黒部の太陽

著者 :
  • 信濃毎日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (369ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784784092161

感想・レビュー・書評

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  • 黒部の太陽

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    初版が昭和39年です。
    一度、廃刊になって、その後、復刊となりました。
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    【後書き】
    著者が振り返っています。
    著者が畏友とする司馬遼太郎氏の祝辞です。

    「文学にはすべて原典というものがある。原典を書くということは文学者すべての念願なのだが、木本氏 はそれを本書で果たされた。二〇世紀の神話と謳われる黒四の工事については、後世いろんな文学作品や 著述が生まれるだろうが、その原典として、その人たちは本書を必ずひもとかねばならない。同じ文学の 道にたずさわるものとして、まことにうらやましい限りである」

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    【黒四ダム】
    工期7年長、総動員数1,000万人。
    工事費500億円超。
    施主.関西電力の当時の資本金100億円の5倍の規模です。

    施工は、大成、間、佐藤工業、熊谷組です。

    【工事の始まり】
    前人未踏の大工事です。
    そのため、施工会社は見積もりすらできません。
    施工会社は、関西電力からの申し入れ、嘆願を受け入れ、言い値で施工を開始せざるをえませんでした。

    ふもとの村に資材をおくための用地交渉、買い取り。
    ここから難航します。
    地縁がある地元の人は、土地を手放したくないためです。

    【雪との戦い】
    過去の黒部第一から第三のダムの工事では、雪崩にあい、宿舎ごと流された痛ましい事故がありました。
    そのことを鑑み、頑丈はもちろん、衛生上にも申し分の無い施設をつくり、施工スタッフを迎えよう!という関西電力の気持ちも描かれています。

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    【印象に残るシーン】
    1.施工会社大成建設
    責任者自身が事故、そして1年近くの入院されました。
    急死に一生の状況でした。
    この方は、その後取締役として、安全面を担当されたとのことです。

    2.関西電力の当時の社長
    この難工事が社長の揺るぎない信念で支えられていたこともわかります。
    また、なぜその信念を持ちつづけられたのか?の背景も理解できます。

    多くの難関に対して、一切ひるまず「金は気にするな。安全とそして国民の生活に電力を」の姿勢を貫かれました。

    当時の滋賀県、奈良県の全域の電力をカバーする黒四工事。
    トップのリーダーシップ、生き様がみてとれます。

    3.破砕帯
    1秒間に500リットル以上の地下水が吹き出した難所。
    この難所に挑んだのが、トンネル、ダムの名施工の笹島組です。
    40代の若き親方社長の「突破できる」の信念、そして7か月に及ぶ水抜きがあってのトンネル貫通でした。

    映像と違い、文字で味わうノンフィクションの世界。
    私は、好きです。

  • 小説仕立てではあるが、著者は当時新聞社の編集委員で、登場人物たちもすべて実名であるというから、脚色されたノンフィクション、といった趣か。
    派手な演出や凝った技巧などはまったく見られないが、それ故に素朴な事実の記録に近いものとして感じられる。

    タイトルにもある"黒部"の名がついた黒部ダムが一般的には有名だが、本書で描かれているのはダムそのものの建設ではなく、それに先立つトンネル掘削工事の顛末。
    今の時代に読むと、私などは「かけがえのない自然に挑み、それを歪めてまでしてこのようなものを造らなくても…」と思ってしまうが、黒部ダムと黒部川第四発電所の建設が計画された当時にとっては、これこそが誰も疑義を挟まない、唯一絶対の解だったのだろう、という想像はつく。
    日本全体が戦後の復興に取り組み、それを高度経済成長という形をとって実現しつつあった最中。
    そういった背景の中、文字通り命を賭して黒部峡谷の秘境にあれだけの巨大施設を造り上げてしまった人間の力の大きさというものは、心からの賞賛に値すると思う。

  • 黒部ダム建設の苦闘を描き切る感動作。登場人物の内面にまで踏み込んだ描写は深く静かな感動を残す。これは読むべき本ですね。

  • 黒部ダム建設を、関電トンネルの貫通に焦点を絞って描いた作品。

    以前に吉村氏の高熱隧道を読んでいたので、黒部でのトンネル堀の大変さは理解していたが、男達の壮絶な闘いに胸をうたれた。

    しかし、それにしても、いわゆる日本型労働のバカバカしさには時代を超えて?を感じた。


    自分も50を超えているので、こういう頑張りが、高度成長時代を支えたのはそれなりに理解はできるが、黒四に殉じた人は本当に幸せだったのかな。いろいろ考えさせられた。

  • 利益をただ追求するのではなく、日本の発展のために、会社全体で困難な工事に取り組む姿に感銘を受けた。命懸けで頑張ってくれた人がいたからこそ、今の日本があるのだと知った。

  • 自分のためじゃなく大きなものに突き動かされて、全力どころか2000%の力をもって成し遂げる、漢たちの仕事、ザ昭和である。こんな情熱を傾けられる仕事すごい。。黒部また行きたいなぁ、今度は破砕帯の意味をわかって通り抜けることができるわ。当時は何なんだかよくわからなかったから。その場でパネルを読んでも分かった気にもなれないね。観光として大繁盛の黒部ダムはこんな人々の魂と情熱とによって出来ていたんだなと。

    高熱隧道との対比でこちらは読みやすい。人間のうごめく感情とかはなく、真っ当なドラマ、どなたかの言葉を借りれば人間讃歌。衝撃度では高熱隧道。

  • 吉村昭の『高熱隧道」は黒部第3ダムだったけれど、今回の『黒部の太陽』は20世紀の偉業と言われる黒部第4ダム建設のお話。あっとゆー間に読めます。これぞプロジェクトマネージャーという、人を引っ張って行く姿も垣間見えました。
    .
    以下、抜粋

    男が、男を賭けて男の仕事をやる以上は、不可能をも可能にするのほかない時があるのだった。中略
    じっと耐えていれば、自然に出口の判ってくるものなのだが、だがまたその出口へは、身を捨てて、必死で走らねばならぬ瞬間もある。

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  • 古い時代に書かれた本だし、黒四ダム・発電所工事の全貌を知るには適切な本だと思うのだが、どうにも中途半端な書きぶりだ。関係各社の幹部たちの立派さは否定しないが、せめて、下っ端の労務者のインタビューを行って反映するとかぐらいした方が良かったのではないか?

  • 黒部第4ダム(クロヨンダム)の建設工事のドキュメント。映画にもなっているんですよね。困難を乗り越えてダム完成に至るまでが、建設作業員が抱えるプライベートでの困難とともに語られる。第3ダム建設を扱った「高熱隧道」(吉村昭)とともに、ダム建設の様子を今に伝える作品。「高熱隧道」は、吉村昭の筆の力によって、よりドラマチックな作品になっていますが、こちらもドキュメントとしては貴重な作品といえるのではないでしょうか。

  • あの有名な黒部ダムを作るお話。
    メインはトンネル工事の話。
    昔の技術者は休みもなく家族にも滅多に会わず仕事のために力を尽くしていたようです。
    それが当たり前でそんな人たちが今の日本を築いたのでしょう。
    今後の日本が不安です。

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著者プロフィール

作家

「2014年 『トヨタの経営精神』 で使われていた紹介文から引用しています。」

木本正次の作品

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