梨の子ペリーナ: イタリアのむかしばなし

  • ビーエル出版
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本棚登録 : 533
感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (40ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784776409281

作品紹介・あらすじ

梨と一緒にかごに入れられ王様の宮殿にやってきたペリーナは、召使として働くことに。心優しいペリーナは誰からも好かれ、王子とも仲良くなりました。ところが、ありもしないうわさを流され、魔女の宝をとってこいと、宮殿を追い出され…。理不尽な目にあいながらも、率直で綺麗な心であり続け、出会う不思議なものたちの苦しみを解放しながら、魔女の宝を探しにいくペリーナ。その勇敢で清らかな姿に胸をうたれます。

感想・レビュー・書評

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  •  久しぶりに見た酒井駒子さんの絵は、これくらいの大きなサイズ感であれば、黒を下地にした上に、物語に寄り添う形で濃淡様々な色を繊細に重ねていき、その世界に確かな彩りを活き活きと与えていった過程が更に分かるようで、思わず見入ってしまう美しさがある。

     その立体感がありながらノイズが入ったような擦れ具合に、独特の幻想性があったり、所々おどろおどろしい場面がありながらも、全体的にどこか軽やかな優しさを感じさせるのは、主人公「ペリーナ」の彼女が走ることで、まるで絵の中に風が吹いているような躍動感と、彼女自身から放たれる、どこか人智を超えたような神秘的な雰囲気なのだろうと思われて、更に幻想的な絵の間に挿入された、ペン一つで描かれた酒井さんのラフなスケッチも、それを際立たせているようであり、こうした軽やかな感じは、子どもを題材にした作品を除き、酒井さんには珍しい作風なのかもと思ったが、その理由は本書を読み終えた時に、私の中で一つの形として浮かび上がるものがあった。


     そんな軽やかさとは対照的に、物語の始まりは重く、毎年、籠4つ分の梨を王さまに納めなければならない男が、その年は3つ半しか実らなかったことから、末の娘を籠に入れてそのまま納めてしまい、やがて数日後に召使いに発見されたのを機に、王さまの台所で働くことになる、彼女がペリーナである。

     昔話だから、親に捨てられた心境の描写は無いのか、あるいは、そういう可能性があることを前もって覚悟していたのかは分からないが、彼女はそんな雰囲気を微塵も感じさせない、持ち前の賢さと優しさで、仕事はてきぱきとこなし、皆にも好かれていったことに加えて、同じ年頃の王子さまとも仲良くなり、このまま新たな人生が開けていくのだろうと思われた。

     しかし、今度は、それに嫉妬した者のあらぬ噂によって、ひとりで魔女の宝物を取ってこなければならなくなり、こうした自分の人生の鬱屈したものを他人の幸せにぶつける輩というのは、いつの時代にもいるもので、その場面の、悲痛な表情で何故と訴える王子さまの姿も切ないが、それでも彼女は、仕方なくとはいえ、まるでそうした展開でさえも、彼女自身の人生に於いて、ごく自然に発生したものと認識しているかのような佇まいを見せている、その毅然とした態度や行動には、とても驚かされた。

     確かに、その後の展開で助けてくれる人はいて、物も与えられた。しかし、それをどう使うかは彼女自身が考えたことにより、人助けが、結果として彼女自身の助けにもなるといった、慈善的行いの素晴らしさを謳った作品とも取れて、それは、そんな彼女の行いが報われたエンディングや、酒井さんの温かみを感じさせる最後のスケッチにも、よく表れていると思ったが、私が最も印象に残ったのは、そこではなかった。

     ペリーナという名前には、『梨の子』という意味があり、それは梨と一緒に倉の中で発見されたことから、王さまの元で働く皆から呼ばれるようになり、また、イタリア語では果物はみんな女性名詞であることから、果物の化身は女の子の姿が連想されると、訳者の関口英子さんのあとがきで知ったことから、本書に於いても、ペリーナという存在が皆を幸せな思いにしていく、そんな過程に、果物から人間に与えられる恵みの素晴らしさを擬えたようにも思われたが、私はもう一つ違った見方として、人間と植物(梨の木)との同一性の憧れを描きたかったのではないかと思いたい。

     それは、物語に於いて、魔女の宝物を取ってくるために仕方なく歩き出したペリーナが、リンゴの木と桃の木はあっさり通り過ぎて、梨の木に辿り着いた時、枝の上でぐっすりと眠りに就く場面があり、その酒井さんの描いた見開きの素晴らしい一枚絵の、まるで彼女と梨の木が一心同体と化したような、とても穏やかで安らいだ表情で眠る彼女の姿には、どこか人間ではない、見えない光を放っているような慈愛に満ちた神々しさを感じさせられ、暗くなってきたから、眠りに就くのは分かるとしても、何故梨の木を選んだのか、それはペリーナという名前だからといった、決して単純なものではないのだと思う。

     何故ならば、それは冒頭の場面で描かれた、梨と共に籠に入れられたペリーナの上から、更に葉っぱを被せられる、そんな非情な扱いのどこに、彼女の人としての尊厳を感じられるのかといったら、悲しいほどに全く感じられない、彼女への冒瀆であり、そんな姿を同じ籠でまざまざと見せつけられた、梨たちは、果たしてそれをどのように感じたのか、そんな目には見えなくとも感じられる、お互いに通わせた共感は、その後も倉の中で共に過ごしたことでより高められたことによって、彼女がひとりぼっちになった後、真っ先に安らぎを求めたのが、彼女にとって数少ない、心からの信頼を寄せられる梨の木だったのではないかと思い、改めて、梨の木の枝の上で眠る彼女の同一性には、かつて、植物も人間も同じ星から生まれてきたのだということを、私に思い出させてくれて、おそらく彼女もそんなことを実感出来たから、どんなことが起こっても自然と受け入れ、あんなに軽やかで優しい慈愛の表情を見せたのではないかと感じさせた、それは、まるで星そのものに見守られている祝福を受けたかのような、この上ない歓びである。

     このおはなしの再話にあたり、イタリアを代表する作家、イタロ・カルヴィーノは、民話について、『つねに変化しながら繰り返されてゆく人間の個々の営みのなかで、人生そのものを解き明かしてくれる存在だ』と、考えていたそうで、もしもそれが、人も植物もやがては還ってゆく故郷は一緒なのだ、ということであるのならば、こんな素敵なことは無いのではないかと思わせた、それは、常に変化する世の中に於いて、決して変えてはいけない、人生そのものと同様に、とても大切なことなのではないかと、私には思えたのである。


     本書は、はまだかよこさんのレビューをきっかけに、読むことが出来ました。
    ありがとうございます。

    • はまだかよこさん
      たださん、おはようございます
      お気に入りのこの絵本、ずっと手元に置いています
      いつもながら深く読み取られるのに感嘆します
      私は「好き」...
      たださん、おはようございます
      お気に入りのこの絵本、ずっと手元に置いています
      いつもながら深く読み取られるのに感嘆します
      私は「好き」だけであとは何も考えていないから(笑)
      一冊の本への共感って人の距離を縮めますよね
      これからもよろしくお願いいたします
      2024/02/04
    • たださん
      はまだかよこさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます(*'▽'*)

      ずっと手元に置いているくらい、お気に入りなのも分かるような気が...
      はまだかよこさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます(*'▽'*)

      ずっと手元に置いているくらい、お気に入りなのも分かるような気がしまして、このおはなしには、イタリアの果物に対する感謝の気持ちや、カルヴィーノが全国を巡って200編の民話を集めた中の一つであることに加えて、酒井駒子さんの素敵な絵があるわけですから、これは、ずっと見ていたくなりますよね。

      更に私的には、訳者の関口英子さんが、第一回須賀敦子翻訳賞を受賞されていたりと、イタリアに対する興味が少しずつ増してきたようにも感じられて、より印象深いものになりました。

      そして、ペリーナが眠る見開きの絵は、何度見てもため息ものですし、彼女たちを優しく照らす、ぽっと浮き出たような月も改めて見ると、そのくっきりとした存在感に心奪われるようです。

      それから、人の距離を縮めてくれる、一冊の本への共感、素敵なお言葉だと感じました。
      とても嬉しいです(´▽`)
      私も本来は「好き」だけなのですが、それを短い文章で上手く伝えられないので、こうしてダラダラと長くなってしまいまして、回りくどい表現ばかりで申し訳ないのですが、こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。
      2024/02/04
  • 行きつけの図書館の絵本コーナーに面陳で置かれていたのを見かけて。

    一体全体こういう本はどういった経緯で生まれてくるのだろう。
    絵と文の作者が異なる作品というのはたまにある。
    が、海外の作家さんが著したイタリア民話の再話に対して酒井駒子さんの絵、というのは。。

    原作の絵本があるのか、はたまた物語だけすでにそこにあり、後から絵を添えたのか。
    再話というからにはあえて海外の作家さんが紡いだのではないかと思うのだけど、物語と絵の質感が最高にマッチしていて素敵。
    わざわざこの一作品のための国境を越えた企画!?

    ある農民がいつもは籠3つ分一杯の梨を王様に貢いでいるのだが、不作だったため、ひとつの籠に娘を入れて納めるというとんでもな背景で始まる物語。
    そこから、王子様と仲良くなったり、それ故に他人の妬みを買い魔女の宝物を奪いに行かされるはめになったりの浮き沈み。

    臨場感溢れるワンシーンごとの酒井さんの絵から目が離せない。
    ペリーナ頑張れ、ペリーナ良かったね、と。
    ラストのハッピーエンドも微笑まし過ぎる。
    ちょっとかすれたようなタッチの絵の中に、なぜか滲み溢れる感情が見えてしまう不思議。

    • fukayanegiさん
      アテナイエさん
      こんにちは。

      コメントありがとうございます!

      そうです、梨の子、ものすごくかわいいんです。
      なんでこんな子を...
      アテナイエさん
      こんにちは。

      コメントありがとうございます!

      そうです、梨の子、ものすごくかわいいんです。
      なんでこんな子を籠の中にいれて王様に貢いでしまったのか全然意味わかんないです。
      とにかく、こんなに物語と絵が融合した作品は稀で、読んでいてとても心地よくて手元に置いておきたい気持ちすごくわかります。

      イタロ・カルヴィーノさんてそんなすごい書き手さんだったんですね。
      知らなかったです。
      あまり調べもせず、思うがままを書き連ねてしまうので、その方面の方にはそんなのこういうことだよって思われるかもしれず、お恥ずかしい限りなのですが、少しでもにんまりして頂けた部分があったようで嬉しいです!
      2022/10/08
    • アテナイエさん
      fukayanegiさん、わざわざご返信までいただいて嬉しいです。

      「なんでこんな子を籠の中にいれて王様に貢いでしまったのか全然意味わ...
      fukayanegiさん、わざわざご返信までいただいて嬉しいです。

      「なんでこんな子を籠の中にいれて王様に貢いでしまったのか全然意味わかんないです。」

      いいですね(^^♪やはりfukayanegiさんの素敵なコメントに、思わず顔もほころんで、にんまりしてしまいました。こちらの絵も素朴で、色がまたシックで懐かしい雰囲気で素晴らしいですものね。

      たしか、この梨の子はカルヴィーノが集めたイタリア民話の中に似た話があったと思うのですよね……ちょっとうろ覚えですみません。
      もしよろしければこの機会にカルヴィーノはいかがでしょうか。『マルコヴァルドさん』あたりは、子どもと動物とすったかもんだかで笑えますよ。
      すみません、よけいなことばかり書いてしまって。ペリーナーに免じてお許しください(笑)
      2022/10/08
    • fukayanegiさん
      アテナイエさん

      いえいえ、お勧めまで頂いてありがとうございます。
      行きつけ図書館にあったのでさっそく予約してみました。
      アテナイエさん

      いえいえ、お勧めまで頂いてありがとうございます。
      行きつけ図書館にあったのでさっそく予約してみました。
      2022/10/08
  • 先月参加した『絵本のたねまき』で紹介していただいた
    イタリアの昔話
    イタロ・カルヴィーノ再話
    そして!酒井駒子絵
    これがなんとも魅力的(⋈◍>◡<◍)
    特に『かまどの女』『血のような川』を描きたかったとか

    昔話お約束の「三つ」が
    繰り返されます

    読み手ははだしのペリーナと共に
    苦しくなったり希望をもったり
    どこまでも駆けていきます
    絵の奥深くまで

    きっとペリーナは低い階層の貧しい人にやさしい王女になることでしょう

    ≪ 大地から 実りの梨の 宝物 ≫

    • はまだかよこさん
      たださんへ

      追っかけのオッカケをしてくださってありがとうございます。
      おススメです。
      買ってもた(買っちゃいました)

      また「...
      たださんへ

      追っかけのオッカケをしてくださってありがとうございます。
      おススメです。
      買ってもた(買っちゃいました)

      また「絵本のたねまき」に参加しますので仕入れてきますね
      友人から「発熱星人」と言われるようによく熱出してダウンしますので
      体調が良ければ(笑)
      コメントありがとうございました
      2023/11/22
    • たださん
      はまだかよこさん、お返事をありがとうございます(^o^)

      追っかけのオッカケ、してしまいましたね(笑)
      是非、読みたいと思います。

      最近...
      はまだかよこさん、お返事をありがとうございます(^o^)

      追っかけのオッカケ、してしまいましたね(笑)
      是非、読みたいと思います。

      最近、特に気温の変動が激しくなってきたように思われますし、週末はとても寒くなるそうなので、お身体、大事になさって下さいね。
      2023/11/22
    • はまだかよこさん
      たださんへ
      ウフフ(*´艸`*)
      ありがとうございます
      75歳婆さんは「発熱」の間隙をぬって動き回っております(笑)
      昨日は保育園で...
      たださんへ
      ウフフ(*´艸`*)
      ありがとうございます
      75歳婆さんは「発熱」の間隙をぬって動き回っております(笑)
      昨日は保育園での「読み聞かせ」楽しんできました
      ここは年齢関係ないのでうれしいな
      またよろしくお願いいたします
      2023/11/23
  • 酒井駒子さんの絵がとっても素敵。足りない梨の代わりに娘を納めてしまうという衝撃的で残酷な幕開けでありつつ、逞しく心優しい少女のサクセスストーリー。ペリーナという名前が梨から来ているのが可愛い。英語で梨はペア、フランス語ではポワール、イタリア語ではペラ。でもこの子の生まれたときの名前はどこにいったんだろう?

    ヨーロッパの民話は階級間越境が主題になっていることが多いってどこかで読んだことがある気がするんだけど、どこだったかなぁ。

  • イタリアの昔話。
    今年は外国の昔話も多く読めるように意識しよう。

  • 酒井駒子さんの表紙にひとめぼれのジャケ買いだったけれど、イタロ・カルヴィーノの再話によるゆうめいなイタリアの昔話が酒井駒子の絵で語られるというぜいたくコラボ。かしこくやさしい女の子が3枚のお札的困難を乗り越えるお話。

    ちょっと既視感があるなぁと思って本棚をさぐってみたら、
    剣持弘子(再話)、小西英子(絵)「プレッツェモリーナ<イタリアの昔話>」(こどものとも2019年3月号)が、やはり女の子が主人公の「ラプンツェルと三枚のお札とカエルの王子がミックスしたような昔話らしいお話」だった。擬人化された扉の蝶番に油を塗ってやるというのがイタリアっぽさか?

    イタリアの昔話に興味がでたら、
    イタロ・カルヴィーノ(再話)安藤美紀夫(訳)安野光雅(画)「カナリア王子 イタリアのむかしばなし」福音館文庫
    がおすすめ。ここにも「ナシといっしょに売られた子」という題で入っている。

  • 梨の籠に入れられ王様の宮殿におくられた<少女ペリーナ>は、召使として働くことに。父親や王様からの理不尽な扱いを受けながらも、旅の途中で出会う「不思議なものたち」の苦しみを解き放ち、「魔女の宝」を探しに行く心やさしい<ペリーナ>・・・その勇敢で清らかな姿に胸うたれるイタリアの昔ばなしです。 <酒井駒子>さんの絵も素晴らしく、惹きつけられます。

  • イタリアのカルヴィーノの昔話。酒井駒子の絵が雰囲気を出している。

  • いいなぁ!
    王道のおとぎばなしだ。

    梨のカゴに入れて捨てられた少女が
    ある試練を受け、賢者の後ろ盾を得て
    それを上手に解決することで
    幸せになりました…で終わる。

    酒井駒子さんの絵もやさしくて。
    手足の生えた「宝箱」も妙にかわいい!

  • 表紙の色合いに魅せられる。祖父母が梨を作っていたため、梨がモチーフになっているのが嬉しい。イタリアの昔話であるため年貢として女の子が王室に運ばれるという驚きの幕開けであるが、逞しくしなやかに生きる少女は人、動物、自然という世界のあらゆる事物に対して分け隔てない優しさを持って接することで、世界が包み込まれていくよう。ハッピーエンドとは裏腹に、不平等、差別、人の噂や悪意、偏見や排除などあらゆるものを見せる対比が興味深い。願わくば、ペリーナが、王女として貧しい人や悲しみに暮れる人々に生きる希望を与えますように。

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著者プロフィール

イタロ・カルヴィーノ(Italo Calvino)
1923 — 85年。イタリアの作家。
第二次世界大戦末期のレジスタンス体験を経て、
『くもの巣の小道』でパヴェーゼに認められる。
『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』『不在の騎士』『レ・コスミコミケ』
『見えない都市』『冬の夜ひとりの旅人が』などの小説の他、文学・社会
評論『水に流して』『カルヴィーノの文学講義』などがある。

「2021年 『スモッグの雲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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