トマト缶の黒い真実 (ヒストリカル・スタディーズ)

  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778316167

感想・レビュー・書評

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  • 帯に書いてある「イタリアで出版禁止」の文言を見て、「全世界に向けて蓋を開けたのに肝心の場所で封をするってどうなの?」と一人ツッコミを入れた。トマト缶に限らず食料品の製造工程には生産者や工員の労働環境や添加物など何かしらの問題がついてくる。トマト缶に限って、今(と言っても刊行されたの3年前だけど)言わなきゃいけない「黒い真実」とは?

    落ち着いた語り口調だけど調査で訪れた場所や人々の様子を克明に描写してはって、写真が一枚もないのにページをめくる手が止まらなかった。ハインツ社の栄光から全世界に散財する忌まわしき生産過程に至るまでの大博覧会。

    思い込みが覆される時ほどゾッとするものはない。自分にそれが訪れたのは「加工用トマト」の存在を知った時だった。(本当に恥ずかしい事だけど知らなかった…)生食用とは別物でググってみたら確かに断面から違う。(トマト加工事業で有名な某日本企業のHPを参照)勿論実害はないのだろうけど、自分の無知さ加減+思っていたのと違う物を食べていたという事実にしばらく脳がフリーズした。

    本当の原材料の産地を考えたことがあっただろうか。加工用トマトを知っていてもここで中国が出てくるとは想像できただろうか。中華料理に使われているイメージがなくて中国がトマトの最大輸出国になっているのが謎だったけど、栽培や工場の現場に一大企業、何より広大な畑がウイグル自治区にあることが不気味度をMAXに引き上げた。もはや一つの国家に見えてきて、筆者は決死の(⁉︎)潜入を果たしたわけか。
    イタリアへの移民労働者が身を寄せているというゲットーの惨状は心をえぐられる…(イタリアなのにこんな想像を絶する生き地獄があるのかと)

    ‘18年当時から代わり映えしていなければ、子供も働かざるを得ないウイグルの畑から来た、あるいはイタリアン・マフィアが手を染めたトマト製品を今もどこかで口にしているのだろう。(おかげでイタリアで出版禁止の理由が薄っすら分かった)溢れんばかりの「黒い真実」、蓋を開けたらびっくりだ。

  • 食料品はついついまとめ買いをしてしまっています。
    トマト缶は以前は200円くらいしたと思うのですが最近は100円で売っているし、まとめ買いすれば1缶70円ぐらいにもなっています。
    こんなに安くていいの?という疑問もあったのですが、安いのはありがたいのでやっぱり買っていました。
    そんなところにこの本を見かけたので読んでみました。
    フランスのジャーナリストによる、トマト缶生産過程と流通のルポタージュですが、その問題点として資本主義の問題点、労働者搾取問題などの根本に話が及んでいます。



    まずは原材料であるトマトの収穫。
    トマト加工品と言うと、八百屋で売られる赤く丸く瑞々しい姿を思い浮かべるが、実際に使用されるのは加工に適した特徴を持つ遺伝子工学研究の末に人工的に生み出された「加工用トマト」。細長く堅く、水分を飛ばす作業を減らすために水分が少なく重くて実が詰まっている。収穫後にトラック輸送したり加工機械に入れても潰れない様に皮は分厚く堅く丈夫に作られている。

    世界に流通している加工用トマトの輸出国は、中国、イタリア、アメリカで大半を占めている。
    中国では新疆ウイグル地区にある巨大なトマト畑でトマトの収穫が行われる。
    ウイグル地区は、石油、石炭、天然ガス、石炭、ウラン、金といった天然資源を持つため、歴史的に中国やロシアの支配下に置かれたり、ほんの短期間独立したりしながら、現在では「新疆ウイグル自治区」として中国に併合されている。
    ウイグル自治区では、中国の兵団が管理するトマト畑で収穫し、加工工場で缶に詰め、その工場を動かすための天然資源も採掘できる。そしてこの広大な土地では軍事訓練も行う。

    ウイグル自治区でドラム缶に詰められた三倍濃縮トマトは世界中に輸出される。
    売り出す時には加工地を書けばよいので、フランスやイタリアで中国産三倍濃縮トマトを水で薄めて二倍濃縮トマトに再加工して売ったとしても「フランス産」「イタリア産」として販売できるというシステム。

    トマト加工会社として、アメリカの食品加工会社ハインツカンパニーの歴史が語られる。
    南北戦争や二つの大戦により、缶詰食料の売り上げは伸び続けた。アメリカ大企業の歴史は国家の発展の歴史でもある。
    ハインツカンパニーは一度もストライキが起きていない、家長制度により運営されたなど、アメリカ優良企業だが、その反面過重労働が行われて来たり、歴史を経て原材料は自社のトマト畑ではなく中国から購入した安いトマトを使用するようになった。

    イタリアでは、トマトはイタリアの発展を示すプロパガンダにも使われた。
    食品販売にはイタリアの四大マフィアが資金洗浄のために関わって行った。
    手配師たちが、国内求職者や移民たちに違法で仕事を斡旋し手数料を取る。

    賞味期限が切れたり衛生基準を満たしていないドラム缶詰め濃縮トマトはアフリカに輸出される。そのようなトマトを輸出しやすい国は、衛生基準が緩く、税関審査が厳しくなく、管理体制に不備があり、公務員が買収されやすい国々だ。
    メーカーは流通業者に安く提供できるために添加物を提案する。トマト缶詰にはランクが付けられるがそれは添加物の割合。添加物が多くなるほど安くなる。
    アフリカはかつてトマトを生産していたが、今では生産地としてイタリアやフランスの国名が書かれた中国産が出回っている。

    食料の多くは労働者が搾取されて生産されている。食品が高く売れたとしても、儲かるのは中間販売者であり農業生産者ではない。オーガニックでも原産地がはっきりしていてもそれは同じだ。
    世界各国多くのメーカーが出しているトマト缶の違いはパッケージデザインだけで中身の大半は中国の濃縮トマトを元にした加工品だとしたら、現在の流通とは「多様」「競合」「選択の自由」を提供しているようで、実際には一部の人間の利益のみ追及されているのではないか。


    …というように、”トマト”というなんだか明るい印象の野菜の売買を通して浮かび上がる現在社会の問題点の深さ。
    この本ではトマト缶に焦点を当てていますが、トマトに限らず自分が食べる食料、自分が使う用品すべてに共通する問題です。
    トマト缶が安い~と軽く買っただけなのに、深くて絡まった網目をさらに絡まらせる役目を担ってしまったような気分。。
    「商品を選択する自由もない」「オーガニックだろうが搾取は行われる」となったら何をどうしたらよいのか分からなくなってしまうのだが、安い~、に飛びつきただでさえ絡まった網目をさらに混乱させることはしないように気を付けていきたい…

    • goya626さん
      うわー、何たる現実!トマト缶はよく買うのです。安いのには訳があったのですね。
      うわー、何たる現実!トマト缶はよく買うのです。安いのには訳があったのですね。
      2019/11/10
    • 淳水堂さん
      goya626さんこんにちは!

      最近安いものはとことん安くなってますが、飛び付く前に考えなければですね。
      読み物としても面白いので是...
      goya626さんこんにちは!

      最近安いものはとことん安くなってますが、飛び付く前に考えなければですね。
      読み物としても面白いので是非読んでみてくださいな。
      2019/11/10
  • フランス人ジャーナリストによるトマトペースト缶の生産と流通の裏側を暴いたルポルタージュ

    本書は、出版と同時に大きな話題となり、大手経済紙レゼコーは
    「これは、ルポルタージュであると同時に、冒険小説、サスペンス・・・読者をグローバル経済の恐怖に陥れる。とてもおもしろく、素晴らしいが、恐ろしい本だ 」
    と評したという

    一家の台所を任されている主婦としては、おもしろいなんて言っていられない
    ただ、ただ恐ろしく、何を信じたらいいのかという思いしかない

    前から疑問には思っていた
    スーパーに並んでいるイタリアからの輸入品と思われるトマト缶の安さ
    安いのはありがたいが、あまりに安すぎはしないかと

    イタリア産というのは、加工がイタリアでされたというだけで、大部分が中国で生産されたトマトを中国の工場で2〜3倍に濃縮されたものを使っているという
    原材料国の表示はなし、赤、白、緑の国旗のついた明るいラベルを缶に貼って、イタリア産の出来上がり
    もちろん中国産が悪いというのではないが、消費者を騙していることにはならないか?

    酸化が進んだ濃縮トマトは、水で薄め、デンプンや食物繊維でトロミをつけ、着色料で赤く染め、主にアフリカに送られるという
    読んでいて、気分が悪くなった

    企業倫理なんていう言葉は、絵空事でしかないのか
    それと同時に、消費者が安いのを求めすぎるのも問題なのではないかと感じた

  • さて問題です
    濃縮トマトの生産と輸出の国はど~こだ?
    イタリア?フランス?トルコ?
    正解は中国でした~!
    「でもスーパーのトマト缶ってイタリアが多くない?」
    実はそれって…
    さてさて、トマト缶の恐ろしい真実を知って本当にその缶を買えますか?

    世界各国のスーパーに並ぶトマト缶
    農産物の加工品と思ったら大間違い!
    ラベルのトマトとは似ても似つかないトマトを使用
    中国産の濃縮トマトをイタリア産として販売する会社
    イタリアのトマトの収穫などで奴隷のように働かされる人々
    今やトマトは麻薬以上に利ザヤを稼げるアイティムに!?
    アグリマフィアたちが狙うトマト市場
    カポラーレとゲットーの存在
    さらに世界中が食いものにしようと狙うアフリカの市場
    中国の一帯一路を担うトマト工場
    腐ったトマト缶の輸出
    カポララートという労働者搾取システムに支えられた「自由主義」

    これを読んだらトマト缶は食べまい!と思うに違いない
    もちろんトマトケチャップやパスタソースなどの加工品も然り

    トマト缶には腐敗政治と添加物と現在の奴隷制度が詰まっている。

  • オリーブオイルも、イタリアンマフィアのフロント企業のマネーロンダリングの道具となっていることを知っていたので、さもありなんと思った。
    しかし、オリーブよりタチが悪いのは、ウイグルも絡んでいること…
    もう2度とトマトの水煮缶を食べることはないかな…

  • 東京新聞:暗部を探る駆け引き 『トマト缶の黒い真実』 フランス人ジャーナリスト ジャン=バティスト・マレさん(31):Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2018042202000177.html

    太田出版のPR
    ・「中国産」が「イタリア産」になる流通の謎
    ・「添加物69%」の現場
    ・腐ったトマトの再商品化「ブラック・インク」とは
    すべてはトマト缶をめぐる真実だ。
    …それでもトマト缶を買いますか?

    トマトは170カ国で生産され、トマト加工業界の年間売上高は100億ドルにのぼる。だがトマト缶がどのように生産・加工されているかはほとんど知られていない。
    中国、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカを舞台に、業界のトップ経営者から生産者、労働者までトマト加工産業に関わる人々に徹底取材。世界中で行われている産地偽装、大量の添加物や劣化した原料による健康被害、奴隷的に働かされる労働者などさまざまな問題を暴く。
    世界中で身近な食品であるトマト缶の生産と流通の裏側を初めて明らかにし、
    フランスでも話題沸騰の、衝撃的ノンフィクション。
    http://www.ohtabooks.com/publish/2018/03/01000010.html

  • トマト缶の原料は、いつも見ている丸いトマトではなく、加工用の濃縮トマトかも知れない。
    2倍濃縮というのは、煮詰めて濃縮したのではなく、3倍濃縮に品種改良されたものを薄めたものかも知れない。
    原料のトマトは、貧困地域(新疆ウイグル自治区とか)で低賃金労働によって搾取されて栽培されたものかも知れない。

    何も気にしなければ、こうしたものを購入している可能性はありますね。需要があれば、供給もある。コーヒーのフェアトレードというのは認知されてきたと思いますが、トマト缶の世界にも同じような話があるのですね。
    スーパーで何気なく手に取るトマト缶の値段の差は、こうした背景があるということを知ること、行動を変えるきっかけにしていきたいです。

    あと、日本にはないと思うのですが、腐って黒くなってしまった「ブラックインク」と呼ばれるトマトが加工され、主にアフリカ向けに出荷されているそうです。そんなもん売るなよと思うのですが、品質不良でも買う人がいる世界もあるってことですよね。貧困は恐ろしい。

  • 原産地偽装という事ではなく、それはルールとして表示義務がないのなら、悪い事ではないのだろう。加工食品におけるそんな話は山ほど転がっているから、トマトを一つの例に、色んな食材の話が紹介されるのかと思った。しかしこの本、全てトマト。オールトマト!故に、取材が深い。

    最も悪いのは何か。原産地を隠したマーケティング?ウイグル問題?収容者の強制労働?添加物?賄賂?アフリカ人への雇用条件?それとも、新疆からガーナまでの一帯一路の覇権思想?違法なのかはグレーだが、単純に、こんなものは食べたくない。こいつらは良心的ではないし、知識的にも資本的にも弱い者を、狡賢く搾取している。そんな風に感じてしまう。

    搾取する奴らから、自衛しなければならない。自衛するには、知ることが重要だ。まだ、まだ。

  • たまには小説を離れドキュメンタリーなどを読んでみた。
    普段目にする、手にする、食にするトマトペースト。大手スーパーに堂々と並ぶこれまた大手メーカーのトマト加工品の裏舞台を暴く、その取材の尽力には脱帽する。
    他国の技術は貪欲に吸収し、そして自国の技術は一切公開しない中国大陸の恐ろしい真実。
    この濃縮トマトの缶詰は氷山の一角で養殖ウナギやミルクパウダー、有害物質の検知でなんども問題になる食の安全を崩壊させる中国だが、決して中国そのものが悪いのではない。コスト重視、販売拡充、利益追従、安く売れればなんでもいい、そして安けりゃ安いほどいいという需要と供給が完全一致した市場が人権無視、安全無視の商品を生み出してる社会そのものが諸悪の根源。
    この本は最後に原料31%、添加物69%の中国加工業者を暴いたが、なにも中国に限ったことじゃない。日本でも産地偽造、賞味期限改ざん、破棄物再利用を当たり前にやっている業者などゴマンといる。そして安く買いたたく商社、安物買いの消費者がいる。
    この本を警鐘としたところで響かないのが現状だ。
    今、コロナウイルスで社会は騒然としているが、コロナウイルスなんて地球規模で考えれば大地に吹く一陣の嵐のようなもので目先に必死の人類の対応に辟易する。
    身に振る火の粉には必死なのに他は見て見ぬふり。喉元過ぎればなんとやら、だ。
    人の業は深く重い。人類ほど同類にやさしくなれない種族はないだろうね。

  • どの国にも身近にあるトマト缶の恐ろしい真実が綴られています。
    著者がトマト缶に関する古今東西の事実を取材し、詳細に丁寧に纏められた文学作品のような出来の一冊。
    あまりの衝撃と面白さと恐ろしさで、あっという間に読了しました。
    日本で流通しているトマト缶は問題ないと信じたい…。

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