兄の名は、ジェシカ (アニノナハジェシカ)

  • あすなろ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751529478

作品紹介・あらすじ

4歳年上のジェイソンは、ぼくの自慢の兄。だけどこのごろ……。
生物学的な性、社会的な性、そして本人が自覚する性の問題を、家族4人の立場から、わかりやすく、誠実に、時にコミカルに描く。
『縞模様のパジャマの少年』のジョン・ボイン、最新刊!

感想・レビュー・書評

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  • イギリス閣僚の母とその秘書の父、4つ年上でサッカー部のキャプテンをしている自慢の兄ジェイソンと暮らすサムは13歳。難読症で、自信がなく友人もほとんどいなかったが、優しくてかっこいい兄が大好きだった。
    ところがある日、ジェイソンは、家族に、自分がトランスジェンダーで自覚している性は女だとカミングアウトした。首相の座を狙う母と父は、スキャンダルを恐れてその事実から目を逸らし、サムは、そのことで周囲からのいじめに遭う。外交的で明るかった兄は引きこもりがちになり、家庭内でも孤立してきた。サムは、ジェイソンのポニーテールを切ってさえしまえば元の「兄」に戻ってくれるのではないかと思い、ジェイソンが寝ている間に、彼の髪を切ってしまう。家族を信じられなくなったジェイソンは、クリスマスを前にして、家を出てしまうのだった。

    政治家の家に生まれた少年とその家族が、「兄/姉」の苦悩を受け止め理解していく姿を描いた物語。

    ******* ここからはネタバレ *******

    LGBTQの家族を受け入れていく物語ですが、時代背景が若干古いのではないかと感じます。
    それは、主に公にLGBTQを批判する人たちと、その批判を恐れる人たちの反応です。

    サムの母は、首相の座に野心を持つ政治家ですが、ジェイソン/ジェシカを愛しているものの、トランスジェンダーという事実が自分の政治活動に悪影響を与えるとして嫌悪しています。実際に党首選のときには、そのことでかなり危機にも陥りました。そして、対抗馬として総裁選に出たボビーの陣営が、そこを「親の育て方」に問題があったとして攻めたのは、時代錯誤と言わざるを得ません。若い読者の誤解を避けるために、物語の中か、それができないのならあとがきででも否定しておいてほしかったです。

    さらに、サムがジェイソン/ジェシカのことでいじめられたことも同様です。
    見かけはどうであれ、個人のジェンダー意識が尊重されるべきものであることは教わっていないのか?陰で言いたいことはあったとしても、おおっぴらに言うことは、それ自体が自分の狭量さを顕にするものと気づくものはいないのか?ちょっと不思議に感じました。

    原書は、イギリスで2019年4月18日に出版されています。
    同年6月26日に同国のウィリアム王子がLGBTQの若者を対象にホームレス支援を行う慈善団体「アルバート・ケネディ・トラスト(Albert Kennedy Trust=AKT)」を訪問し、その際に、自分たちの子どもがLGBTQであっても「まったく問題ない!」「心配なのは子どものセクシャリティではなく、それに対する世間の反応と理解」と話しています。

    こんな国では、おおっぴらに差別する人のほうが居心地が悪いはずではないでしょうか?

    だからきっと本当の問題は、表に出ない差別やいじめになってきているのではないかと、私としては感じているのです。

    それと、大臣夫妻(サムの両親)が、トランスジェンダーを「病」と捉え電気ショック療法を試すことを考えるなんてところも、古すぎると思いました。
    忙しくて家族の問題に向き合うことができない設定の両親なのでしょうが、政治家であれば、国民の問題としてLGBTQについては基本的な知識はもっているはずではないかと思うのは、私の先入観でしょうか?

    あと一つ感じたのは、翻訳時の言葉遣い。
    ジェイソンがジェシカになっても、最後まで男言葉で表記されていました。まあ、原書はきっと英語で、男女の言葉遣いに差はほとんどないのでしょうけど、日本語だと、女の子が「おまえ」とか「いいんだぞ」とか言うと違和感ありますよね。それに、きっと、言葉遣いの変化でが、どこから内面も「女」として生きていくことにしたのかをはかることもできると思うんですよ。
    そういう点で、まったく最後まで男言葉だったのは残念だったし、女の子になった感じもしませんでした。


    それと、選書本のための読書なので細かいところも書いておきます。
    52ページ最終行、
    ”そして、最悪なことに、ペニーはずっとぼくを子どもあつかいし、会うと必ずばくの髪をくしゃくしゃと乱し、決まって、サムは「すっかり大人になったら」、女の子たちからさわがれるようになるわよ、と言うのだった。”
    この「」の位置は、「サムはすっかり大人になったら、女の子たちからさわがれるようになるわよ」のほうがわかりやすくないですか?

    264ページ1行目、
    ”サッカーもまた始めていて、大学のチームにほかに女性はいないけど、ほとんどのメンバーよりうまいから、だれも気にしていないんだそうだ。”
    これは、”大学のチームでまたサッカーを始めた。ほかに女性はいないけど、ほとんどのメンバーよりうまいから、だれも気にしていないんだそうだ。”のほうが自然じゃないかと思うのですが、いかがでしょう?


    いろいろ書きましたが、性的少数派の本人と家族の苦悩はわかりやすく描かれていると思います。難易度も低めなので、読める子なら中学年から、と言いたいところですが、恋人といちゃついているところがあるので、中学生以上におすすめします。

  • 自分の家族から、トランスジェンダーであると告白されたら。
    両親の反応はちょっと極端だとは思うけど、私の想像しうるものだった。
    じゃあ、弟は。

    13歳のサムは、自慢の兄のジェイソンがトランスジェンダーだと言われても、受け入れられない。それがどういうことか、言葉の意味を知っていたって、よく分からないのだ。
    周りに知られたら学校生活がどうなるかとか、兄が別人になってしまうとか、不安と混乱で理解しようとしていないのかもしれない。
    ひどい言い方もしている。傷付けている。
    だけど、サムにだってケアは必要じゃないのか。

    子どもが直面するには難しいテーマだと思うけど、重苦しくなくて、サムの語りがくだけているのも読みやすかった。
    話の中に有名アーティストが出てきたり、クラスメイトの嫌な奴の身に起きて欲しいことを列挙したり、クスッと笑える。
    でも、サムが兄の名をジェシカだと言ったところは、ちょっと泣きそうになった。
    自分にも誰にも、ジェシカを傷付けさせるもんか。
    ジェイソンもジェシカも、何も変わらない、ずっとサムのヒーローだと思った。

  • トランスジェンダーがテーマの本が増えてきた。
    思春期の子どもにとって性は誰にとっても大問題だ。その上、自分はまわりと違うと意識したときの悩みは大きい。告げられた家族の反応は?

    主人公サムには、尊敬する大好きな兄ジェイソンがいる。ジェイソンが16歳の時「ぼくは姉さんなんだと思う」と家族に告げた。
    政治家で次期首相を目指している母親も、妻の私設秘書をしている父親も、社会的立場を守るため受け入れない。話をきちんと聞こうともしない。二人の言動に差別主義が見え隠れする。
    サムも理解できずに受け入れなられない。その事でいじめられ、兄の告白に腹をたてる。
    理解するのが一番困難なのが家族なのかもしれない。それまで愛していたゆえに、変わる姿に拒否反応を示してしまうのか。

    トランスジェンダーの問題は「誰もがほんとうの自分らしく生きる」ために悩み苦しむ人たち、性別だけでなく、国、民族、宗教など様々な問題で理解されずに苦しむ人たちと通じる問題なのだろう。

    最後にサムが「ぼくの姉さんのジェシカです」と
    満面の笑みで言えて、ほんとうに良かった。

  • 兄さんは僕のヒーローだ。
    学校でも1番の人気者だ。
    生まれる前から僕の事を心待ちにしていて、小さな頃から病気のときも本を読むときも、音楽を聴くときもずっと一緒だった。

    でも兄さんは家族の前で、トランスジェンダーであることをカミングアウトする。

    政治家の両親と「兄さん」が大好きな僕はどうしても受け入れられなかった。

    ☆カミングアウトを受けた家族が主人公の話。
    受け入れられる人もすぐに受け入れられない人もいる。愛だけでは解決出来ない。
    ☆隣の部屋でずっと泣いている兄さんの声に耳を塞いでしまった主人公。
    ☆家族はいっしょに作り上げていくものなのだなと思った。
    ☆主人公が“いい子”ではないのが、良かった。読み手が同じスピードで変わっていける。

  • サッカーが上手く、かっこよく、学校でも人気者だった自慢の兄・ジェイソンが「自分は女だ」と言い始めたことで、弟のサムの人生は大きく変わります。
    それまでも難読症のためにからかわれることはありましたが、学校では日々「おかしな兄と同じ、変な奴なんだろう」という冷たい視線やいじめの対象になってしまいます。
    さらに、両親も「ジェイソンはどこかがおかしくなってしまった、治療しなくては」とジェイソンのカミングアウトに対して拒絶的な反応を取り、家族はバラバラになってしまいます。

    作品としてはYA作品です(課題図書にもなっています)し、基本的には主人公の少年少女たちが不必要に傷ついた形で物語を終えることはテーマ的にもないだろうとは想像できます。ですから、最終的には家族は結束を取り戻すのだろうという予想はできましたし、そこに向けてのラストシーンのいわば「軌道修正」はそれまでの展開と比較すると、ちょっと出来過ぎかな、という気もします。


    一方で、政治家として働いている両親が、「息子がトランスジェンダーだ」という事実をスキャンダルとしてとらえて拒絶したり、弟が「兄がおかしくなってしまった」と怒りを覚えたりする様子は、一般論としては「多様性」を尊重するようなことを言いながらも、身近な存在が自分の価値観とは反することをすると本能的に否定してしまったり、自分の評判や利益を守ろうとして相手を傷つけてしまったりする、という人間の「弱さ」がリアルに描いていると感じます。
    性自認にゆれるトランスジェンダー本人の葛藤だけではなく、それによって「信頼する兄」を失った弟が大きく影響を受けている(そして、それに対するケアが十分に受けられていない)という部分も、無視できない問題点なのだろうと思います。

    とはいうものの、本書のテーマはジェイソンの性自認にまつわる、彼(彼女)の苦しみです。助けてくれると思って打ち明けた両親に拒絶・否定されたジェイソンのショックは大きかっただろうと思います。彼(彼女)のような苦しみを受ける人が少しでも減るように、周囲が理解する必要があるでしょうし、そういった意味でこの本を中高生に推薦する意義はわかります。
    (フィクション作品という面もあるのでしょうが、2021年に出版された作品にしては、LGBTQに対する理解が薄すぎる印象もありましたが)

    ただ、私自身としては、是非、子育てをしている親の世代に進めたいと思います。性自認などのいわゆる「大きな」問題でなくとも(例えば大人から見たら些細な問題であっても)子どもが親に打ち明けてきた時、どのような対応をするべきなのか。不安を取り除くように明るく振る舞うべきなのか、共感してあげるべきなのか、君の味方だと安心させてあげるべきなのか、考えの誤りを正すべきなのか。状況によってさまざまだろうと思いますが、誤った選択を繰り返して子どもを傷つけ家族が壊れかけてゆく様子を見ることで、「子どもが親に何を求めているのか」を感じ取って対応することの大切さを改めて突き付けられたように思います。

  • サッカーが得意でカッコいい学校のヒーロー、ジェイソンが「自分は実は女性だと思う」と家族に告白。閣僚の母とその秘書である両親は、体面を気にして「治療」することを提案。兄が大好きで尊敬している弟は、何が起きているのか理解できないまま、周囲から揶揄されいじめられて納得がいかない。

    「ずっと苦しんできてやっと勇気を出して告白したのに」ジェイソンは、そんな家族の反応に何度も深く傷つく。

    両親の反応は読んでいて腹立たしいけれど我が子が大切で、将来苦労させたくないから「普通に治ってほしい」という気持ちで益々ジェイソンを追い込んで苦しめる。この平行線が現実に起きていることなのだろう。

    弟は理解し難いが率直に疑問をぶつけたり行動するのでちょっと救いにも感じられた。

  • かっこよくて人気者でサッカーが上手でプロリーグからのスカウトも来るくらいの自慢の兄がトランスジェンダーだとカミングアウトしたら…?

    物心つくころから利用したいトイレ、欲しいおもちゃなど違和を抱えていた兄、ジェイソン。
    自分の性が見た目と違うとはっきり認識し、カミングアウトしたところから、家族は大混乱。
    認めたくない、蓋をしたい、世間体を気にする両親、兄が女であるはずはない、治るはずと信じる弟のサム。
    周囲の自分への見方が変わり、なおかつ一番の安全基地である家庭でも自分を受け入れてくれない兄ジェイソンの気持ちを思うと、切なくなった。

    昨今、LGBTQについての番組や本などを目にする機会が増えた現代の世間一般の親はどうなんだろう?
    やはり、同じような反応をする人が多いのだろうか。
    自分の友人、知人にも当事者が何人かいて、親や周囲に理解されない辛さを聞いてきたので、自分が親になる時は、性を決めつけず、フラットに(色やおもちゃ、遊びなどの好み)対応しようと決め、実際に行ってきたのだが、最初からそういう気持ちでいると、後々、そんなはずない!とか、何故、気づかなかったんだろう?というような大きなショックは起こらないように思う。
    差別や偏見は亡くなっていないから、家族は当事者のその後の人生の大変さを案じるだろう。

    でも、男性か、女性か、そのどちらでもないか。
    その人そのもの(その人自身)を丸ごと受け入れ理解したとき、それは大して重要ではないことに気づくのだろう。
    最後に家族がそれに気づいて、ジェシカ(ジェイソン)の帰る場所ができ、心から安心した。

  • すごく上手く構成されているし、物語そのものも面白いし、主人公の心もよくわかるように書かれている。
    『縞模様のパジャマの少年』と違ってハッピーエンドで後味も良い。

    現代イギリスが舞台なので、イギリス人にはお馴染みの文化をもとに書かれた部分(オアシスやABBAを好むのは年配、老人はエルトン・ジョン、主治医はコールドプレイのボーカル似、など)は日本の中学生にはイメージできないかもとは思うが、読み飛ばせる部分である。
    性差を意識するようになる中学生が、憧れの兄がトランスジェンダーであることをなかなか受け入れられないのは、日本の中学生も納得の展開。
    むしろ母が首相の座を狙う閣僚で、父がその秘書っていうのが、日本ではあり得ない設定かな。
    この夫婦は保守党で、表向きは有色人種、移民、LGBTにも寛容であるとふるまっているが、実際は息子がトランスジェンダーを告白すると何とかして「治す」ことはできないかと考える。
    しかし偽善者として告発したり、激しく突っ込んだりしないあたりは、広く読まれるよう気をつけて書いたのかなと思う。

    兄が自己自認の性は女性で、性愛の対象は女性。
    主人公はディスレクシア。
    母親は保守系の政治家で父が秘書。
    母親の妹は元ヒッピーのリベラリスト。
    近所には黒人と白人のエリート夫婦が住む。
    政変が起こって部下に裏切られる。
    部下の娘が主人公の恋人。
    かなり盛りだくさんの内容だけど、ちゃんと相互作用しながらまとまるのはさすが。

    大人からすると両親の変わりようは出来すぎという感じがするが、子どもには希望の持てる物語。

    エド・シーランの「レコード」を聴くって言葉が二回出てきたけど、これは原文もレコードなのかな?とちょっと気になった。聴いてるのは中学生。エド・シーランは今どき珍しくレコードを出しているミュージシャンなのだろうか。中学生なら配信で聴くと思うけど。

  • 最初は、なかなかジェシカの(自分は女である)ということを僕は受け入れられなかったけど、最後でジェシカが男っぽくしてお母さんが首相になれたことで、僕も受け入れられたところが感動した

  • ■2021全国課題図書高校■
    トランスジェンダーがどうこう同性愛がどうこう以前に他者と会話を成立させる気が登場する誰からも感じられなくてイライラした。
    トランスジェンダー当事者ではなく周りのカミングアウトされた人の視点で苦しみを描いたというが、終始自己中心的でそれほど葛藤しているようにも見られず、そのくせ終盤にきて突然理解がある家族に変異したような展開。
    最後の最後で良い親ぶられてもねえ…
    当事者が身を置く、周囲の差別感情から形成されるひどい環境はよく理解できた気もする。
    ただ、今の煩いポリコレ世界においてこの描写はオーバーすぎるような気もするが、身近に例のない私にはわからない。実際こういうもんなのかな。

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