加藤周一、米原万里と行くチェコの旅

  • かもがわ出版
2.91
  • (0)
  • (2)
  • (6)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 47
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784780310139

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「中欧から見た世界と日本」という副題がついているように、加藤周一と米原万里がチェコを案内する本ではない。そもそも2人とも既に故人だ。彼女たちと知古ある小森陽一と金平茂紀がこれをテーマにした団体旅行のコーディネーターを勤めた本である。最後の日に韓国ヘイトでパリに来ている辛淑玉の参戦もある。

    ほとんど観光ガイドではない。地図は一切ない。ただ、加藤周一、米原万里、小森陽一と並んだだけで、私にとっては「特別な本」となる。加藤「言葉と戦車(1968)」の副読本であり、2004年9条の会立ち上げの裏話でもある。小森はチェコのロシア語学校の米原の後輩であり、金平も小森も米原の生涯の友達だから、たくさんの裏話を持っていた。なおかつ、小森の博覧強記がチェコのあまり知られていない国の歴史を概括的に説明する旅でもあった。

    加藤周一は、私が最も尊敬している思想家だ。信条として政治参加しないとしていた彼が、信条に反して晩年に9条の会を立ち上げたのは、9条改憲の最大の危機を自覚したためだ。今回わかったのは、日本最高峰の知性が「今がチャンスだ」と戦略的に考えたからだった。加藤周一は後に9条の会の事務局長になる東大文学教授の小森陽一に聞く。
    「小森くん、60年安保世代は今何歳だ?」
    「当時20歳ならば63歳、30歳ならば73歳です」
    「そうか。全員会社を辞めて組合からも自由だな(今が闘い時だ)」(56p)
    実際、9条の会はその後急速に拡がり、やがて改憲反対の世論は、その後逆転するである。他にも幾つか逆転する要因はあるが、現在に至るまで改憲を許していない。私は9条の会を、「戦術的」ではなくて「戦略的」に、戦後の支配者側の思惑に勝った唯一の例だと思っている。

    閑話休題。
    金平さんはジャーナリストらしく、米原万里さんとの裏話を、かなりあけすけに語っている。驚いたエピソードがある。山口記者の伊藤詩織さんへの事件のような酷いことが、米原万里さんにも起きていた。当時橋本龍太郎首相のロシア語通訳を勤めていた米原万里さんに、橋本は酒に酔って米原さんの部屋に突然入ってきていきなり覆い被さって来たというのである。万里さんは腕力があるから蹴っ飛ばしてことなきを得た。橋本は「おれがこういうふうに来て、断ったのはお前が初めてだぞ!」と捨て台詞を残して帰っていったらしい(114p)。時の政権が山口を庇った理由がこれでも判る。

    半分以上は、加藤周一・米原万里が見る世界と日本を、小森・金平そして辛の目から解説した内容である。私には、とっても面白い紀行本だった。

  • 加藤や米原は故人であり、3人の著者と一緒に旅するわけではない。彼らが訪れた街を訪ねて小森らが語り合うものだ。

    が、3人の話がそれぞれに興味深い。小森はチェコにかつて住んで詳しく、金平は報道陣として厳しく、辛は被差別体験者として言葉に説得力がある。コンパニオン採用の話は泣きそうになるくらいだった。

  • 絶妙な切り口、、、

    かもがわ出版のPR
    ハプスブルグ家から「プラハの春」ソ連崩壊まで
    加藤周一、米原万里の足跡を辿りながら、ウィーン・プラハの美しい町並みと歴史遺産を散策。ハプスブルグ家から「プラハの春」「ビロード革命」、ソ連崩壊に至る激動の歴史と、中欧から見る日本と日本人について縦横に語る。面白トーク・写真いっぱいの「読むチェコの旅」へ、さあご一緒に。カラーグラビア8頁。
    http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/ka/1013.html

  • チェコのことを知りたくて手に取りました。
    内容的には、チェコの近代までの歴史と1900年以降の思想史を定点観測している感じです。
    1945年以降、当時のチェコや世界がどうだったかを、経験者が語っていることで、興味深く読みました。

  • 加藤、米原両氏のネームバリューに依存した、安易な企画という感じは否めない。

  • 故人である加藤周一と米原万里の行動や著書引用を紹介しながら、現在の日本政府やマスコミの姿勢を批判している内容。しかし、それに対する具体的な方策などは示されていない。チェコの旅案内ではなく、紛らわしい。

  • 東2法経図・6F開架:293.4A/Ko67k//K

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

1953年東京都生まれ。東京大学教授、全国「九条の会」事務局長。主な著書に、『ことばの力 平和の力――近代日本文学と日本国憲法』(かもがわ出版)、『記憶せよ、抗議せよ、そして、生き延びよ 小森陽一対談集』(シネ・フロント社)、『あの出来事を憶えておこう 2008年からの憲法クロニクル』(新日本出版社)など。

「2018年 『手塚マンガで憲法九条を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小森陽一の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
アンデシュ・ハン...
辻村 深月
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×