戦う民間船: 知られざる勇気と忍耐の記録 (光人社ノンフィクション文庫 498)

著者 :
  • 潮書房光人新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769824985

作品紹介・あらすじ

日本陸海軍の戦いは最前線での主兵力の激突に全てが集中され、全面対決に際し、その戦闘力を持続させるための、補給をいかにすべきかということをあまりにも無策に過ぎた-海上輸送と海上護衛をおろそかにした国の末路と戦火に倒れた乗組員たちの勇気を伝え、海運立国での民間船の軍事使用の在り方を考察する。

感想・レビュー・書評

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  • 2006年刊。

     WWⅡにて、日米英独の民間船が輸送・警戒任務で、苦闘の末、如何なる働きを見せたかを開陳する書。

     叙述に派手さはなく、日本軍の問題を多々開陳するので、読み手を選ぶかもしれない。
     しかし、戦訓を知り、戦死者に対する哀悼に加え、当時の為政者や作戦策定者への批判を忘れないためには、見ないで済ませることのできるものでもなかろう。

     また、各国比較も可能な本書の場合、その違いが各国戦術観の違いに依拠するのは勿論のことだ。

     のみならず、①WWⅠの戦訓受容のレベル差、②船舶関連技術の蓄積の差、③軍部から民間に派生した民生化技術力の高低、④民生化の広がりという裾野の広狭の差などに影響されているのが読み解ける。
     例えば、独Uボートを翻弄した英国の高速大型輸送船の開発力や、その運航技術。この確立は、戦間期の米欧間、すなわち北大西洋貨客輸送の激烈な競争によって基盤が作られたのだ。


     なお、日本の特攻機や一部潜水艦が米国輸送船を撃破した例も確かに示される。つまり輸送路の破壊を日本軍が企図しなかったわけではなかったとは言えるだろう。
     しかし、米と比較ではその問題点が露わになる。日本軍の戦果は、結局は部分的なものに止まってしまった。
     すなわち、当時の米国のように「組織的に」「継時的に」これを殲滅する思考、そして、それを実現する兵装を用意するための技術的基盤の欠如も見て取れるのだ。

     補給路の軽視と共に日本軍の問題として挙げられるのが情報収集の軽視とされることが多い。
     これに関しても、先の技術的基盤の欠如の例として、優れた教訓を示してくれる。
     すなわち、遠洋漁業用のマグロ延縄漁船とその乗員をひっくるめて徴用し、太平洋の警戒任務に就かせた。S18年中盤ぐらいまでは一応は機能したようだし、情報の重要性を知悉していたことは確かだろう。
     しかし、重要な蛋白源の収集を放棄したという姿勢はどうなのか。
     民間船を戦場で活用するための技術的な手当てを行わず、無線すら準備不足のまま徴用したというのは、情報の軽視と見られても仕方がないのではないか。
     現に、S18年以降は、米潜水艦の大量出没でどうにもならなくなり、これら警戒網は機能不全に陥った。

     この点、この警戒網に関しては、確かに、ドゥーリットル東京初空襲の空母発見の功を挙げた。それゆえ、無意味なものではなかったのだろう。
     しかしながら、これら民間警戒船は、レーダー装備のないままで配置された上、この空母発見の報に対し、受け手の側が適切に対処できず、空襲後になって反撃・追跡指示したが時すでに遅かった、という失態を曝してしまったのだ。
     当然、空母発見の功ある警戒民間船は、米空母艦載機による攻撃で沈没するという憂き目に。
     無線を軸とする連絡網構築の問題、徴用船の保全の問題、予期せぬ事態への対処法の問題、そしてこれら全体を貫くシステムマネージメントの問題。
     これもまた、先と同様の問題点を雄弁に語っていそうな実例といえよう。

     このように重要な視座を与えてくれる本書だが、個人的な新奇情報も少なくない。
     英国の戦線維持が大英帝国の他の連邦国家に依存していた。例えば、輸送船を大量建艦したカナダ、軍事物資・資源供給に従事した南アなどの存在がそれに相当するものだ。

  • 新書文庫

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著者プロフィール

大内建二(おおうち・けんじ) 昭和14年、東京に生まれる。37年、立教大学理学部卒業後、小野田セメント株式会社(後の太平洋セメント株式会社)入社。中央研究所、開発部、札幌支店長、建材事業部長を歴任。平成11年、定年退職。現在、船舶・航空専門誌などで執筆。「もう一つのタイタニック」で第4回海洋文学大賞入賞。主な著書に「海難の世界史」「日本の航空機事故90年」成山堂書店がある。

「2020年 『WWⅡ 商船改造艦艇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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