誰よりも、うまく書く:心をつかむプロの文章術

  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766427745

作品紹介・あらすじ

▼アメリカで30年以上読み継がれ、類型150万部の売上をほこる不朽の名著、待望の邦訳!
▼高校や大学で初めて文章を書く若者たちへ。
▼自分の言葉で書くことを忘れた大人たちへ。

大切なのは、明晰さ、簡潔さ、そして何よりも「自分らしさ humanity」――。
30年以上にわたって読み継がれるノンフィクション・ライティングの最高峰、初邦訳。

「自分らしくあれ」という人間味溢れるジンサーの哲学は、プロ・アマ問わずインスパイアされる人が多く、初心に戻してくれる座右の書として愛読され続けている。

「よい文章とは何か?」「どうやったら上手く書けるのか?」といった普遍的なテーマを軸に、ユーモアを織り交ぜながら「自分らしさ」を追及していく形式は、英語だけでなく日本語で書く際にも有益な助言に溢れている。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    私も物書きの端くれとして、誰よりも上手く書きたい。しかし、文体やリズムはどうやって鍛えればいいのか?ユーモアや着眼点はそもそも鍛えられるものなのか?自分では「心地よい文章」と思っていても、読者にとっては独りよがりの雑音に聞こえやしないか?
    心配し始めると、果たして「うまく書く」にはどうすればいいのかと囚われてしまうが、本書はそうした「書くことへの恐れ」を丁寧にほぐし、「ゴールを想定した書きかた」を読者に伝授していく。筆者のウィリアム・ジンサーはジャーナリストであり、創作物のジャンルの広さは小説家や学者以上だ。ニュース記事から短編の連載、雑誌のコラム、長編ノンフィクションなど、手がけてきたテーマは多種多様で、まさに「ジャンルを問わず何かを書く」ということを生業にしてきたプロである。

    では、「上手く書く」とはどういうことか?端的に言えば、「簡潔に書く」ことである。明快で、シンプルで、堅苦しくなく、かつ能動受動をはっきりと。不要な形容詞や副詞などは排除し、俗語や専門用語はなるべく少なくする。ビジネス用語や官僚用語などの曖昧な表現は避け、文章に人間味を出す。「読み手が理解しやすいように」努めるのが「上手い文章」の基本ということだ。

    これらは多くの文章読本にもある基本的な作文テクニックだが、一方で、他のハウツー本にはないユニークな点は、書くシチュエーションを多数想定していることだろう。インタビュー形式、旅行記、回想録、スポーツなど、色々なジャンルを書く際の素材の集め方や、書くにあたってのアイデアをここまで細かく披露している本は他に例を見ない。

    これも「ジャーナリスト」という性質が成し得る技だ。職業上自分が好きなジャンルばかりを選んでいられないため、未知の分野にも手をつける必要があるからだ。

    「そんなにたくさんのジャンルに興味を持てるか?」と問われたら、「上手くなりたきゃ持つしかない」と、筆者は答えるはずだ。うまく書くには楽しく書かねばならない。ワクワクしながら書けば、自然と筆が乗り、情熱が生まれ、読み手を没頭させていく。大切なのは自分が楽しみながら筆を取れるかであり、そうして完成した下書きが独りよがりにならないよう、本書で紹介された正しい言葉や明確な語法を使って校正を重ねていく。

    ――私はできるかぎりうまく書きたいと思う一方で、できるだけ人を楽しませるものを書きたいと思っていた。作家志望の人々に、自分をなかばエンターテイナーみたいなものだと考えたほうがいいと言うと、そんな言葉は聞きたくなかったという顔をする。カーニヴァルや曲芸師、道化師などを連想するのだろう。だが、成功するためには、ほかの誰の作品よりも面白くすることによって、雑誌や新聞から読者の目に飛びこんでいくような作品を書かなければならない。自分の創作行為をエンターテインメントまで高める必要がある。たいていの場合、それは読者に愉快な驚きを与えることを意味する。その仕事をしてくれる道具には事欠かない。ユーモア、こぼれ話、逆説、思いがけない引用、力強い事実、風変わりな細部、遠まわりのアプローチ、言葉の優美な配列などだ。むしろ、そうした一見遊びのように見えるものが作家の「文体」になるのだ。私たちが誰それの文体が好きだと言うときは、紙のうえに表現されるその作家の個性を気に入っているという意味なのである。もし旅の道連れに、ふたりのうちひとりを選べと言われたら――そして旅に誘っているのが作家だとしたら私たちは普通、楽しい旅路にしようと努めてくれるほうを選ぶだろう。
    ――――――――――――――――――――――――――
    以上がおおまかな内容だが、一点、本書には欠点(しかもかなり致命的)がある。それは本書が英語を翻訳した本であることだ。それゆえ前半の「言い回し」や「統一性」といった文法の部分は、日本語では理解が難しい。翻訳本ゆえの宿命であるが、やはりこの欠点は致命的であり、英語圏以外の読者にはハードルが高くなってしまう。内容が面白いだけに非常に残念だ。
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    【まとめ】
    1 技法
    優れた創作の秘訣は、すべての文章を最も簡潔な構成要素までそぎ落とすことにある。機能しない言葉、短い単語に換えられる長い単語、動詞にすでに意味が含まれている形容詞、読者がいったいこれは誰の言葉だろうとまごついてしまう受動態の構文など、たくさんの不要物が文章の力を弱めている。しかもそれが、教育水準や階級が上がれば上がるほど数が増えていく。

    ・いい語法とは、相手に自分を明瞭かつ簡潔に表現できるいい言葉で成り立つものである。
    ・あなたは、あなたのために書いている。読者の様子を頭に思い描いてはならない。
    ・読者は、あなたが思う以上に文章をリズムで読んでいる。声に出して推敲してみる。
    ・書き始める前に基本的な疑問をみずからに問う必要がある。たとえば、「自分はどんな立場で読者に語りかけようとしているのか?」(報道記者としてか?情報提供者としてか?平均的な人間としてか?)、「どんな代名詞と時制を使おうとしているのか?」(無個性な報告調か?個性的だが堅苦しいものか?個性的でくだけたものか?)、「題材に対してどんな態度で向き合おうとしているのか?」(深くかかわるのか?距離を置くのか?断定的?皮肉っぽく?楽しみながら?)、「どれくらいの範囲を対象にしたいのか?」「どこを強調したいのか?」
    大切なことは、これらを文章の中で統一することだ。書き方をあちこち変えず、雰囲気も文体も最初から最後まで一貫したものにするのがよい。
    ・受動態は避け、なるべく能動態を使う
    ・動詞と似た意味を伴う副詞は避ける(きつく歯を食いしばる)
    ・よく知られた目的語を修飾する形容詞は避ける(切り立った断崖)
    いずれも、必要な仕事だけをさせるよう努める。
    ・非人性名詞だけで文を組み立てない。読者は曖昧な概念を視覚化できない。人を存在させるか、動詞を働かせること。


    2 いろいろな形式での書き方
    ・インタビュー…人に話をさせる。どんなに退屈なテーマであっても、人間的な要素を探していけば必ず面白いものになる。
    ・旅行記…感動的な風景であっても、よく知られた属性は書かないようにする。「眼を見張る風景」は観光地ならどこでもそうだし、「岩が散らばった海岸」は、だいたいどの海岸にも岩が散らばっている。他と違う特性を見極めること。
    ・回想録…焦点を絞り、細部に光を当てる。自分自身を見つめ直し、恥ずかしがらずに披露する。
    ・科学とテクノロジー…プロセスを描写する。書くためにはまず、それがどう働くのかをきちんと把握しなくてはならない。次に、そのプロセスの理解を導いた発想と推論を同じ順番で読者にたどらせる必要がある。
    また、人間を構成要素とする。科学に携わる人々が発見したこと、研究したこと、驚いたことを書けば、ぐっと読者を惹きつける。
    ・ビジネス…特殊用語を使わない。能動態動詞を使い、概念名詞を避ける。大切なのは明解で、シンプルで、簡潔で、人間味のある文章。簡単な言葉は単純な思考を反映するものではない。
    ・ユーモア…ユーモアは真剣な仕事の副産物であって、それ以外ではない。ユーモア作家になるためには、「率直な」良い文章を書く技巧をマスターすること。次に、滑稽なものを探そうとしないこと、それにありきたりに見えるものを馬鹿にしないこと。それが真実であるとわかっていることのなかに愉快なものを見つけられれば、多くの人の心を揺さぶることができる。最後に、笑わせようと力まないこと。ユーモアは驚きという土台のうえに築かれる。


    3 心構え
    ・あなたの値打ちは、あなたの声にある。テーマによって声を変えようとしてはいけない。
    ・まずは軽い文体を目指す。軽い文体とは、面白くしようと意気込んでちゃらついた文体にするのではなく、堅苦しくないように努めた文体だ。
    ・常套句を排除する
    ・楽しんで書く。作者のいい気分が読者に伝わるよう、エネルギーをまとって創作する。知ることが楽しいと思えるテーマを書けば、その楽しさは書いたもののなかに表れるはず。
    ・未知のテーマを恐れない。
    ・書き出しは刺激的な発想を交えて読者の心をつかみ、それを決して離さないようにしながら、少しずつ情報を加えてひとつの段落から次の段落に進む。
    ・つねに「この情報は主題に沿っているのか?」を意識する。
    ・誰よりもうまく書きたかったら、誰よりもうまく書きたいと思うこと。

    結局のところ、作家が目指すのは自分自身の目標でなければならない。あなたの作品はあなたのものであり、ほかの誰のものでもない。自分の才能をできるかぎり伸ばし、身を挺してそれを守らなければならない。その力をどこまで伸ばせるかを知っているのはあなただけであって、編集者は知らない。
    うまく書くということは、自分の創作を信じることであり、自分自身を信じることだ。リスクを恐れず、あえて人と違うやり方をして、一頭地を抜く存在にならなければならない。あなたが書くものは、あなたが自分に書かせるもの以上に良くなることはないのだから。

  • 米国で古典的ノンフィクションライティングの指南書ということである。無駄に修飾する形容詞や副詞、曖昧な表現の排除とか能動表現の使用といった、前半は英語の文章に対する指摘がありますが、根本的には日本語にも共通する簡潔に、というメッセージが読み取れる。

    冗長で、しかも小難しい鼻持ちならない気取った表現なんてものは、不必要なのだ。
    これは理解したつもりでも、自分の文章に自信がないからだろうどこかでみたような表現を借りてきて補完してその自信なさを隠してしまおうという浅ましさはあるあるですよね。

    ノンフィクション作家としての心得でもあり、私的な回顧録なんかにも通ずるのは、自分の言葉・自分が良いと思うことを素直に表現すること、かつ有体なことではなく微に入り細を穿つような個人的な体験を披露することが良い作品となる条件なのだ。他人に迎合するような文章は退屈に感じられるし、逆に共感を起こさない。

    第Ⅳ部の心構えの章で、作家とは大胆さと活力と陽気さが必要だ、たとえ良い気分ではなかったとしてもというコメントがあるが、これはその他仕事や人生にも応用すべき信条。つまりは、自分で自分を奮い立たせて向き合わなければ、決して良いものは生まれないし他人に興味を持ってもらえるものとはなり得ない。自分のストーリーを披露するのだから、そこに魅力的な感触がないとそりゃそうだよね。自戒自戒。

    後は、一般的で広く大衆に広まっていることの二番煎じをつらつら述べるのではなく、対象となるテーマで実際に当事者と関わっている人へのインタビュー、本音なんかを拾いにいく、そんな気概も大切なのだ。その中でも、話題を広げすぎずに要所だけを的確に簡潔に魅力的に。

    物書きではありませんが、相当な懊悩と挫折と後悔と孤独などなど精神的にまいってしまう職業なのではないかなと、そんなリスペクトを胸に抱きます。

  • 眠くて頭に入ってこない文章だったが、訳者後書きから本書へ好印象を覚えたので、頑張って読み進めた。内容自体は面白かった。英語を訳している影響か、名文として紹介されている文章も頭に入ってこなかったが、二、三度読み、噛み砕けばとても面白かった。ノンフィクションの書き方として、かなり参考になった

  • 2015年に92歳で没したジャーナリストでノンフィクション作家のウィリアム・ジンサーが、多様なテーマに合わせたノンフィクションの書き方を事細かに記した本。

    英語の単語や文法に基づいているため、すべてのテクニックを流用できるわけではない。ただ、少なくとも基本的な部分は英語も日本語も共通である。ウィリアム・ジンサーの4つの信条「明解さ、シンプル、簡潔さ、人間味」は、今まで読んだ文章のためのハウツー本全てに共通して書かれていた。覚えておきたいポイントだ。

    他にも文章を書くにあたって覚えておきたいことが幾つかあったのでメモしておく。

    ・文章は模倣から学ぶ
    ・自分を喜んで取り組めば、読ませるに値する読者なら楽しんでくれるはず
    ・何度も推敲して余計なものを削ぎ落とす

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著者プロフィール

1922年、ニューヨーク生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家、大学講師。1946年、新聞記者としてニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙でキャリアをスタートし、以降、80歳代後半まで計19冊の著作と記事、コラムの執筆に携わったのち、2015年5月に死去。音楽、野球、旅など多岐にわたるテーマの作品を著し、なかでもノンフィクション創作の心得を教授する本書はロングセラーとなって、三世代にわたる作家や記者、編集者、教師、学生に座右の書として愛読されている。1970年代にはイェール大学で創作講座を受け持ち、講座からは数多くの著名作家、ジャーナリストが輩出した。本書のほかにThe Writer Who Stayed, Writing Places, Easy to Remember(『イージー・トゥ・リメンバー』関根光宏訳、国書刊行会、2014年)などがある。

「2021年 『誰よりも、うまく書く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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