おやすみ、東京 (ハルキ文庫 よ 10-2)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 2715
感想 : 150
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758442916

感想・レビュー・書評

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  • 少し前の本だがランキングに入っていたのを見て買ってきた。
    午前1時の東京を描いた物語。
    もう随分と昔、飲み屋を除けば9時には真っ暗になる北陸の田舎町から東京に転勤になって、12時になっても明々とスーパーが開いてるのを見た時には結構なカルチャーショックだった。
    午前1時であっても東京では起きて動いている人はたくさんいるわな。

    映画の小道具の〈調達屋〉ミツキ、夜だけ走るタクシーの運転手・松井、よろず相談室のオペレーター・可奈子、使わなくなった電話を回収して回る・モリイズミ、引越し魔の探偵・シュロ、四つ角で食堂を営む4人の女性、元バーテンの倉庫番・前田、オーディションで選ばれ映画の撮影に向けたワークショップ中の11人、下北沢の古道具屋・イバラギ、街はずれの映画館のアルバイトの青年…。
    この作者さん、お得意の多くの登場人物が縦横につながる趣向だが、本作はあとがきにあるように、その頭の中にあるいくつもの個性的な人々の物語の存在を思わせ、その断片が街角で交わっていくようなところが面白い。
    そこにミツキが調達しなければならない小道具にまつわる話やそれぞれが心に抱く会いたい人への思い入れなどが散りばめられて様々な色合いの話が楽しめた。
    中でも、電話を引き取りに行ったモリイズミが不穏な会話にゾッとする「ベランダの蝙蝠」、食堂の4人の一人アヤノがイバラギと夢の中にいるようなやり取りをする「青い階段」、すべてが穏やかに収束していく「最後のひとかけら」が好きかな。

    • 傍らに珈琲を。さん
      ニセ人事課長さん、こんばんは!

      吉田さん大好きです。
      しかもこの本、今、部屋のすぐそこに積ん読本として積み上がってます。
      読了までレビュー...
      ニセ人事課長さん、こんばんは!

      吉田さん大好きです。
      しかもこの本、今、部屋のすぐそこに積ん読本として積み上がってます。
      読了までレビューを拝見するのは我慢しておこうかな?と思ったのですが、読んでしまいました 笑
      早く読みたいなーって気持ちが強まりました。
      読むのが楽しみです♪
      2023/07/09
    • ニセ人事課長さん
      傍らに珈琲を。さん

      吉田さん、話の作りや語り口、雰囲気が良いですよね。
      未読のところにうだうだ書いてしまっていて恐縮ですが、私のレビ...
      傍らに珈琲を。さん

      吉田さん、話の作りや語り口、雰囲気が良いですよね。
      未読のところにうだうだ書いてしまっていて恐縮ですが、私のレビューなどから想像される以上に面白味を感じられると思うので、早く読まれると良いと思います。
      2023/07/09
  • 真夜中の東京。午前1時に始まる12の連作短編、のような長編。
    たくさんの人たちが出てきます。
    それぞれがみんなささやかな物語を持っていて、面白いほどするすると繋がりをみせ、夜の街を彩っていきます。
    何だかメルヘンチックな大人の世界。
    吉田さん特有の言い回しと、この優しい空気感が大好きです。
    めぐり逢いやすれ違いを繰り返して、運命の人に出会える喜び。
    たくさんの人たちが絡み合ったこの物語を読んでいると、まるで夢の中にいるようで、とても居心地が良かったです。
    私も、食堂〈よつかど〉でハムエッグ定食を食べ、バー〈M〉でコークハイを飲んでみたいです。

  • 久しぶりに吉田作品へと帰ってきた。
    クラフトエヴィング商會の装丁も大好き。
    目次から楽しめる。
    (途中にキーパッドの数字並びがあるのは何故なんだろう…)
    表紙を眺め、開き、目次を捲り、本編に入る頃にはもう、読者は深夜の気分になっているから不思議だ。
    目次のあちこちに居るカラスも、作品内に登場する。(こちらはちょっぴり怖い)

    やっぱり吉田ワールドに登場するネーミングが好きだ。
    "調達屋"であるミツキや、松井のタクシー"ブラックバード"、片時町にある"食堂よつかど"…。
    (そうか、ブラックバードの松井さんを呼ぶ時に電話をかける。だから目次にキーパッドの数字並びが忍ばせてあったんだね)と、20ページ辺りで気付く。
    やっぱり隅から隅まで楽しい作品だ。

    「びわ泥棒よ」
    吉田さんの手にかかると、何でもない一言がこんなに魅力的に響くのは何故だろう。
    他に沢山の心惹かれるフレーズが。
    「…「言葉が重なる」という現象がたびたび起こる」であるとか、
    「この街の人々は、自分たちが思っているより、はるかにさまざまなところ、さまざまな場面で誰かとすれ違っている」であるとか、
    「コーラって、あんなに黒い飲み物だったかしらね」であるとか、
    「何らかの目的にしたがってつくられたものーーとりわけ人間がつくる「道具」と呼ばれるものはあらかたそうなのだがーーそうしたものは壊れたときに、ようやく人間に従事することから解放されて、はじめて自由になる」であるとか。
    最後の文章は古道具屋イバラギの持論なのだけど、便利を求めすぎた人間(勿論、私も含めてだが)への細やかな抵抗のように思われて、何故か気分が良くなった。
    そんな彼の店の"客は減りゆく一方"らしい。
    だが、なんといってもピーナッツ・クラッシャー大、中、小。(いや、ただのラジオペンチ)
    そして小さな奇跡が起こる、"羽の降る夜"。
    なんだそれ?と思われた方は是非本作を手に取ってみて下さいませ。

    それから、"夜"や"映画館"などの、吉田さんのいつものキーワードも登場する。
    いつもといえば、今回の食に関するキーワードは"ハムエッグ定食"と"コークハイ"だ。
    キーワードというよりアイテムと言った方が、自分の中ではしっくりくる。
    吉田さんが持つ幾つものアイテムの数々。
    その中の幾つかが、いつも作中に登場する。
    それがまた何故か、とても魅力的で心に染み込む。
    私は自分の中に染み込んでくる、その感覚がとても好きだ。
    だから定期的に吉田作品に帰ってきてしまうんだ。

    魅惑の吉田アイテムの他に、今回はキーパーソンが。
    名探偵シュロことマイティ田代!
    マイティ田代って…笑
    こちらも、なんだそれ?と思われた方は是非本作を手に取ってみて下さいませ。

    都会の夜に起こる、少し不思議だけど有りそうなお話。
    懐かしいAがすぐ近くを通る。あの時○○していれば、Aに会えたかもしれない。
    けれどひょんな事から、"あの時"を逃してしまう。
    かけようとしていた電話を切ってしまう。
    帰ってしまう。
    道を間違えてしまう。
    たまたま職場を休んでいる。
    無論本人達は、"あの時"を逃していることに少しも気付いていない。
    ここで二人が出会えたらいいのに…ブラックバードに乗ればいいのに…そう思う読者をよそに、物語はすれ違う。

    又は、イバラギとアヤノの会話。
    同じ"夢"という単語を使って会話するが、彼と彼女の"夢"は、意味するところが違う。
    話しは食い違っているはずだ。
    それなのに絶妙に会話が噛み合って…。
    「あっちを向いた人とこっちを向いた人が出会うと、二人のあいだにはちょうどいい均衡が生まれる。必ずしも同じ方を向いていなくてもいいのである。」
    イバラギの"夢"が、もうひとズレするのもクスリとするところ。
    イバラギの営む古道具屋は、クラフトエヴィング商會の『ないもの、あります』みたいな不思議な店だ。
    〈二階まであと一段〉を購入したアヤノにも、小さな奇跡が。
    なんだそれ?と思われた方は………もういっか。

    「びわ泥棒よ」の、何でもない一言が魅力的だと伝えたが、終盤、そのびわ泥棒についても素敵な出来事が。
    ジグソーパズルの最後の一片、踏み出すための最後の一段、人はその最後の1つを求める一方で、チラリと"このまま、ここにいたい気もする"と思ってしまったりもする。
    でも踏み出せばホラ、ささやかだけどこんなに素敵な出来事が待っていたりする。
    すれ違っていた誰かと、出会えたりもする。
    そうそう、然り気無く夜空の星達も見えたり見えなかったりと、いい演出をしてくれている。


    あとがきにある、"連作短篇の交差点"という呼び名はぴったり。
    吉田さんの頭の中をほんの少し覗けるような楽しいあとがきだった。(いつもだけど)

  • 東京の午前1時から始まる物語。私には睡眠中の時間ですがそんな時間に活動している人々が、少しずつ偶然の重なりがある不思議な話です。午前1時から日が昇るまでそれほど長くない時間ですが、時がゆっくり流れる温かさを感じました。ハムエッグが食べたくなりました。

  • "眠らない街"東京。
    そんな真夜中の東京で、今夜も人と人とが緩やかに繋がり…かと思うと思わぬ場面ですれ違い、また繋がっていく。
    人と人との不思議な縁を感じずにはいられない連作短編集。

    映画会社の調達屋・ミツキ、夜専門のタクシー会社〈ブラックバード〉のドライバー・松井、〈東京03相談室〉のオペレーター・可奈子、使わなくなった電話の回収屋・モリイズミ、深夜営業の食堂〈よつかど〉…。
    寝静まった真夜中に静かに繋がる人・人・人…。
    連作が進むにつれ次々に増えていく登場人物…一体何人の登場人物が出てくるのか、わくわくしてくる。
    そんなみんなが少しずつ繋がり、やがて大きな輪になっていく連鎖がとても心地よい。
    吉田さんの創る緩やかで優しい人の連鎖はいつも心穏やかにさせてくれる。
    今日も明日も明後日も、東京にいつもの夜がやって来る。
    独りでいる淋しさも、みんなといる心地よさにいつしか変わっていく。
    大人の夜の愉しみをのぞき見した気持ちになれた。

  • 東京は午前1時
    それぞれに少し切ない背景を持つ人心優しいたちが袖すり合って始まる、都会の夜の静かで温かな連作短編集。
    図書館で借りて読んだけど、手元に置いて何度も読みたい本なのであらためて購入予定。
    『びわ泥棒』とか『月光増幅機』とか、クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘らしさがちらほら出ているのも良い。

  • 深夜の東京を走るタクシー運転手と乗客たちの連作短編集。昼間とは違う、ひっそりと活動的な空気に浸った。
    ささやかな縁が巡り巡って探している何かを見つけるきっかけになったりする、なんて素敵だ。
    知らないうちに誰もがそんな繋がりの一部になっているのかもしれないと思うと、なんだか楽しくなる。

  • 吉田篤弘さんの本を初めて読んだ。少し前に本書の外国語訳が出版されたというニュースをたまたま見たことがきっかけで興味を持って手にした本。深夜の東京を舞台にした本で、ご本人があとがきに書かれていたが、「一冊で、十冊分の連作短篇集を楽しめる、という趣向」の本。その言葉通り、さまざまな登場人物の視点が出てくるが、これまで読んだ連作短篇では章ごとに語り手が変わる形式ばかりだったのに対し、本書は一つの章の中でも複数の語り手にスイッチするため、その点もかなり新鮮だった。東京の深夜に活動する人たちのお話で、その設定自体も少し幻想的なイメージだが、それぞれの登場人物が不思議な感じを与える人たちだった。その人たちが話の中ゆるやかにきれいに交差していく様子を読みながら、きっと実力のある作家さんなんだろうなと感じた。

  • 真夜中の東京で静かに活動する人たちの連作短編集。「パズルの最後の1ピースが足りない」気がして、フラフラと深夜の街を彷徨いたくなる感覚に吸い込まれていく。半分眠たげなテンションだけど、寝付けなくて、何かしらモノ、人を求めるボンヤリした感覚である。

    夜道をあてもなく彷徨い歩いた先で、素敵な古道具屋、食堂、タクシー、相談所に出会うのもワクワクするもの。

    青山美智子さんの連作短編集とは異なり、作品中に超常現象は無く、とても現実的な話だが、ホッコリさせられる。

    深夜疲れて帰宅し、眠る前にベッドで一章ずつ読んで、心身リラックスすることができた。

  • 東京の午前1時。
    とても穏やかに、ちょっとずつ人と人が繋がっていく。

    「この街の人々は、自分たちが思っているより、はるかにさまざまなところ、さまざまな場面で誰かとすれ違っている。」

    改めて、「出会い」って面白いなぁと思った。


    「いつだって、何とかなったじゃないですか。」

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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