隠れナチを探し出せ (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750515267

作品紹介・あらすじ

絶対に許さない!
戦後、各地に身を潜めた元ナチを今も追い続ける“ハンター”がいる。
ヴィーゼンタールやバウアーをはじめとするナチ・ハンターたちと、アイヒマン拉致から裁判までの詳細、「死の医師」ハイムやメンゲレ、コッホなど追われる者たちが繰り広げるドラマ。
身の毛もよだつナチスの残虐行為の数々とともに、『ヒトラーランド』のジャーナリストが、関係者への直接インタビューや資料から鮮烈に描きだすノンフィクション!


1 9 4 5年に始まり、いまようやく終わりを迎えようとしている容赦なき正義の追求が、余すところなく、深みを持って描き出されている。
――「ワシントン・ポスト」紙

生き生きとして読みやすく、読者を惹きつけて放さない。
――「ウォール ・ ストリート ・ ジャーナル」紙

詳細かつドラマティックで、読む者を夢中にさせる。
――「サロン」紙

70年にわたって続けてこられたナチ裁判には、決して予測できる結末などなかったことをあらためて思い知らされる。
――「タイム」誌

感想・レビュー・書評

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  • ナチ・ハンターと呼ばれた人々がいる。
    ナチの暴虐は、ヒトラーの自殺で幕を降ろした。だが、残った幹部や党員はどうなったか。直ちに裁きの場に立たされ、処罰を受けた者もいるが、過去を隠して生き延びようとした者もいる。口をつぐんでやり過ごそうとした者、遠国に逃げることを選んだ者、財産や才能を生かして転身した者。
    過去の悪事を、「戦時であったから」「上官に逆らえなかったから」と償おうとはしない者たちを、しかし、許さない者たちもいた。それがナチ・ハンターである。

    ひとことにナチ・ハンターというが、彼らは決して組織だった存在でも、一枚岩でもなかった。多くのハンターたちがナチスの非道を暴こうとはしてきたが、暗殺でもよいと思うか、法廷に立たせることを目的とするかといった目的も異なれば、左派寄りであったりイスラエル寄りであったりと、政治信条も違っていた。容疑者を公衆の面前で平手打ちするような、大衆にアピールする派手なパフォーマンスをする者もあれば、書類を丹念にあさり、容疑者を追い詰めていく者もあった。
    時として、ナチ・ハンター同士で反目し合い、いがみ合うこともあった。
    だが、概して言えるのは、彼らの目的は、「復讐」というよりも「正義」を実行すること、そして暴虐行為を忘却の淵に沈めぬことであったということだ。

    本書は、ナチ・ハンターたちの様々な姿を追っていく。
    裁判に携わった者、刑執行に当たった者、ジャーナリスト。
    ジーモン(サイモン)・ヴィーゼンタールは最も有名なナチ・ハンターと言ってもよく、彼の名を冠した「サイモン・ヴィーゼンタール・センター」は現在でもホロコーストの記録管理と反ユダヤ運動に対する監視活動を行っている。ヴィーゼンタールは、潜伏したナチスを精力的に追ってきたが、「ハンター」という立場は「公的」に認められたわけではなかった。毀誉褒貶も激しかったが、彼の熱意がナチスの犯罪に対する世間の記憶をつなぎとめる上で、非常に大きな役割を果たしたことは衆目の一致するところである。
    ハンター側だけでなく、アウシュヴィッツ収容所長だったルドルフ・ヘースや、潜伏中のアルゼンチンで拉致されエルサレムで裁判にかけられたアドルフ・アイヒマンの姿も描いている。
    多角的・立体的にナチとナチ・ハンターの「戦後」が浮かび上がってくる。

    ドラマチックであることから、ハンターたちはハリウッド映画の題材ともなってきたが、実際には、彼らの活動は映画のようにアクロバティックでも劇的でも華々しくもなかった。
    映画によってある種、娯楽的に歪められた彼らの姿を、本書はもう一度洗いなおす。そこに現れてくるのは、狩る側・狩られる側の人間性、「正義」とは何かという重く深い問い、そして忘れてはならぬ人類の人類による人類に対する暴虐行為である。

  • ふむ

  • なかなかに大部の著だが、やや煽情的な(翻訳)タイトルが示すとおり、敷居はさほど高くない。戦後、というかニュルンベルク(に代表される)裁判の終了後、のうのうと逃げおおせて人生を謳歌していた戦犯たちを法廷にひきずり出さんと奮闘した人々を描いている。
    拉致に始まり処刑に終わったアイヒマン作戦がひとつの白眉ではあるものの、焦点は追われる者よりむしろ、追う者にこそ当てられている。一部を除いてあまり知られているとは言えないナチ・ハンターたちの人間くさい横顔は、かれらが成し遂げた偉業とそれを支えた精神と同じくらいに必見。泣く子も黙るモサドは、確か「暗殺の政治史」(リチャード・ベルフィールド)に意外なトンチキぶりが描かれていたように記憶するが、本書ではなかなか頑張っている。
    公平な視点から淡々と事実のみを書き連ねていくスタンスは、戦後70年以上経った今だからこそ可能だったものとも言える。

    2018/12/3~12/6読了

  • 復讐は何も生まない、とよく聞くけれど、人は良いことも、悪いことも、やったことの報いを受けるべきだと思っている。そうでなければ世界はいつまでも元のままだ。
    個人的にも悪党が逃げ切るのは嫌だ。気持ち悪い。

    安っぽいタイトルで実はあまり期待していなかったのだが、面白かった。
    著者はベテランのジャーナリスト。仕事はきっちり。視点は広くて、つっこみは深い。元ナチを追う政治的、社会的な風潮の盛り上がり、盛り下がりを鳥瞰する一方で、アイヒマン拉致に関わった工作員の生々しい証言も出てくる。モサドの工作員がアルゼンチンに潜伏していたアイヒマンを拉致するエピソードはまるで映画。工作員は万一アルゼンチン当局に捕まったとき、イスラエルとは無関係であると口裏をあわせることになっていた(そのため長期間服役しなくてはならなくても)という。
    ヴィーゼンタール始め、著名なナチ・ハンター同士の反目まで書いてある。

    ナチに関する本はずいぶん読んだが、自分のやったことについて本当の意味で反省している元ナチが出てきたことがない。彼らの言い訳は判で押したように「命令に従っただけ」「そういうことが起きていたと知らなかった」だ。このセリフ、今でもあちこちで聞くなあ。

  • フェレンツはトランシルヴァニア地方に暮らすハンガリー系ユダヤ人の家庭に生まれ、幼いころに家族に連れられてアメリカに渡った。小さいころから喧嘩っ早く、どんな挑戦にもおじけづくことがなかった。父が清掃員をしているアパートメントの地下で暮らしていたが、当初は地元の公立学校への入学が許可されなかった。小さすぎて6歳に見えなかったのと、イディッシュ語しか話せなかったことが理由だった。しかし、他の地域の様々な学校に通った跡、「英才児」の1人に選ばれ、一族で初めて大学に進学し、その後ハーバードで法学の学位を取った。一度も学費を払うことはなかった。フェレンツは史上最大の殺人裁判と呼ぶ公判の首席検事を27歳で務めた。解放直後の強制収容所に足を踏み入れた時、フェレンツの気持ちは劇的に変化した。この納骨堂のような場所を運営していた者たちっを有罪にする証拠を集めることが彼の任務になった。初めの頃は収容所を訪れるたびに目にする散乱した死体や骸骨のような生存者がほとんど信じられなかった。「目で見たものを頭が受け付けなかった」とフェレンツは後に記している。「私がのぞいたのは地獄だった」。ブーヘンヴァルト強制収容所ではSS将校が飾っていた囚人の縮んだ頭部を押収した。それはデンソンにより裁判で証拠品として使われることになった。フェレンツの怒りは募っていった。その怒りは即座に行動したいという熱い衝動に昇華する時もあったが、被害者が虐待者にし返すをするのを目撃した時などは何もしよう思わなかったという。エーベンゼー強制収容所に到着すると、彼は通りすがりの市民に死体の回収と埋葬を命じた。怒りに駆られた元囚人たちが収容所長と思式SS将校を捕まえ、殴り、火葬場へと死体を滑らせるために使われていた金属の荷台に縛り付けるのを、フェレンツは目撃した。元囚人たちはSS将校を炎にくべて焼き殺した。「一部始終を見守りながら、私は何もしなかった。何かしようという気も起らなかった」マウントハウゼンでは石切り場の底に人骨の山を見つけた。奴隷労働させられていた人々が、働けなくなるや、崖から突き落とされたのだ。リンツまで車で移動したフェレンツは、自分たちが止まるために、あるアパートメントからナチ一家の住人を追い出した。翌朝、マウントハウゼンに戻る際、彼はたんすやクロー前途に入っていた服をすべて運びだし、裸同然の収容者たちに与えた。

  • 東2法経図・開架 234.07A/N26k//K

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著者プロフィール

アメリカ在住のジャーナリスト。「ニューズウイーク」誌で香港、モスクワ、ローマ、ボン、ワルシャワ、ベルリンの支局長を歴任後独立。受賞歴多数。著書に『ヒトラーランド――ナチの台頭を目撃した人々』『モスクワ攻防戦―― 20世紀を決した史上最大の戦闘』(ともに邦訳は作品社)がある。

「2017年 『隠れナチを探し出せ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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