化学物質はなぜ嫌われるのか ‾「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)
- 技術評論社 (2008年6月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784774135175
作品紹介・あらすじ
テレビ、新聞、雑誌など、メディアの中で、化学物質の話題がとりあげられるとき、多くの場合、それは悪いニュースだ。化学物質はなぜ嫌われるのか?私たちの生活に深く関わり、私たちの体を支えてもいる化学物質の存在についていっしょに考えてみよう。
感想・レビュー・書評
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化学物質に対して、過剰な不安をあおる出版業界や、健康ブームに疑問を投げかけた書?いや、歯止めをかけようとしている書。
合成の化学物質が嫌われる傾向にある。
なかには鋭い指摘もあるが、不誠実な業者が利益獲得のために誤解をあおっている側面もある。
本書ではそれらを指摘している。
僕には今まで、化学物質の害を訴える本や情報にしか触れてこなかった。
だからこの本の内容は興味深かった。
やはり、ある意見を読むだけではなく、その反対の意見も読んだ上で、自分の判断を下すことが大切。一方の意見を知っただけで知ったかぶりはダメね。
ダイオキシンに関しては、ほんとに悪い印象しかなかったけれど、、、。
本書の内容をご覧ください(笑)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
化学物質に関する主なトピックが科学的な態度で整理されており、しかも読みやすい。「買ってはいけない」「食品の裏側」の記述に対しても、冷静に反論している。
ダイオキシンはモルモットに対して高い毒性を持つが、イヌやハムスターでは数千分の1の毒性しかなく、事故による人間の死者も少ない。
DDTはヒトへの発がん性はなく、土壌では2週間で分解され、海水中でも1か月で9割が分解される。2006年、WHOはマラリア対策のために室内でDDTを使用することを推奨すると発表した。
ホルムアルデヒド(CH2O)は、様々な分子をつなぐ性質を持つ。尿素とホルムアルデヒドを混ぜたものが尿素樹脂で、合板に利用されている。タンパク質がホルムアルデヒドと結合すると固まる。シックハウスの原因として考えられるのは、トルエン、キシレン等様々な物質があり、わかっていない。
人工甘味料のスクラロース、パラチノース、マルチトールは、砂糖や麦芽糖を変化させたもの。アスパルテームは、アスパラギン酸とフェニルアラニンが結合したもの。
保存料のソルビン酸は、100g摂っても大丈夫なほど安全。コーヒーフレッシュに使われているレシチンは大豆や卵黄の成分、脂肪酸モノグリセリドは牛乳の成分、増粘多糖類は植物や海藻に含まれるペクチンやキサンタンなど。
プリン体は、摂り過ぎると尿酸に変換され、関節部に鋭くとがった結晶として析出し、通風を起こす。プリン体は体内でも合成されており、食事から取り入れるのは4分の1から3分の1程度。
プリオンタンパクは、正常な折りたたみで存在するが、異常な折りたたみのプリオンと接触すると異常型に変化して結合し、やがて脳細胞を破壊する。折りたたみが変化する過程はわかっておらず、どうやって脳に入り込んでいるかも謎。
抗酸化作用があるポリフェノールを含む食品が健康に良いことを示唆するデータは多い。緑茶をたくさん飲む人の各種がん発生率が低いとの報告も多い。コエンザイムQ10にも抗酸化作用があるが、大量に摂取すると寿命が縮むという動物実験もある。動物実験で寿命を延ばすことに成功した手法は、カロリー制限ただひとつ。
鎮痛・鎮静剤として開発されたサリドマイドは、胎児の奇形を引き起こす薬害を発生させたが、ハンセン病への効果が認められて再承認された。タミフルが原因と疑われる異常行動は、インフルエンザの症状としても起こるもので、インフルエンザで死ぬ確率よりも3桁低い。
日本人の平均損失余命(中西準子)
喫煙 数年~十数年
ディーゼル粒子 14日
ホルムアルデヒド 4日
ダイオキシン類 1.3日
ベンゼン 0.16日
DDT 0.016日
日本における10万人当たりの年間死者数(安井至)
喫煙 365人
がん 250人
肥満 140人
心臓病・血管系の病気 127人
酒 117人
自殺 24人
交通事故 9人
窒息 6.9人
転倒・転落 5.1人
ディーゼル粒子 2.8人
入浴 2.6人
火事 1.7人
他殺 0.5人
ダイオキシンなど 0.3人
http://www.yasuienv.net/RiskSortedbyDeath.htm -
2015/12/09
有機農法は豊かな先進国だけに許された、非常に贅沢な農法
読みやすい -
化学物質や食品添加物、薬品などについて、恐怖を煽るトンデモ本へのカウンターとして実によく出来ている一冊。
誠意ある科学者は科学万能など訴えず、謙虚で中庸である。
時に冷たく聞こえるような主張にならざるを得ないが、その時にはきちんとフォローする表現がある。
それが故に、明確でわかりやすい主張をするトンデモさんの大声に押されてしまうもどかしさはある。
しかし、大人であるなら、世の中は0でも1でもないことをいい加減わかっても良い頃だ。 -
○有機合成化学の専門家で、フリーのサイエンスライターも努める佐藤氏の著作。
○世の中に存在するありとあらゆる「化学物質」について、その悪いイメージとは裏腹な本来の役割、意味などについて、科学的に解説したもの。
○本書中にも登場するが、食品添加物や農薬、医薬品などの化学物質が、人体や環境にどのような影響を与えているのかを分かりやすく説明しており、変な先入観を取り払ううえで大変有益。
○「知らない=怖い」という当たり前のことに流されるのではなく、自分自身、知る努力をしていきたいと思う。 -
本は、セットで読むのもいい。
今回は、『化学物質はなぜ嫌われるのか』『9割の病気は自分で治せる』は、正反対ではないけれども、一部の立ち位置は対峙するのでは、というセット。
人工甘味料アレルギーを疑っていたときに、方々のサイトでヒットした内容は、『買ってはいけない』系の本由来だったのだろうな、とわかった。
この本によれば経皮毒を煽るようなものについて
「歯磨きに含まれる界面活性剤によって舌の表面の味蕾細胞が破壊され、そのために歯磨き後は物の味が変わってしまう」
→本当に細胞が破壊されるなら、再生までかなり長い間、味覚が変わっている筈。単に香料のせいで、唾液で洗い流される数十分後には、味覚が元に戻る。
サッカリンが再び使えるようになった理由もわかった。糖尿病患者関連の方々が、糖尿病患者には必要な物質であると訴えたようだ。人体には問題ないと判断されたんでしょうね。
色々な事例が載っていて、こう説明されると、納得出来る。
著者が一貫して主張するのは、
・リスクは利便性とのトレードオフ
たとえば、塩素が有機物と化合すると発ガン性物質になるという声に押されたペルー政府が、水道の塩素殺菌を取りやめ。
消毒をやめて一ヶ月でこれらが大発生し、感染者250万人、死者1万人以上
・○○はいけない、毒などと書いてある場合の科学的根拠を調べる。また、どれくらいの量で騒いでいるのかを知る。
人体が排出出来る程度のものならば、問題はない。
・合成物だから悪いわけではない
天然の植物などから精製された砂糖も、石油から精製された砂糖も、分子構造上はどちらも砂糖であり、身体は由来を判別出来ない。
今の世界で、天然由来のものだけにこだわっていたら、充分な食料を生産出来ない。
農薬や添加物だって、人体に危険と言われる量の数百、数千分の一の量しか残存しないようにしてある、等。
読んで納得出来るし、だからといって、添加物だらけのものが排出出来る量でも身体にいいのかというと、実際にはわからず、そんな食品を食べて今日まで生きてきているわけです。
つまるところは、これも元にして、自分で判断しよう。
ただ、無闇に恐れるのではなく、正しい知識を得る努力をして、テレビや雑誌やネットの内容を簡単に鵜呑みにしないで、自分で考えよう。
という、リスク管理のことなんだろうな。 -
新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:574//Sa85
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騒がれている化学物質は日常的に考えられる状況で本当に健康を害するのか、という疑問に答えてくれる本です。
例えば「アスパルテーム」という合成甘味料をネットで検索しようとすると、「アスパルテーム 危険性」「アスパルテーム 副作用」とか見るだけで危険そうなイメージを持ちがちです。
しかしながらこの本によると、この危険性は相当科学的には疑念があり、出荷停止までは必要ないと主張しています。
理由は以下の通りです。
1.そもそも人間が今まで栄養分として摂取しているため
・アスパルテームに含まれているフェニルアラニンは、必須アミノ酸であり、きわめて重要な栄養素であること。
・フェニルアラニンは母乳や肉、魚などのたんぱく性食品にも含まれており今まで普通に摂取していること。
2.危険性が高いのはごく限られた方で、かつその危険性をもつか否かは容易に識別がつくこと。
・出生時検査で識別できるフェニルケトン尿症という遺伝病を患っていること(8万人に1人の割合とのこと)。
・かつ、その病気を患っている新生児がフェニルアラリンを大量に摂取すること。
これは本に書いてある一例ですが、他の化学物質や薬品、健康食品などについても触れています。○○が危ないと考えるようになったら、一度この本を手にとってはいかがでしょうか。 -
大学の図書館で筆者の運営する「有機化学美術館」の記事を読んだ所とても面白かったので、筆者に興味を抱いてその場で借りたのが本書。非常に読みやすい文章で、論点や主張も鋭いのでどんどん読み進めていたら図書館閉館前に読み終えてしまった。
有機化学は自分がこれから専攻する予定の分野ではあるものの、世間的には悪い印象が強い分野だったので正直引け目も感じていた。その点で本書は私の心の支えにもなった。
自分が本書の内容の中で最も肝に銘じるべきと思ったことは、引用文にも挙げた「絶対安全を保証することは不可能である」という点である。この論理的な原理により、有機化学を扱う人間は誰でも「危険物を利用して利益を上げる人間」として槍玉に挙げられるリスクを背負わなければならない。これは非常に重大で、かつ解決しようのない問題である。専門外の人間が各化合物の安全性をいちいちチェックすることはできないから、一度批判を受けて悪い印象が世間に根付いた化合物は、例えその批判が荒唐無稽であったにせよ、世間から悪い印象を払拭することはほぼ不可能である。多くの科学者が金と時間と労力をかけた努力の結晶が、自称専門家の恣意的批判により無駄になった例もあるだろう。化学で食べていくということは、常にそうしたリスクに曝されるということでもあるのかもしれない。
もっとも、自分が本当に有機化学で食べていける職に就けるのかについては、まったく別の問題ではあるが。とにかく、有機化学をライフスタイルの中心にして生きるのも悪くないなと思えたのは大きな収穫だった。