- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784774330785
作品紹介・あらすじ
中学三年生の悠人は、高校受験を控えている。優秀な兄・直人や、家族を置いて家を出ていった父親、悠人でなく直人に大きな期待をかける母親、といった家族のなかで、自分の存在意義を見出せない悠人は、日課にしていたランニングの途中、公園のブランコに座る少女・朱音と出会う。どこか影のある表情の朱音に、次第に惹かれていく悠人。朱音が、病気の母親の介護や幼い妹の世話、家事をひとりで背負う“ヤングケアラー”であることを知った悠人は、彼女の力になりたいと考えるようになるが……
母親の介護に携わる“ヤングケアラー”の少女・朱音に恋をした中学生・悠人の物語を通して、「誰かを大切に思うこと、社会へ目をむける機会」を読者に提供する児童文学です。
感想・レビュー・書評
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この作品のテーマは「ヤングケアラー」で、十八歳未満で、家族の世話や家事をしている子どものことをいうのですが、私は初めて知りました。
しかも、その割合は二十人に一人ともいうから、決して少なくはありません。
そして、あまりにも周囲の認知度が低いために、それを言うことができずに、一人で抱え込んでしまうことが多いのだとか。
ただ、この作品が、そこで教えてくれるのは、人は見た目じゃ分からないという、当たり前のようでいて、視点が変わると意味合いが違って見えること。
要するに、周りの人の気持ちを察してあげるという、簡単なようで難しいこのテーマを、この作品では、家族における自らの存在価値に悩む、「悠人」の成長物語としても描いているところが素晴らしい。
自分が、相手の気持ちを分からないということは、相手も自分の気持ちを分からないことがあることを知り、それでも相手に自分の気持ちを伝えるには、どうすればいいのか?
勇気を出して言ってみたことが、思いもよらない、違う展開になったときは辛いよね。
でも、人間は、その中でまたどうするのかということを、きちんと考えることができる存在でもあることを私は信じている。
そうした積み重ねの上に誕生したのが、タイトルの「with you」であって、こうした重要で重くなりがちなテーマを取り上げながらも、家族や友情、恋愛の素晴らしさを知り、爽やかな読後感に満たされたのは、悠人の努力と朱音の勇気が、そうさせたのだと思っています。
最後に、ヤングケアラーを通して印象的だった文章をいくつか。決して手伝いと言ってはいけません。
「手伝いっていうより、役割? 家の仕事の中で、おれの役割ってのがきっちりあった」
「正直いって、わかってくれたとは思ってない。でも、わかってなかったことはわかったみたいだから」
「何も知らないのと、いざというとき、相談できる場所があることを知ってるのって、ぜんぜんちがうんだって思った」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2021年青少年読書感想文全国コンクール課題図書 中学校の部
中学3年の悠人の家族に対する複雑な思いや受験を前にした焦り、朱音に惹かれていく気持ちなど思春期男子の繊細な気持ちが丁寧に描かれている。
『ヤングケアラー』最近取り上げられるようになったが、知らない子も多いだろう。
朱音を見ていると、子どもはこんなに我慢していると胸が痛くなる。
ヤングケアラーの当事者を主人公の悠人ではなく朱音にする事で、多くの子どもに「あなたの友だちだったらどうする?」を投げ掛けている。
悠人と朱音の恋愛がいとおしい。
大変な問題を提示しながらも、爽やかな読後感でした。 -
児童書。
社会問題にもなっているヤングケアラーと中学生の恋愛がテーマの物語。
ヤングケアラーについて同世代の子たちが知るきっかけになるような一冊だと思う。
まだ中学生なのに、好きな女の子の力になりたいと頑張る悠人が格好いい。
こんな風に言いづらいことを相談できる相手がいると、辛い状況でも救われるよなと思った。
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この夏の高校生向けの課題図書を読んでみた。
中学生の恋愛物語かと思いきや、なかなか奥の深い内容だった。
子どものことと言えば、いじめ、貧困、虐待などで話題になることはあるが、ヤングケアラーはあまり知られていない。
それは、子ども自身が誰にも言えないから気づかないわけで、現実では家族の介護を担っている子どもたちは多いのだろう。
この物語は、受験を控えたひとりの男子中学生が、優秀な兄と比較され、母にも兄ほどかまってもらえず…父は家を出ているという家庭環境で、ふつふつと湧く感情を持て余し走っている途中で出会った女子中学生との話である。
少しずつ、距離を縮めて話しするうちに彼女の状況がわかってくるのだが、読んでるうちに何度となく涙が出てしまう。大人でも介護は大変なのに…もっと中学生活を楽しみたいだろうに…いや、そんなあたりまえなことに心を揺さぶれたのだろうか。 -
【2021年中学生課題図書】
いま話題のヤングケアラーが主題。
主人公の男の子が、ヤングケアラーの女の子と出会い、
現実と向き合っていく社会派作品であると同時に、
中学生の2人の恋模様も描かれる。
恋愛模様が微笑ましかった。
一人称は主人公の男の子で、
それを通して描かれる女の子の姿は、
「辛いんだろうなあ。可哀想だなあ。」という、
どこまでも他人事の視点です。
そこがまたリアルでよかったとおもう。
甘々の恋愛模様との対比も面白くて、ヤングケアラーに対する知識を広めるのにぴったりの良いお話でした。
感想文は、どうしようか。
社会福祉の観点からいくのがいいのかな。難しいかも。 -
2021年中学生課題図書。出来のいい兄に引け目を感じる悠人は、中学3年受験生。両親は別居し、決して裕福ではないが、なんだかモヤモヤを抱えている。夜のランニング中に公園で疲れた様子の女の子朱音を見かけて知り合う。朱音は父は単身赴任、小さい妹、そして病気の母を抱えるヤングケアラーだった。2人の恋がベースなので、暗くなりすぎず、大人や友達、兄弟とも、一歩踏み込んで話してみる大切さも伝わってくる。困っていることやつらい状況を話せない年代、助けてと言うということすら思いつかない辛さ、同情されたくない気持ち、いろいろ本当によくえがかれている作品。読んでよかった。
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家族の中から自分がいなくなっても何も変わらないんじゃないかと思っている男の子と自分がいなくなれば家族が壊れてしまうと思っている女の子。
ヤングケアラーをテーマにした物語。
大人でも介護や支援が必要な家族がいるとしんどい。ましてや子どもであったら。
今ではなくても、いつか必要になったときに相談するところがあること、まわりで困っている人がいることに気付ける大人になれますように。
胸がぽかぽかする恋のお話でもありました。 -
2021年の課題図書。
ヤングケアラーというテーマで注目されている本だけど、わたしは中学生の淡い恋愛ものとして楽しく読みました。
読み終わったあと、タイトルの「With you」の意味がやさしく胸に響いてくるような物語でした。 -
#恋愛
#ヤングケアラー