- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784758431026
感想・レビュー・書評
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上質なレースに包まれた向こう側を見ているようだった。幸福と共に感じる強烈な孤独とはこういうものか。
美しく静かな絶望の描かれ方が凄い。
なぜこの人なのだろう。などという短絡的な言葉ではかたづけられない主人公「私」の心情。
ストーリーに織り込まれる幼少期の回想で、「私」は閉じた自分と向き合うことになる。美しい文章で紡がれる数々の記憶がきらきらもするし、残酷にもうつる。この独特の空気感が、ざ江國さんだと思った。
最後は、仕方ないにも、あきらめにも似た、これくらいがいいかもしれない、という着地。
自己を満足させるには傷を負うこともあると、タイトルの意味にも感じられて痛い。
一冊まるごと心の葛藤(心模様)こういうのが結構好きだと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ホテルの静かな部屋で1人読むものではないな、と反省した。
あまりに途方もない絶望の物語だから、明るいところで読まなくちゃ。
冬より夏、夜より昼。カラッとした天気の日に読むべきもの。
読んでいるうちはいい。読み終わったとき。物語の魔法が解けて、現実が帰ってきたとき。自分に忍び寄る絶望にゾッとして、でもそれは間違いなく自分が呼びつけた者なのに。
孤独という名の絶望なしには生きられない。それは不幸なのかもしれないけど、でもホッとする。ああ帰ってきた、といつも思う。結局ここが自分の居場所なのだ。
たっぷりたっぷり愛情を注がれて育ってきて、今だってそうなのに。どうして私は孤独ぶりたがる?何を格好つけているんだろう。
遅くかかった麻疹は重い。いい加減に現実を見て、地に足つけて生きていく人生を受け入れたいのに。-
2020/07/05
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恋愛の最高地点じゃん。と思ってしまった。ああ、書き手は女だなとも。好き。
二人だけの狭い世界に生きる、希望と不安を「今」「記憶」「絶望」から描いてる。
「私の恋人は優しいが、優しければ優しいほど、私は自分が架空の存在であるような、彼の産物であるような気がする。」
自分の孤独が絶望になり、その絶望を遠ざけるためにどう抗うか。恋人という存在が鍵になるのだけど、存在が大きいからこそ、自分から切り離したくなる矛盾した気持ち。自由の代償みたいにまたやってくる絶望。人間ってよわいねえって思う。よわいから、出来るだけ暇をなくさないといけないかも、とちょっと余計なことも考えた。
愛情の話ではない、恋愛の話。 -
子どもの頃の甘い記憶と、紅茶に添えられた角砂糖にたとえられた、38歳の中年女の甘やかされた生活。
まるで詩のように、交互に、ぽつぽつと語られている。
ときどき江國さんの言葉たちに閉じ込められたくなる。
「すみれの花の砂糖づけ」にどこか似ている。 -
大好きで何回も読み返してしまいます。
自分も恋人も、一度も名前を明かさないまま話が進んでいくところが、奇妙な美しさがあり好きです。
「わたしははじめて、恋人が絶望に似ていることに気づいた。」 -
私とその恋人(妻子がある)
冒頭に出てくる「絶望とは死に至る病だ」キルケゴールの言葉の引用が、読みながらずうっとついてきてた
マジョルカ島への移住が二人の「将来」で「そんな毎日ならみちたりてしまうな」と話す恋人に対して「わたし」は、「それならなぜそうしないのか、みちたりてしまわないのか、わからなかった」
二人の時間が進んでいくにつれ、私だけが閉じ込められている、と感じて追い詰められていく、絶望。
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江國香織さんの作品は、あれも好きこれも好き、と言ってしまいますが、この本を読むとやっぱりこれが一番だと思ってしまいます。
恋人との甘く閉じられた時間と、絶望が隣にいる時間。
緩慢に訪れる死に、わたしもこんな終わり方がしたいと憧れてしまいます。
緩やかに壊れていく、それは甘美です。
わたしたちはみんな、一匹ずつべつべつの、孤独な、けもの。
また絶望的な幻想のなかに、生きていきます。
ちょうど聴いていた歌が、すっと落ちてきました。
「もう終わろう 欲張りすぎたの あなただけ 信じて どうしようもない」
「見届ける 最後まで 遠くまで 遥かまで どうか 逃げて」 -
誰かを何処かに閉じ込めるなら、そこが世界の全てだと思わせてやらなければならない。
このワンフレーズが印象に残りました。 -
盲目的で激しい感情のはずなのに、静やかで繊細でひっそりした語りが非常に魅力的でした。
シロップ漬けの瓶の中にどんどん沈んでいき、やがて甘さにむしばまれて心も体も少しずつ溶かされて失われていくような、甘くてうっとり、そして狂おしい中毒性の強い作品で、むしばまれていくと分かっていても甘さを求め続け自らを滅ぼしてしまう苦しみに非常に共感しました。
また、幼少期の記憶がこんなに自分と重なるお話は初めてで、ずっとモヤモヤと心にあったあのときの、そして今も残る孤独や憂鬱をそのまま描き表されているかのようでした。
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江國さんの小説ってすごく不健康で好きです。