落日

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758413428

感想・レビュー・書評

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  • 真実と事実の違い。主観の入る人それぞれにとっての真実に対し、あくまで客観性に基づく事実。

    受賞して注目の若手女性映画監督の香と、同世代で伸び悩んでいる女性脚本家の真尋。2人が絡む「笹塚一家殺人事件」の映画化に向け、事実に迫ろうとする2人の主観で交互に話しが展開する中で、マスコミ報道や裁判記録とは全く異なる事実に近付いて行く様は引き込まれるものがあった。

    ラストの展開は、救いのあるもので良かった。

    最後に真尋の書き上げたプロットが出て来るが、これを読む時は、そこ迄不明だった事の判明も含め、まるで走馬灯の様に改めて物語を一気に振り返る事になる。

  • 湊作品というより辻村作品のようでした。イヤミスの湊さんもいいけど、たまにはこういう作品もいいですね。
    現実とそこに至った原因を突き止めたい映画監督と現実を受け入れられず理想のキャラクターばかり描いてしまう脚本家。正反対なこの2人の話が交互に語られ、最初から最後まで惹きつけられる展開で、終盤には伏線が繋がり、流れるようなストーリーでした。
    幼少期にベランダで塀越しに出会った子供は誰なのか、という探究心からその一家の殺人事件を映画化するという内容。情報の一部を切り取っただけの報道や噂話では真実は掴めず真実に向かうには覚悟が必要。ここら辺は白雪姫殺人事件で描かれていたものと同様の気がします。
    本筋ではないですが、脚本を書くのにフィクションであってもこんなに下調べが必要なのかーと驚きでした。
    伏線回収は気持ちよかったしめちゃくちゃ読んでよかったーっていういい作品だったんですが、湊かなえさんならではのイヤな感じも味わいたかったー。また告白のゾクゾクが欲しくなっちゃいました。

  • 落日をらくじつと読むとは知らなかった。映画の中で描かれていた日が沈むシーン。

    「そして、いつか、わたしの描いた景色で、次の世界に行くことができる人が、それを希望と感じる人が、一人でも多く現れてくれればいい。
    そうなればわたしは、この世に自分が存在していることに、誇りを持つことができそうだ。
    映画を撮ろう。撮り続けようー。」

    長谷部香 監督の最後の言葉で話が終わる。

    脚本家 甲斐真尋(まひろ)と新進気鋭の映画監督 長谷部香が交互に紡ぐ物語だ。甲斐真尋の姉 甲斐千穂と立石力輝斗(りきと)との出会い、長谷部香との繋がり。様々な伏線の中から、繋がりが次のドラマを生み、笹塚町一家殺害事件の真実、フィクションで描かれる予定の物語の全容が分かってくる。

    物語の登場人物、一人一人に乗り越えていかないといけない過去がある。それは、真尋であれば姉、香であれば、父の自死と同級生の自殺だろう。

    低空飛行で読み続けたが、最後に一筋の希望を見出せるお話だった。
     

  • 面白かった。ストリーは母に罰としてベランダに出された女の子が隣に住む子供であろう誰かと手だけで会話する場面から始まったがそれだけで、どんなストリー展開になるんだろうとワクワク。あらすじはそのベランダで手の会話をした女友達が兄に殺された。成長し世界的に有名になった映画監督がその事件を映画化しようと調べていくうちに被害者の別の顔、公になっていない事件の真実がわかるというストリー。何の繋がりもないような登場人物達が実は幼少か思春期時代に何らかの接点を持ち複雑に交差しラストに全部繋がった時はそうか~と思った。

  • 湊かなえさんの小説をひさびさに。
    チカチカと何かがあるという感じがしていた。
    明るい希望ではなく、薄暗い何かが横たわっている感じもしていた。
    何かのひっかかりが文字を先へと進めた。

    最後の畳み方に湊かなえさんの魅力を感じた。
    でも、最後すぎたかな。
    もう少し前の方から畳み込んでくれた方がより面白く感じた気がする。
    一気に鮮やかに畳み過ぎていることが残念でした。

  • 少し中弛みと言うか谷間がある。
    後半は面白いんだけど、深みのある構成ながら、少し読み続ける事に抵抗を感じる。

    以下、ネタバレ。

    長谷部香は下山兼人の遺書に苦しめられていたが、彼の自殺の原因をつくったのは、彼の母。それを受け入れられないと思った彼の姉が、遺書を捏造した結果、彼女が自殺の原因とされていた。

    甲斐真尋(脚本家名 千尋)の姉、甲斐千穂は既に亡くなっている。

    長谷部香と防火扉を挟んで、励まし合っていたのは立石沙良ではなく、立石力輝斗。
    力輝斗は虐待を受けていた。

    千穂と力輝斗は、恋人関係にあった。
    千穂が事故に遭う原因をつくったのは沙良。

    香の父、裕貴は自殺で亡くなったとされていたが、実際は事故で亡くなっている。

    • すりっぱさん
      ちょっと混乱してたので助かりました!
      とても分かりやすかったです!!
      ちょっと混乱してたので助かりました!
      とても分かりやすかったです!!
      2021/12/27
  • 脚本家の千尋が映画監督の長谷部香から新作を
    撮りたいと相談を持ち掛けるられる。
    千尋の故郷でもある「笹塚町一家殺人事件」を課題として
    取材を始める。
    脚本家と監督との視点を元にして
    二人の今までの過去が交錯しながら
    二人の心の闇の再生と事件の真相が解明されていく内容。

    湊さんの作品というとイヤミスですが、
    この作品もそうなのかと思い何処か期待を
    しながら読んでいましたが、
    そんな事もなくラストはすっきりとして珍しく明るい未来を
    感じさせられました。

    いじめやネグレクト、虐待などといつも暗くて
    嫌な題材が入ってきますが、
    今回はそれ程グロテスクな表現が少なかったので
    読み進めやすかったです。

    前半はそれそれの過去の伏線や点が沢山散りばめられていて、
    これからいったいどんな展開になるのだろうと
    後半のギリギリになるまで気が付かなかったですが、
    ちょっとした言葉がヒントになり
    真相が明らかになってすっきりとしました。

    それにしても少し二人の育った環境が似たようだったので、
    登場人物が似通った人が多かったので思わず相関図を
    かきとめながら読んでいました。

    この作品の表紙の写真のように
    ヒントなるような物が描かれているので
    これでかなり物語を読み進めていくのも重要になるので
    面白いかと思います。

    お互いが過去を探ることから、
    自分の人生への償いをしているかのようにも思えて、
    今までの湊さんの作品とは少し風合いが違ったようにも
    感じられるミステリーで読み応えがあり楽しめました。

  • 久しぶりの湊かなえ
    イヤミスの女王らしく、過去の作品同様の悶々としたストーリ展開で、徐々に色々な背景と登場人物の繋がりが見えてきます。
    そして、ゆっくりと謎が解き明かされて行きます。最後は一気に謎が解けますが、いつもの良い意味での後味の悪さでは無く救いのある結末で、湊かなえには珍しい後味の良い作品でした。

  • 湊さんの最新作。ファンとしてはどうしてもあのゾクゾクするイヤミスを期待してしまう。

    今作はその系統ではなかった。イヤミス要素はあるものの、全体を通して平坦な物語に感じられた。言い換えれば物足りなさを感じた。真実が語られる時も、じわりじわり明かされる印象。ズドーン!と言う衝撃はなかった。

    ピアノの才能を持って生まれた姉と比較され、自分を卑下する主人公の千尋。笹塚町一家殺人事件で妹を刺殺し、家に放火して両親をも死に至らしめた引きこもりの力輝斗。幼少期に住んでいた町で起こった事件を映画化する新進気鋭の鋭意が監督香。誰もが物語を持っている。

    哀しい物語だが、明けない夜はないのだ。

  • 2人の女性の視点から物語は進んでいく。
    同じ町出身の2人ではあっても接点はないはずが、思いがけず繋がっていた・・・
    後半までは、あまりのめり込めなかったのがラストに近づいていくにつれ一気に引き込まれていきました。
    謎だと思った部分も途中ですぐにわかった部分もあれば最後まで思いもよらなかった事もあり。
    辛く悲しいストーリーである半面、ラストは希望を感じさせた。湊さんの作品はこれからも読んでいきたい。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

湊かなえの作品

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