呼吸器の子

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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768435557

感想・レビュー・書評

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  • 敬愛する松永先生の『いのちは輝く』の中で触れられていた本書を読んでみた。
    相変わらず松永先生の深い洞察と、子どもへの深い愛には感服させられる。相手が大人であれ子どもであれ、徹底して人として相手に敬意を払うその心根に心を打たれる。やはり医師である前に、支援者として、人としてとても信頼できる温かい人物なのだ。

    また本書に登場する特別支援学校の先生方や理学療法士の、本児やそのご家族に対する姿勢や考え方にも、対人援助に携わる者として、とても共鳴させられるし、また改めてやはりこうでなければ、と強く認識させられる。支援者として、その方法がなんにせよ、相手がどんな人物にせよ、その基礎となる姿勢は変わらないということを、改めて感じた。

    支援とは何か。その根源とも言えることをこの本は教えてくれる。支援者の自己満足になってはいないか。よかれと思って行うことが、本当にその本人にとってよいことなのか。その本人にとってよいこととは、果たしてなんなのか。
    それが本当の意味でわかるのは本人でしかない。そしてそれを明確な意思表示として受け取められないとしたら、あとは想像力と、いかに多くの視点に立てるか、ということだろう。
    支援者として居たいのならば、その境地に常に立てるという自信が持てるように、自分自身をいつもチェックできなければならないだろう。
    独りよがりほど、援助にとって厄介なものはない。

    医師や看護師はもちろん、教師や保育士、カンウセラーや相談員、介護士など、対人援助を生業とするすべての人に読んでほしい。

  • 難病の子が1歳6カ月で呼吸器を付けるようになるまでの過程とその後成長していく様子、そして、ご両親の葛藤を長年付き添った小児科医の視点で語られている。

    呼吸停止状態で病院に駆け込まれた子を蘇生させながら呼吸器装着の判断をする当時の「千葉県こども病院」の担当主治医が苦渋の決断をする描写は、医師だからこそ書ける内容。心を打つ。

    また、親が子の難病をどう受容し、同じ環境の仲間たちと繋がりながら、実りある豊かな人生を送っている様子も描かれている。ただ障害への偏見、差別など社会の目はまだ低俗な部分もまだある。重い病気と重症心身障害のある子と共に「今」を受け入れ生きていく家族の姿に、人が人として生きていく意味を改めて考えさせる名著。

  • ゴーシェ病、先天的に酵素が欠損することで糖脂質が分解できないという病気。不治の病、短命であることを生後5ヶ月で知った両親の心の葛藤や、そこからどうやって希望を見出し、社会との繋がりを築くに至ったかが、細かに描写されている。
    自宅で呼吸器を付けた我が子をケアする、そう聞けば、大変だろうと思うのが普通。大変なことは否定できない、実際に体の状態が安定するまでの間、何度も危機的な状況になっている。常に重責がのしかかる、そんなイメージだった。
    でも、この本の母親は気丈で聡明、そう思う。我が子が幾つまで生きられるかわからない、それでも教育を受けさせ、学校に通い、旅行にも出掛ける。もちろん、そこに至るまでに役所との交渉、病院やケアワーカーとの関係性作りなど、かなりの努力をして体制を整えている。そして今、毎日が楽しいという。
    あとがきにもあったが、相模原の事件後に障害者は不幸だという意見が残り、それが更なる偏見を生む可能性があると思う。周りに障害者がいないため、実際の生活がどんな風か想像できないし、暗いニュースばかりが目についてしまう。障害は大変ではあっても、不幸ではない。それを証明するかのように、日常を細やかに観察し、また家族の心情の変化も丁寧に追っている。
    確かに分離教育が偏見を助長してしまう面がある気がする。そもそも関わりがなければ、街なかで目にした時に、どうしたんだろう、と視線を注いでしまうだろうし、接し方がわからない。

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著者プロフィール

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。
2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。13年、『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』(小学館)で第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。19年、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』で第8回日本医学ジャーナリスト協会賞・大賞を受賞。
著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)、『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)、『小児科医が伝える オンリーワンの花を咲かせる子育て』(文藝春秋)、『発達障害 最初の一歩』(中央公論新社)などがある。 

「2020年 『どんじり医』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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