ヤシガラ椀の外へ

  • NTT出版
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本棚登録 : 80
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757142138

作品紹介・あらすじ

学問で重要なのは、大学の制度や母国といった「ヤシガラ椀」の外に出ることだ-『想像の共同体』の著者が、学問とは何か、研究では何が大切かを、自らの地域研究、比較研究の軌跡と学問的制度の変遷を振り返りつつ、日本の若い読者に向けて綴る。

感想・レビュー・書評

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  • ベネディクト・アンダーソン『ヤシガラ椀の外へ』NTT出版、読了。『想像の共同体』の著者が、その地域研究の軌跡を振り返りながら、学問とは何か縦横に論じた一冊。抜群に面白い。学問で重要なのは、大学の制度や母国といった「ヤシガラ椀」の外に出ることだ。

    中国雲南省昆明市生まれのアイルランド人とは知っていたが、本書で現在までの軌跡をうかがい知り驚く。戦中はアメリカ西海岸に滞在、父を同地で亡くし、アイルランドを経て、苦労しながらイートン校、ケンブリッジ大へ進み、ひょんなきっかけでアメリカへ(同級生が政府学部の比較政治のティーチング・アシスタントをしていたのだが、その後継を探していたので、まさに「たまたま」)。

    米国ではイギリス式アクセントを、イギリスではアイルランド表現を笑われたと回想にある。アイルランド人の父とイギリス人の母、そしてヴェトナム人の保姆に育てられた著者は、常に「周辺(マージナル)」に位置してきたが、この経験が有益に働く。

    マジョリティの中でマイノリティとして“揉まれる”ことは「根っこの欠如、強固なアイデンティティの不在」だが、同時にそれは「愛情の対象が多数存在していた」ことを意味する。引き続く移動は複合的(マルティプル)なナショナリズムを育んだ。

    ケンブリッジ卒業後、コーネル大へ移り、以後、インドネシア等々地域研究の旅は空間的な「移動」の連続だが、時間軸も時代の転換期。地域研究の立ち上がりは、最後の紳士育成の教養教育時代。古典教育というアマチュア精神がスペシャリストを育む。

    インドネシアやシャムには「ヤシガラ椀の下のカエル」という諺がある。半分に割ったヤシガラをお椀として使うが、不安定な椀に間違って飛び込んだカエルは中に閉じこめられ、抜け出すことが出来ず、カエルの知る世界は狭い椀の中だけになってしまう。

    対極の主張、そして対処療法と劇薬治療も同根というが、まさに「ナショナリズムやグローバル化は私たちの視野を狭め、問題を単純化させる傾向を持つ。こうした傾向に抗う一方で、両者が持つ解放の可能性を洗練された形で融合させること」がこれまで以上に必要になる。

    著者は若い研究者の読者に次の言葉を贈り本書を締めくくる。「カエルは、解放のための闘いにおいてヤシガラ椀のほか失うべき何ものも持たない。萬国のカエル團結せよ!」。いやあ、しびれますねえ。

  • 『想像の共同体』で有名なベネディクト・アンダーソンの、いわば”回顧録”にして、アンダーソン流”学問の方法論”を綴ったエッセイ。

    ナショナリズムについて考えるゼミの参考文献として指定され、自分もそのつもりで読んだので、少し拍子抜け。
    訳者の解説によれば、日本は『想像の共同体』が広く読まれている地域のひとつであり、さらにアンダーソンとの縁も深く、日本の読者のために何か!という趣旨から生まれた企画だそう。
    そのような方向で気を取り直して読んでみると、学術書ではなく完全なるエッセイ形式なためか、すいすい読めるし面白い。

    ”回顧録”と”学問の方法論”については、その生い立ちからはじまり、なぜ自分が東南アジア地域研究に従事することになったのか、地域研究の特性はどこにあるのか、「比較」という方法、日米大学教育の今昔、学際的研究のとらえ方、などなど、話題がもりだくさんであり、ここには要約しきれない。
    アンダーソンの姿勢――それは同時に日本の読者(とくに若者)へのメッセージでもあるのだろうが――として特徴的なことは、この書の題名『ヤシガラ椀の外へ』にも表れているように、「とにかく自分の文化の外に出よ!」ということ。
    様々な文化・言語の入り混じった世界での生い立ち(リービ英雄と少し似ているなと思った)が、長い歴史と西欧の植民活動で移入された文化・言語の入り混じりからできている東南アジアに目を向けさせ、そこから自らの住む欧米世界を見直した時に生まれたのが『想像の共同体』という書物なのである。

    「どのように外に出るのか?」については、アンダーソンは非常に”言語”を重視しているように感じるし、わたしも同感である。
    もうひとつは、”比較”であり、まるまる1章を割いている。”比較”は学問の基本方法だが、題材選定・切り口・基軸など、どう比較するかに研究者の個性が表れてくるに相違はなく、その点についてもアンダーソンは多様な示唆を与えてくれる。

    そのほかも、アンダーソンの学問に対する姿勢はなかなか素敵なので、『想像の共同体』を読んでその思考の深奥に惹かれた人のみならず、学際的研究を志す人、学問や研究に従事しようという人は、ぜひ読んだら良いと思う。

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/357852

  • 想像の共同体とは異なり、アンダーソンのインドネシアのジャワでのフィールドワークの実施を前後として、自分の大学院時代及び大学に就職してからの教員時代を描いたものである。したがって、学部の学生にとってはフィールドワークを行う学生以外はあまり参考にはならないかもしれないが、大学院生で人類学でフィールドワークを専門としようと思っている院生には非常に役立つであろう。
     しかし、文章が面白くていろいろと雑学も書いてあるので、学部学生にも面白く読めるであろう。アンダーソンの専門が南アジア専門ということで、日本のことにも言及して少し書いてある。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/61750

  • 国際関係学科 渡邊あや先生 推薦!
    『想像の共同体』の作者ベネディクト・アンダーソンが日本の若手研究者に向けて執筆した、学問との向き合い方についての書籍です。

  • 最後の数十ページが良かった。。。

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