TTT: トラのトリオのトラウマトロジー (セルバンテス賞コレクション) (セルバンテス賞コレクション 13)

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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784773814057

作品紹介・あらすじ

エル・ベダードと呼ばれる3ブロックほどの「夜も眠らぬ」歓楽街。そこには、外国人観光客、知識人、ポン引き、娼婦などが蝟集する。多くの極貧労働者によって購われた特権階級の遊び場にオマージュを捧げることで、作家は何を言おうとしたのだろうか?
1958年、革命前夜のハバナを舞台にした、キューバの鬼才、カブレラ・インファンテの翻訳不可能な怪作、遂に「超訳」なる!
【警告】真っ黒なページも、連続して登場する真っ白なページも、ひらがなを多用してたどたどしく書かれた手紙も、その中の誤字も、反転している文字も、すべてが作家が意図した「表現」です。印刷ミスだ、乱丁だ、誤植が多いと言って、返品なさらないでください!

感想・レビュー・書評

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  • 日本に翻訳される前に「三頭の淋しい虎」という題名だけが紹介されていたキューバのカブレラ=インファンテの小説が翻訳された。
    原語題名の「三匹の淋しい虎」は、早口言葉から取った言葉のため日本語では意味をなさないというので、翻訳されるにあたって「TTT: トラのトリオのトラウマトロジー」になったということ。

    カブレラ・インファンテは、反バティスタ→反カストロのため社会的にも文学活動的にもキューバ国内では立場が悪かったようだ。後にロンドンに移住した。
    しかし反カストロでキューバに残った作家たちは投獄されたりしているので、早めに国外に出られてよかったのか。
    同じキューバ作家のレイナルド・アレナスが、キューバで投獄されたのちアメリカに亡命して作った「カストロへの公開質問状」には、カブレラ・インファンテも連名を寄せている(と、アレナスの自伝に書いてあった。)。

    どこかにラテンアメリカ作家相関図作られてないだろうか。
    政治的には親カストロか反カストロ、体制側協力者か迫害された側かで分けられそうだけど。
    なおこの小説から感じたカブレラ=インファンテの好みは、ボルヘスには敬意、カルペンティエルは敬遠だと思う。
    ラテンアメリカ文学の”マジックレアリズム”を定義したカルペンティエルを「スペイン語で書くフランス作家」と評して欧米ゴシックを称した「手術台の上のミシンとこうもり傘の出会い」をもじって揶揄したり、
    やっぱり反カストロ(カブレラ=インファンテ)は親カストロ(カルペンティエル)に一言申し上げたくもなるのか。


    さて話はですね…
    ハバナの歓楽街エル・ベダードを舞台として、歌手や芸能関係者、住民たち、観光客や娼婦にポン引き…といった人々が逞しく生きる日々を書いています。

    序章
    ここはハバナの歓楽街でも一番の賑わいのキャバレー「トロピカーナ」!幕が上がり司会者が登場!英語スペイン語を混じらせてお客を乗せる、さあ、ショーの始まりだ!

    1章「新参者たち」
    いきなり賑やかに始まる住民たちのおしゃべり。逞しく育つ子供たち、遊びたい盛りの姪を預かった叔母さんのボヤき、劇作家志望の若者…。彼らによって歓楽街は今日も成り立っている。
    ここに出てくる人たちのうち何人かは後半にも出てきてる。

    2章「セッセエリボー」
    3章「鏡の家」
    5章「ジグゾーパズル チクショーハズレ」
    7章「いくつかの新事実」
    歓楽街で仕事探し、女探しに暮れる俳優アルセリオ・クエ、その親友で記者(または作家、または読書家、または翻訳家)のシルベストレ、芸能写真家コダック、ミュージシャンのエリボー、そして”言葉そのものになりたい”といって言葉遊びを繰り出し続けるブストロフェドンたちの語り。

    4章「ビジターたち」
    旅行者夫妻に起きた盗難事件??に対する夫の言い分と、妻の反論を二人の翻訳者がそれぞれ訳したという形式。

    6章「トロツキーの死 古今未来七名のキューバ作家による再現」
    ロシア人が殺された、と言うことを7人のキューバ作家風に書いてみた。
    どの作家も言い回しが大袈裟でウザい、とくにカルペンティエル/笑。

    8章「バッハ騒ぎ」
    アルセリオ・クエとシルベストレが車を走らせておしゃべりに興じ、女のコたちをひっかけ、いろいろ考えたりしていく。

    さらにすべての章には、精神科医に話をする女の語りと、巨漢の女歌手の思い出を語る「彼女の歌うボレロ」が挿入されている。

    原文ではキューバ語…つまりはキューバで話されているスペイン語、フランス語、英語、方言などなどを入り混じらせての言葉遊び、ゴロ合わせ、駄洒落や回文、などなどにより構築されていて、翻訳相当大変そう(笑)。
    回文の「イタリアでもホモでありたい」、
    名簿の画家の名前をもじって「ミセロ」「ドヤ」、
    言葉をひっくり返して「男子はバカ⇔カバは死んだ」
    などなど言葉遊びの宝庫なんだが全部翻訳者が考えたんだろうか??
    印刷の仕方も、文字がくるくる丸くなったり、「彼の語ったことをそのまま話そう」と言われてページをめくったら数ページ真白とか鏡文字とかになってたりしている(笑)。

    そんな手法は、作者の序文によると「飛び交う声を吹き出しのように書き言葉で再現する試み」ということ。
    しかしたくさん出てくる言葉遊びは、元ネタが映画や文学から取ったものが多いので、欧米およびラテンアメリカ文学を読み、作家たちを知り、ハリウッド黄金時代の映画を見て、俳優たちを知ってないと本当に楽しめないのかな~f(^^;)架空の人物かと思って読んでいたら巻末の解説で実在の人だってわかったりしましたよ。

  • ラテンアメリカ文学の雄、カブレラ・インファンテの長編。1967年に初版発表というから、邦訳まで長かった。本書の主役は『キューバ語』というから、外国語への翻訳は殆ど不可能なので、意訳満載だそう。駄洒落や言葉遊びが迸り、日本では馴染みが殆どない人名が頻出するので、読みにくいところもあるが、筋を追うのではなく作品世界にどっぷり浸かりたいなら読む価値はある。しかも、一度ではなく何度も繰り返して読んでも退屈しない本。

  • 圧倒的な読み応えだった。駄洒落や回文、逆さ言葉、文体模写に、下ネタと、言葉、ことば、コトバ...それにプルーストやボルヘスをはじめとする古今の文学への目配せもあるし、全体にレーモン・クノーっぽくもあり、句読点なしで普通の字体とボールド体が入り交じってる箇所なんかソローキンぽくもあって、ととにかくお腹いっぱいww 革命前夜の消え行かんとするハバナを描いた都市小説でもある。何冊か読んできたカブレラ・インファンテの中ではいちばん好きかも。寺尾隆吉さん、おつかれさまでした。

  • 読み応えありそう!(インファンテ未読の方は先ず「エソルド座の怪人」でお試しあれ)

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    「エル・ベダードと呼ばれる3ブロックほどの「夜も眠らぬ」歓楽街。そこには、外国人観光客、知識人、ポン引き、娼婦などが蝟集する。多くの極貧労働者によって購われた特権階級の遊び場にオマージュを捧げることで、作家は何を言おうとしたのだろうか?
    1958年、革命前夜のハバナを舞台にした、キューバの鬼才、カブレラ・インファンテの翻訳不可能な怪作、遂に「超訳」なる!
    【警告】真っ黒なページも、連続して登場する真っ白なページも、ひらがなを多用してたどたどしく書かれた手紙も、その中の誤字も、反転している文字も、すべてが作家が意図した「表現」です。印刷ミスだ、乱丁だ、誤植が多いと言って、返品なさらないでください! 」

    • 淳水堂さん
      nyancomaruさん こんばんは
      フォローありがとうございます!

      >印刷ミスだ、乱丁だ、誤植が多いと言って、返品なさらないでくだ...
      nyancomaruさん こんばんは
      フォローありがとうございます!

      >印刷ミスだ、乱丁だ、誤植が多いと言って、返品なさらないでください!

      私初めて読んだラテンアメリカ小説がバルガス・リョサの「緑の家」ですが、
      冒頭20ページくらいは文章内に時系列が入り乱れすぎて訳が分からず、本気で印刷ミスかと思いましたよf(^^;;)
      しかし最初があれだったので相当ラテンアメリカ文学の形式には慣れました(*^^*)
      2017/12/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      素敵な出会いですね、、、
      私はリョサと聞くと「小犬たち」(『ラテンアメリカ五人集』集英社)を思い出します。。。
      最近復刊して、購入したの...
      素敵な出会いですね、、、
      私はリョサと聞くと「小犬たち」(『ラテンアメリカ五人集』集英社)を思い出します。。。
      最近復刊して、購入したのですが、怖がりで読めてないのが『ラテンアメリカ怪談集』河出書房新社、、、読みたい本は増えるけど、なかなか読み進みません。

      また、色々と教えてくださいね。
      2017/12/11
  • とても好みの本でした。
    終始ブラックユーモアというか、おふざけが過ぎていて飽きないし面白い。
    唐突に各章始まるところもあれば、先の章と繋がっている箇所もあったりして、読み慣れるまで翻弄されてしまうけれど、その手探りな感じがゲームぽくてまた愉快です。
    ストーリーは街に住む音楽家の男性達や、その周りの女性達の何気ない日常グタグタを記してるだけといえばそーなんですが、やっぱり人間てアホやなぁおもろいなぁ、と思えてけっこうゲスいシーンも嫌な気分になることがない。
    ただこれは読む人をかなり選ぶ本やと思います。
    これ読んでウンチク垂れるような人は私は信用できないw
    異色ですが、娯楽としては一級の本だと思います。最高

  • 面白い。ただ、訳者が工夫したら、もう少し面白く訳せたかもしれない。

  • 「壁に耳ありジョージにメアリー」知的でセンス良い駄洒落の土砂災害。流されるきもちよさ。酒!音楽!文学!女!情熱!この本を執筆するために資料をかき集めたわけではなく、既に作者の血や肉となっているものを分けて食べさせて貰ったような感じだねー。何だか登場人物がずっと酒を呑みながら会話してるので、別のテーブルで彼らの話に聞き入ってるような読後感だ。しかし日本人はビールなんてちいともセクシーでない飲み物をありがたがってるね。トラが出てくる幻想的な本かと思ったら違ったわ。現地に旅行行くよりこういう本読んだ方がいいな。

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