現代思想 2020年3月号 特集=気候変動

  • 青土社
3.50
  • (0)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 24
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791713950

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 食料生産が及ぼす気候変動への影響について興味があり、手に取った。私の問いに対してそのものずばりのテーマではなかったので、さらっと目を通して終わりかなと思っていたが、予想に反して面白い論稿がいくつもあった。また、参考書籍で読んでみたい本も見つかった。

    山内明美「明日なき《世界》」は、自動車社会や東日本大震災を例に挙げ、故郷を失われた人たちの「喪失」は外部へと追いやられ、自己回復が困難であると述べる。

    藤原辰史「「規則正しいレイプ」と地球の危機」では、食料生産が気候変動に与える影響についても言及。化石燃料を手にした人間は、その「高速回転」の力を手に入れた。そしてその大きさ・速さに思考を奪われ、自らもその回転の中に巻き込まれている。

    また、足達太郎「気候変動とアフリカ」は、定住農業がもたらした影響、それと比較したアフリカの農業形態についての論。生産性を高めることをよしとして、それを押し付けてきた「先進国」側の施策に対して、その土地に暮らしてきた人々が営んできた環境と共生する農業のあり方こそが、人間と生物の多様性の保全にとっては見直されるべきではと説く。

    芳賀浩一「気候変動をめぐる「遅い暴力」」からは、今後読みたい本を見つけた。一冊は、原発事故を契機として政策転換をしなかった日本の未来を描いた多和田葉子『献灯使』。そのディストピアでは、老人の方が若者よりも頑強であるという。また、髙村薫『土の記』は、原発事故後の世界を表面上は何事もなく平穏に過ごす主人公の生活や内面世界を軸に、「人間が永遠にわかり得ない謎を秘めた存在であることを語ると同時に、あらゆる人間は地球の大きな循環の一部でもあることを表現」しているとのこと。
    最近は知識欲のために、文芸作品を読む余裕があまりなく、しかしそれも寂しいと感じていたので、今の問題意識につながるような作品を知ることができて嬉しい。

    山口未花子「「動物」にとっての気候変動はいかに経験されるのか」は、本書の中で一番気に入った「作品」。動物と人間の目線を行き来して語られる物語と、その背景にある思考のあと。その視点の持ち方は、普段生活する中でなんとなく想像するものであり、共感を覚える。「気候変動」という壮大な課題に対して、こんな入り口があってもいい。

    文芸雑誌というものを普段読まないが、様々な著者の考えをいいとこ取りしてつまみ食いできるようで、そのテーマが自分の興味関心に合っていればとても「お得」。また気になるテーマがあれば手にとってみてもいいかもしれない。

  • 20/09/17。

  • カテゴリを地学にしたように、どちらかというと理系寄りの話を期待していたが、行政の話などが多かった。まだ中盤ですが。

  • このところ大注目されてるマルク主主義経済学者の斎藤幸平さんが気候危機について寄稿されているということで読んでみました。気候危機は将来のことではなく既に始まっていると指摘、その上で危機を脱するための政治のあり方を検討しています。経済成長と気候危機回避が両立、専門家集団が中央集権的に推し進めていくことなど、これまでの社会システムの枠内(資本主義や社会主義)では解決不可能で、それらを超えた新しい民主主義システムを追求すべきだと述べています。

  • 【特集】気候変動

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

1944年姫路市生まれ。名古屋大学・総合研究大学院大学名誉教授。1967年京都大学理学部卒業、1972年京都大学大学院理学研究科博士課程修了、1975年京都大学理学博士。京都大学理学部助手を皮切りに、北海道大学理学部・東京大学東京天文台・大阪大学理学部・名古屋大学理学研究科を経て、総合研究大学院大学教授・理事の後、2014年3月に定年退職。九条の会世話人、世界平和アピール七人委員会委員。著書に、『科学の考え方・学び方』(岩波ジュニア新書、1996年)、『寺田寅彦と現代』(みすず書房、2005年、新装版2020年)、『科学者と戦争』(岩波新書、2016年)、『物理学と神』(講談社学術文庫、2019年)、『江戸の宇宙論』『江戸の好奇心』(いずれも集英社新書、2022年、2023年)、『姫路回想譚』(青土社、2022年)他多数。

「2024年 『新潟から問いかける原発問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池内了の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×