容疑者の夜行列車

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  • 青土社
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感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791759736

感想・レビュー・書評

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  • ヨーロッパのインターシティ(IC)は、日本人である私のとって、不思議な空間でした。寝台車の経験はないのですが、区切られたコンパートメントには、物語が生まれそうな雰囲気です。そのコンパートメントを軸にして、その不思議さを伝えています。
    ある意味では、ヨーロッパ人にとって、ごくごく当たり前の空間なのですが、その文化的なギャップを見事に突いています。
    語り手は「あなた」と云われる日本人ダンサー、ヨーロッパではそこそこだけど、裕福ではない、日常性と非日常性の交替がすばらしい。
    沼野先生との対談によると、これらの話は著者の実体験に基づくとか。乗り合わせた人と会話ができたら、そういう体験もあったかも。
    難しい理論はtもかくとして、いわゆる「鉄」と云われる人にはたまらないところもあると思います。

  • 夜行列車に乗って辿り着く町はどこか捻れている。飛行機であっという間に到着するのとでは、同じ地理に同じ地名を冠しながらどこか違う。ここに記された12の土地全てが世界の果てのように思えた。自らを「あなた」と呼びかけこの反世界への旅を誘う筆者は、ところどころ「あなた(=読者)」が両性具有であること仄めかす。(読者の性別を限定しない策とも考えられるが)自分が曖昧になって溶けてしまいそうだ。いくつかの捻れを強いられ私は息苦しい。切れ切れにこの捻れがあって現実を生きていける。

  • 全13話(本書では輪と表記するが)からなる連作短篇集。そのいずれもが、表題通りに夜行列車での1人旅であり、「あなた」と2人称で語られる。きわめて静謐で、深みのある小説だ。プロットというほどのものもないのだが、それぞれの地名から喚起される情景と、列車内での情動を「あなた」である読者は追体験していくことになる。時間軸も現在であったり、また過去であったりするのだが、いずれの場合にも我々は独特の小説空間の中に身を置くことになる。そこは強いリアリティを持ちつつも、また茫洋とした夢のような異空間の世界でもある。

  • 多和田葉子の紡ぎ出す言葉は、いつも心地よい違和感に満ちている。
    しかもこの本に収められた作品はどれも二人称で語られるので、不思議な言葉たちに包み込まれる感覚がたまらない。
    いつも枕元に置いて、気がつくと再読している。

  • 長いあいだ意識しながらもなぜか手に取らなかった多和田葉子。今回はじめて読んでみたが、日本語をおもしろがって使っているような表現が新鮮だった。
    読後感としては、不思議な旅をいくつかしてきたような感覚。
    ただ、主人公が「あなた」になった経緯と、なぜ『“容疑者”の夜行列車』なのかがピンとこなかった。再読すればわかるのだろうか。

  • 多和田葉子「容疑者の夜行列車」読んだ。http://t.co/qIJP69hJ 谷崎賞かなるほどね。「のである」多用の文体と全体から分離した比喩が固い違和感を生み出している。主人公の性格はねじくれている。最後2章は必要かなあ。全部が意図したものならすごい書き手だな。

  • 「あなた」と呼ばれる主人公は舞踏家として各地を回っているらしい。その「あなた」が土地から土地へと移動する夜行列車でのできごとを描いた短篇集。

    設定がユニークであり、ヨーロッパに住んでいる人の香りがしてくるような文章はさすがのもの。ちょっと幻想小説っぽいところもいい。

  • 図書館本。

    今までに読んだことのない文体。
    地名が出てくる話は好きだ。どこかへ連れて行ってもらった気分になれる。

  • 世界の夜行列車をめぐる、夢うつつの話。暗いトーンのなかに、バイタリティあふれる主人公の強さが見えてかっこいい。

  • 駅の様子がちょっとおかしい。ホームに人が嫌に少ないのである。それに、駅員たちがそわそわとして、何か秘密でも隠しているようである。駅員をつかまえて、どうかしたんですか、と尋ねるのも妙であるから、黙って観察しているしかない。駅全体が化けの皮をかぶっているのに、あなたはそれを剥がすことができずにいる。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

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