記のひみつ: 歴史書の成立 (歴史文化ライブラリー 229)

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642056298

作品紹介・あらすじ

ヤマトタケルは、なぜ古事記と日本書紀で全く別人のように描かれているのか。「日本書」をキーワードに、古代の歴史書=古事記・日本書紀・風土記の成立に隠された秘密に迫り、独自の視点から古代神話をわかり易く読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 『古事記』と『日本書紀』の成立をめぐる謎についての考察を展開している本です。

    著者はまず『日本書紀』をとりあげています。『日本書紀』は、紀・志・伝から成る中国の歴史書の形式にそって構想された「日本書」の一部をなすものであり、他方『風土記』は「地理志」編纂のために諸国から集められた物語から成っているという見解が示されます。そのうえで著者は、『日本書紀』が律令国家の要請によって編まれた書という性格をもつのに対して、『古事記』は律令国家の枠組みには収まらないような叙述を含んでいることを指摘します。

    『古事記』について、著者はまず、これまで提出された古事記偽造説を検討することからはじめています。著者は、『古事記』の本文が後世の偽造だとする見解が維持しがたいことを示したうえで、「序」については9世紀に日本書紀の講書をおこなっていた多氏によって付けられたものだとする主張を展開します。さらに著者は、『古事記』の内容に立ち入り、律令国家成立以前の「古層」の記憶がそのなかに記されていることを示そうとしています。

    著者自身の見解が大胆に提示されており、スリリングなおもしろさをあじわうことのできる内容です。

  • 図書館から借りました。
    古事記の「序」は、後世になって付け加えられたもので、古事記本体は7世紀半ば:日本書紀に先行すること50~60年に成立したという論。
    これは、私が昔から感じていたことなので、大いに大賛成。
    実は、失われたことになっていた聖徳太子の国記の一部ではないかとすら思う。なぜなら、推古天皇で記事が終るから。それも、何も具体的な業績が何もなく。だから、推古朝かその周辺に編纂されたものに違いないはずなのだ。そこで終っているのは、その先を作者が知らなかったからに違いない、とずっと思っていたので。

  • チェック項目3箇所。聖徳太子が、仏教による倫理観を体現し、「知」を象徴する偉大なる耳をもち、厩の前で誕生したという貴種誕生の神話をもたねばならなかったのは、新たな国家秩序の始発がこの皇太子の共同体を逸脱した世界性に求められたからである、つまり、聖徳太子こそが、世界に肩を並べようとする国家の意志を担い、それを可能にする「知」を領導する人物として選ばれたのである、もちろん、ここではその実在性を問題にしているのではない。日本書紀の性格は、天照大神と素戔嗚尊との高天原でのウケヒ産みの場面で、男子を産めば「清き心」があり、女子を生めば「濁き心」があるという前提を明確に示し、誕生後の「物根」を根拠とした帰属の決定につなぐことによって、正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみ)が天照大神の血統を受け継いだ正統的な跡継ぎであることを主張する周到さなど、細部の叙述によっても窺い知ることができる。さて、どちらが正しいのか、日本書紀か古事記「序」か、そう尋ねられれば、わたしは躊躇なく、七世紀後半の古代律令国家の史書編纂事業としてみれば、日本書紀、天武十年三月の記事が正統的な事業を伝えていると断言する、なぜなら、古事記「序」は律令国家の歴史になる根拠を、何ももたないからである。

  • 古事記、その面白さ、成立の経緯等、かなり面白い。 お正月の読み物としては、良い内容でした。初詣をしながら、古事記に記載されている神々の物語を思い起こしてました。
    また、本書に書かれている、聖徳太子とその時代性、古代国家の成立と歴史書、文字(漢字)の登場、王都の建設、さらに、大化の改新、天智天皇、壬申の乱、天武天皇による統治の正当性をめぐる物語としての日本書紀の位置づけ等、興味深い考察です。

  • [ 内容 ]
    ヤマトタケルは、なぜ古事記と日本書紀で全く別人のように描かれているのか。
    「日本書」をキーワードに、古代の歴史書=古事記・日本書紀・風土記の成立に隠された秘密に迫り、独自の視点から古代神話をわかり易く読み解く。

    [ 目次 ]
    「日本書」の構想(史書と法―歴史を占有する国家;天武朝における法と歴史;「日本書 志」としての風土記;「日本書 伝」の構想)
    日本書紀の方法―国家を叙述する(日本書紀の神話叙述;天皇像と皇太子像の構想;管理される歴史)
    古事記の成立―七世紀の本文と九世紀の「序」(古事記偽書説について;古事記「序」という存在;古事記とはいかなる書物か;偽造された古事記「序」)
    古事記の古層性(比喩の古層性;天津麻羅の象徴性;古事記系譜の古層性)
    倭武天皇―常陸国風土記と中央の歴史(倭武天皇という呼称;タチバナと倭武天皇;いくつもの倭武天皇)

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著者プロフィール

千葉大学名誉教授。1946 年、三重県生まれ。『古事記』を中心に古代文学・伝承文学に新たな読解の可能性をさぐり続けている。共立女子短期大学・千葉大学・立正大学等の教員を歴任し、2017年3月定年退職。著書に『浦島太郎の文学史』『神話と歴史叙述』『口語訳古事記』(第1回角川財団学芸賞受賞)『古事記を読みなおす』(第1回古代歴史文化みやざき賞受賞)『古代研究』『風土記の世界』『コジオタ(古事記学者)ノート』など多数。研究を兼ねた趣味は祭祀見学や遺跡めぐり。当社より『NHK「100分de名著」ブックス 古事記』を2014年8月に刊行。

「2022年 『こころをよむ 『古事記』神話から読む古代人の心』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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