- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784774330792
作品紹介・あらすじ
――すべての若き読者どもに送る、「音楽×青春」小説!――
高校1年生の晴己は、中学2年生の弟・右哉と多摩地区のはずれのはずれにある古アパートで暮らしている。たまにしか帰ってこない母親の代わりに、アルバイトで生活費を稼ぎ、弟との生活を回していく晴己。お金も、時間も足りなければ、明日だってくるかどうかわからない。そんなギリギリの生活をおくる兄弟には、親代わりになって二人を世話してくれた母親の友人、しんちゃんから教わった、心の支えとなる音楽・パンクロックと、「いつか兄弟でバンドを組む」という夢があった……
人気作家・石川宏千花先生が、長年あたためてきた物語である本書は、自分の居場所に悩む若い読者に、力強いエールを贈る物語です。
感想・レビュー・書評
-
中学2年の弟とふたりだけで古アパートに暮らす高校1年の晴己は、母親から時々受け取るわずかな生活費と週4回のバイトと親代わりのように気にかけてくれるご近所しんちゃんのサポートとでなんとか生活していたが、小学校4年生のときに出会ったパンクが心の支えだった。
バイト仲間の諒真に誘われて音楽サークルのミーティングに行った晴己は、そこでギターを背負う大学生の羽田海鳴と出会う。
学校の委員会の仕事ができずに困っている晴己に、クラスメイトの菊池(本当は加藤)が出した提案は、菊池がそれを引き受ける代わりに、晴己にバンドを組んでフリーマケットのステージに立ってほしいというものだった。
在校生でなくても参加可能ということだったが、さすがにおとなのしんちゃんにほ声をかけづらく感じ、音楽サークル仲間でバンドを組んで練習を始めた。ところが、そのことにしんちゃんは気分を害してしまった。加えて晴己がほのかな恋心を寄せていたギターの海鳴も右哉の反対にあい、荷が重いと降りてしまう。そうしたところに久しぶりに兄弟のところに現れた母親に、右哉は連れて行かれてしまう。
親の保護が当てにできない中、パンクを心の支えに一生懸命生きている少年と、それを支える人達の姿を描いた物語。
******* ここからはネタバレ *******
「パンク」から始まって、「ブルーハーツ」、「レッチリ」、「グレッチ」、???聞いたことのない音楽用語や楽器の名前が、解説のないままポンポン飛び出してきます。
う~ん、これだけで、食わず嫌いのうちの末娘なんかは放っぽり出しそうですね。
かくいう私も途中で読むのをやめようかと何度も思いました。
わからない音楽用語に加えて、読点が多すぎて読みにくいんです。
まあ、「ザ・ロード(コーマック・マッカーシー:著, 黒原敏行:訳 早川書房)」のように、ほとんどないっていうのも論外だと思いますけど、「””」で括ればいいところまで「、」で表してあるので妙にリズムが狂いました。
さらに、時々むっちゃ長いセンテンスがやってきます。たとえば、これ。
「どちらもちょっとポップで、パンクが好きじゃない人でもとっつきやすいかな、と思ったのと、それほど演奏がむずかしくない曲なので、自主練してもらうのが大前提だとしても、残り一か月を切った状態でもどうにかマスターできるだろう、という理由で選んだ。」
いやまあ、口語で書かれた文章だと思えば納得なんですが、すみません、子どもたちへのおすすめ本としてはかなりの難点となります。
それに、描かれる人物にも不自然な点が目立ちます。
まず、弟の右哉。
中学2年の設定ですが、幼いですよね。
学校に行きながら家事とバイトに奔走している兄に、完全に甘えて「子ども」でいます。毎日バンドの仲間が見つかったか聞いてくるのに返事をされなくても気にしないとか、兄が集めたメンバーが気に入らないからと年長者であるその本人の前でダメ出しするとか、自分だってバンドでの役割があるのに母が迎えに来たらさっさと行ってしまうとか、母の元を抜け出したときには、8時間も歩いて兄の高校に行ってしまうとか、お兄ちゃんと会えたときには人前で号泣してしまうとか……。
反抗期になろうかという年齢の男の子にしてはカワイイんですけど、読みながら小学生の姿を思い浮かべてしまいました。
それからしんちゃん。
晴己たちの母親にずっと片思いした挙げ句、子どもたちの世話を仰せつかったらしいのですが、肝心の母親は子どもたち元に寄り付かずにいます。まあ、情が移ったと言ってしまえばそれまでなんですが、50歳を前にした男性に、他にやりたいこととかなかったのかなぁと思ってしまいます。
母親もとっても不思議。
きちんと描かれていないので、自分勝手なマイペース人間としかわからないのですが、それでも家賃と水道光熱費は滞納することなく払っているって、ある意味立派です。生活費も足りないことはあってもちゃんと補填しているし。
そして、なんで右哉だけを再婚相手のところに連れて行こうとしたのかも不思議。だって、小学生ならともかく、基本的に反抗期真っ盛りの中学生でしょう?今まで放っておいたんだから、これからも放っておくという選択肢もあったはずなのに、なんでなんでしょう???
江波くんもかわいそうです。
普通じゃない晴己に憧れていたら、父親が家宅侵入で警察に確保され、普通じゃなくなってしまったとか……。
いやぁ、こんな事件があったら、不登校になる前に事件が明るみに出て、それから引っ越しや転校でしょう?まず不登校からじ始まるのって不思議じゃありませんか?
それにしても、部下の女性宅に暴行目当ての家宅侵入なんて悲惨すぎます。横領とかコンプラ違反とか、もう少しお行儀の良さそうなことにしてあげたら良かったのに。
そして、晴己の納得のしかたに、私は一番納得できません!!!
右哉がいなくなった時一時的になにもできなくなったからって、右哉という世話をする対象、<母親が帰ってこないうちの兄>という役割が自分には必要だったのだ、それがなくなったらダメなやつになっていたと悟っているけれど、それを若い読者に納得してほしくないです。
そりゃあ、弟がいなくなって一人ぼっちになったら寂しいし、自分の今までの役割がなくなったら喪失感もあるでしょう。でも、親のネグレクトのおかげでしっかり者の自分がいて、それがないとダメ人間になるのだったら、ちゃんと育児している親の子はダメ人間になるってことになりませんか?
自分の環境を”受け入れて”そこから「じゃあ、どうしていくか」考えることは大事だと思いますが、その劣悪な環境を「自分に必要なもの」と思ったら、そこから抜け出すこともできなくなりますよ。
パンクのステージが成功してよかったけれど、私は、この兄弟が母の気まぐれに頼らなくても生きていける安心感をもう少し与えてほしかったと思いました。
う~ん。
読みにくいけれども、物語自体は入り組んでいないので、読める子なら中学年からイケそうですが、家庭は壊れているし、犯罪を犯す親も出てくるので、オススメする”なら”中学生以上でしょうね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み終えてタイトルを見返すと、胸がいっぱいになる。
父はおらず、母は滅多に家に帰らない。
弟の面倒を見ながらバイトを掛け持ちする高校生の主人公は、パンク音楽と弟だけが自分を生に繋ぎ止めていると感じている。
丁寧に描かれる彼の状況は苦しい。
読後感は良いのだけど、その明るさも周囲の大人の気まぐれや機嫌に掛かっているところも大きいのが、大人としては辛いし申し訳なくなる。
あくまで児童文学であって、第一の読者は子どもなので、子どもたちに向けて希望のあるラストなのは良かった。
けれど、大人の読者は「良かったー」で終わらせてはいけないなと思う。
パンクを持って来るのが新鮮で、でも見事にハマっていた。
演奏シーンも迫力があり、実際にその場にいるような気持ちになれる。
作者の他の作品も読みたい。 -
全然児童書なんかじゃない!
疾走感溢れてドキドキワクワクが止まらないパンクス聴いているような小説でした。大好きです。恰好いい!!! -
児童文学にパンクの文字に惹かれて手に取った。
世代間ギャップからか、ちょっと情景が想像しにくかった。
舞台を関西に、町田康氏が児童文学を描いたらどうなるんかな、という思いがよぎった。
インドのラップ映画「ガリーボーイ」とか、昔流行った「8マイル」とか、ミュージシャンの伝記映画等はあるが、日本が舞台の音楽映画はほとんど観ていない。小説もしかり。音や思想を文字で表現するのには技も必要だけれど、読み手の音楽経験も左右すると思う。流行らしきものがさほど意識されなくなり、各自の多様性が尊重される中、「音楽」のジャンルや思想は今後どうなるのか。 -
シングルマザーの母親は、高校生の晴己と中学生の右哉をアパートに残して、何日も何か月も帰ってこない。生活費は置いていくし光熱費も払っているが、日々の暮らしは兄弟二人だけだ。そんな二人を気にかけて顔を出してくれるのは、母親のことが好きなしんちゃんだ。晴己に家事全般を教えてくれたのも、二人にパンクロックを教えてくれたのもしんちゃんだ。バイトを掛け持ちしながら、晴己と右哉はいつかパンクロックのグループをやりたいと思っている。ひょんな事から、軽音部のイベントでロックをやることになる。
ネグレクトの母親なんていう重いテーマなのに、読後のさわやかさは何なんだ!この兄弟を心底応援したい。 -
はー、おもしろかった。
終わってしまうのが残念。
晴己と右哉の物語をもっと読んでいたい。
「空電の姫君」「セケンノハテマデ」古くは「おんなのこ物語」などバンド漫画は好きだけど、小説では読んだことなかった。ましてや児童書は‥と舐めていたが、とんでもない!一気に読んでしまった。
シングルマザーの息子、晴己は弟の右哉と二人暮らし。母親は滅多に帰って来ない。
母親の十代からの崇拝者のしんちゃんが、近所に住んでいて二人をなにかと気にかけてくれている。
三十代までパンクバンドをやっていたしんちゃんの英才教育で、二人兄弟にはパンクが染み込んでいる。
アラフィフのしんちゃんが持って来る音楽なので、二人のパンクは、グリーン・デイとかではなく、ザ・クラッシュやセックス・ピストルズ(!)。
音楽を欲する気持ちは理屈ではなく、衝動なのだ。
この先、晴己がお金持ちになる日は来ないだろう。だけど、ずっと好きな音楽をやっていてほしい。
児童書だけど、ティーンズ向けだと思う。 -
「あんたたちのせいで、こんな人生しか生きられなかったんだよ?」
と言ってしまえる破天荒でパンクな母に育てられた(というかほうっておかれて育った)晴己(はるみ)、高校1年生
母の影響で2歳下の弟右哉(みぎや)ともどもパンクロック(厳密に言うと初期パン)にあこがれている
ベース晴己、ボーカル右哉でいつかバンドを組みたいと思っていたところ、軽音部のフェスでステージに立てることになり、メンバーさがしを始めると……
《歌え、右哉。
おまえのパンクを、おまえの衝動を、好きなだけ。》
クライマックスに流れるのはザ・クラッシュの「アイ・フォウト・ザ・ロウ」とラモーンズの「シーナ・イズ・ア・パンクロッカー」の2曲
《ザ・クラッシュのポール・シムノンといえば、の白のプレシジョンベースだ。》
この描写にびんびんくる人にはたまらない青春音楽小説
『青春ノ帝国』に続く石川宏千花の最新作、2020年10月刊
YAの意欲作が並ぶ「くもんの児童文学」から
ちなみに「パンクスノットデッド」はもともとはエクスプロイテッドというバンドのアルバムのタイトルで、パンクを象徴する信条のようなもの、とのこと -
破天荒でパンクな母親に育てられた(育った?)高1の晴己は、あまり家に帰らない母にかわって2歳下の弟右哉の面倒を見ている。二人は母親の影響でパンクロックに憧れている。いつかベースが晴己、右哉がボーカルでバンドを組みたいと思っていたが、軽音楽部のフェスでステージに立てることになって・・・。登場する曲を聴きながら読むのがおすすめ!