容疑者の夜行列車

著者 :
  • 青土社
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感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791759736

感想・レビュー・書評

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  • 公演のため、飛行機に乗るため…様々な理由で夜行列車じに乗る。
    そこで出会う人々、出来事。
    多和田さんの作品の距離感が好きだ。
    人物同士の距離感、物語と読み手の距離感。
    そして通底する言語へのこだわり。
    いい。

  • ドイツんだ?

  • さてこの作品、『雪の練習生』とも『犬婿入り』ともまた違う!
    多和田さんって多種多様な作品をお書きになるんですね(゚Д゚)!
    違うとは言ってもちょい硬めで静謐な文章に
    しっかり多和田さんらしさを感じる。
    だけど物語の趣きが異なるのよねぇ。
    今回は列車での旅が軸となっていて
    様々な土地と人々と非日常感が異国情緒を盛り上げている。
    なんで表題が『容疑者の…』なのかな?

  • ほころびるわたし、ほろびゆくわたしは眠りへと繋がれた扉を開く夜ごと、偏在する記憶の内側へと旅立つ。
    わたしは夜汽車に揺られながら窓に映る自分の姿を眺めていた。どうしてだか窓には無数の鏡像が浮かびあがっている。
    無数の反射をした存在。
    ここは、わたしがわたしであって同時にあなたである空間。彼女がわたしにも彼にもなり得る空間。すなわちわたしは他ならぬわたしであって誰でもあり得る非人称の空間だ。
    加速する夢のあとの混沌。遠く走り去る光の箱をただ凝視するやがて何も見えない暗闇。
    今夜の私は、どこの夜、誰の晩に降りてゆくのか。

  • 「あなた」はいつも夜行列車で旅をしている。性別や年齢、国籍などについて詳しくは語られない。どうとでも受け取れるように書かれている。職業だけはどうやら、前衛舞踏家のようなものであるらしいとわかる。仕事で「あなた」は世界の各地を飛び回っている。

    パリ、グラーツ、ザグレブ、ベオグラード、北京、イルクーツク、ハバロフスク、ウィーン、バーゼル、ハンブルグ、アムステルダム・・・時系列は一貫しておらず、章ごとに別の短編のよう。駆け出しの頃の貧乏旅行もあれば、有名になってからの贅沢旅行もある。

    ちょいちょい不条理だけれど外国だから仕方ないのかもと思ってしまい、たまに幻想的なエピソードも(ハバロフスクで列車から落下する話が好き)まじえつつ、あくまで旅の小説だと思って読み進めたら。

    なんと、エンディング直前で「わたし」が現れた!!ここで何かがくるっとひっくり返される感じ、これはたまらない。鬼ごっこの鬼のように、誰かにタッチするまで代わってもらえない、「わたし」を剥ぎ取られて「あなた」は旅を続ける。もはやホラー。

  • ドイツだけだと思ったらほとんどドイツではない話で列車を中心にした話であった。

  • 新幹線ではこうはいかない。

    あなたはダンサーだけれど、本は読むが音楽は聞かない。ましてメールを見たりもしない。いまその場に、夢うつつに開かれている。

  • まず最初に、この本はミステリーではありません。
    目次を見てもどんな話かよくわかりません。

    第1輪 パリへ
    第2輪 グラーツへ
    第3輪 ザグレブへ
    第4輪 ベオグラードへ
    第5輪 北京へ
    第6輪 イルクーツクへ
    第7輪 ハバロフスクへ
    第8輪 ウィーンへ
    第9輪 バーゼルへ
    第10輪 ハンブルグへ
    第11輪 アムステルダムへ
    第12輪 ボンベイへ
    第13輪 どこでもない町へ

    主人公はダンサー。
    声がかかればあちらへでもこちらへでも出かけていかなければなりません。
    あなたと呼び掛けられる主人公は、決して読者のことではないのです。

    読み始めてしばらくは、アントニオ・タブッキの「インド夜想曲」に似ていると思いました。
    現実と非現実の混沌の中を旅する主人公。
    読み進むうちに増す不条理。

    とてつもなく押しに弱い主人公は、「ま、いっか」とばかりにそれらの不条理を次々と受け入れてしまうので、入り口では思いもつかなかった出口に放り出される。
    主人公だけではなく、読者の私たちも。
    それは文章の持つイマジネーションの賜物でもある。
    実際に見ることのかなわないものを、この目で見てきたかのように差し出される。

    “外気に触れた途端に、鼻の中にもさもさっと雑草が生え繁った。水分が凍ったらしい。耳が付け根から痛んだ。せわしなくまばたきしながら、あなたは、四方を見回した。ああ、これがシベリアか。地面はすりガラス、遠景は筒抜け、指がもげ落ちる、耳がそげ落ちる、その寒さに舌を巻き、尻尾を巻いて、急いで車内に逃げ込んだ。”

    北海道は今、新幹線開通に向けて盛り上がっている…ように報道されている。
    けれど、新幹線のように一瞬で走りぬけていく列車ではなく、鉄の重さでえっこらやっこらようよう走っているような夜行列車が、今とても懐かしい。

    “この頃、面白い人間を見かけない。面白い事件にも居合わせない。それは、お金の心配が無くなって、最短距離を取るようになったせいではないのか。”

    さて、主人公はなぜ「あなた」と呼びかけられているのか。
    なぜ「わたし」ではなく、「彼女」ではないのか。
    それは最後の方に明かされる。

    そして、人称のない世界。
    多和田葉子の筆は、軽やかに世界をまたぎ越す。

  • 一つ一つの短編集。
    日常の中の非日常の列車の旅、、って感じが出ている作品だった

  • 本書は旅人の孤独が主題になっており、身一つで欧州をさまよう旅芸人がまがまがしい道ずれとの触れ合いを通じて絶望を深めてゆきます。
    作品の特徴としては、二人称小説の特性(作者が、主人公の性別を限定していない)を活かして両性具有のモチーフを繰り返し持ち込み、悪夢の強度を高めています。そういう悪夢(=物語)そのものともいえる「あなた」の残酷な秘密が結末近くで明らかにされ、人生という終わりなき旅は、演劇的な狂騒に支配された「どこでもない場所」で幕を閉じます。きわめて美しい作品という印象を受けました。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

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